入学式後の可愛いなきごえ

綿天モグ

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番外編

名無しの手紙

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 ピーピーピー!

「うわっ!何なになに?!」

 けたたましい電子音が鳴り響き、アルトはベッドから飛び起きた。

「ジン?ジン?あれ、いないの?リト?リトは?」

 それは火災探知器と似た音だけど少し違う。夫と子供の安否を、と寝室の扉に近づくとそこには一枚の便箋が貼ってあった。

――緑に囲まれたそこは闇の中。扉を開き明かりを灯すと答えが見つかる

 差出人が書かれていないが、特徴ある角ばった文字にアルトは微笑んだ。

「えっと、緑で、暗くて、扉でしょ?なぞなぞかな。あ!」

 気づくと電子音は消えていた。
 いつもは隣で目を覚まし優しく起こしてくれるジンも、子供部屋にいるはずのリトもいない。どちらかと言うと騒がしいこの家は、今朝だけアルト以外もぬけの殻らしい。

 「冷蔵庫、かな?」

 野菜は緑、扉が閉じていれば暗いけど、開けば電気が付き明るくなる。
 予想通り開けば、そこにはもう一枚の便箋があった。

 ――おおきなくちでてがみをたべるものなあに?

 これもまた、差出人は書いていない。流行りのキャラクターが描かれた便箋に、子供らしい丸字にアルトの心は躍った。
 名無しの差出人は2人のようだ。何が目的だかわからないが、なぞなぞを仕掛けてくる。

「大きな口、手紙……ん!郵便受け!」

 カーディガンを羽織り、パタパタと玄関を出るとアルトは真っ赤な郵便受けを開いた。
 この家を買ったときにはなかったこれは、息子のリトがどうしても赤が良いというから3人で選んできたものだ。

「あった!あ、もう1枚……?」

――羽根があるけど飛べない『き』ってなぁに?

 「羽根……?」

 頭を捻らせても何も思いつかない。名無しの差出人のなぞなぞは難易度が上がったようだ。

 「羽根がついた『き』……扇風、機?」

 家の中に戻り、リビングの端に置かれた扇風機に近づくとそこには、思った通り手紙が貼ってあった。

——遅刻だ、遅刻、とっても大事な日に!ダメだ、遅刻すれすれ、庭に行かなきゃ!話してる時間はないんだ、バイバイさよならはまた今度。庭に行かなきゃ!

 「んん……?」

 時計を手に走るうさぎが描かれた便箋には差出人はない。几帳面な文字で書かれた文章は、リトが好きな歌に似たものだ。

 「庭に行けばいいのかなぁ?」

 なぞなぞ、とはまた違う気がする。これは指示なのかもしれない、とアルトは裏庭に向かった。


 「パパ!おたんじょうびおめでとぉ!!」


 パーンっとクラッカーの音が耳に刺さる。わっと目を見張ったアルトに抱き着いてきたのはうさぎの耳を頭につけたアルトだった。

 「たんじょう、び?」
 
 「なんだ、自分の誕生日を忘れたのか?」

 「ジン!」

 「おはよう、アルト。謎解きは楽しめたか?」

 
 腰にまとわりつく息子をそのままに、細身のアルトを抱き寄せたのはジンだ。シルクハットを被った夫の姿にアルトは見惚れ頬を赤くする。

 「似合ってるね」
 
 「おもちゃの帽子がか?」
 「うん、物語の世界から出てきたみたい」

 「それではお姫様、こちらにどうぞ」

 わざとらしくお辞儀をし手を差し出したジンにアルトは笑った。ふと向こうを見ると、ピクニックテーブルに朝ごはんが用意されている。

 「ねーねー!はやくぅ!あさごはんたべよ!」

 「そうだね、僕、お腹すいちゃった」

 「あのね、これ、リトがつくったの」

 「え?ほんとに?」

 「俺が手伝ったけどな」

 「おとうさん、それはないしょだよ!」

 「ふふ」

 「食べ終わったら出かけるからな」

  
 名無しの手紙を手にアルトは席についた。
 誕生日はまだ始まったばかりのようだ。
 

《名無しの手紙 終》
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