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駒鳥は何処へ行く?
挿話_風の神
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初めに生まれた地母神と、次々生まれる妹神達。
其れは、全ての妹神達が地に鎮まった後の事だった。
新しい神が生まれなくなって久しい頃に、噂話が廻って来た。
何でもとっても不気味なものが、西の方を徘徊しているそうな。
地母神と春の神は顔を見合わせる。
行ってみようかと云う事になって。行ってみようよと云う事になった。
揃って遊山の西の果て。
其処で見つけた若い神。冬の容の彼は居た。
銀の髪に青の瞳。_中身は地母神と重ならぬもの全て。
驚いた。お前の中には妾が居ない。妾の中にはお前が居ない。
全くの異質。全くの謎。_子の父に相応しい。
風の神は地母神の、誰も入った事の無い胎に種を蒔いた。
同じ冬の容でも、春の神は何せ全て全てが地母神と逆しまであった。
其れはつまり地母神と彼が “同じ”と云う事だった。
だから、初まりの地母神が、風の神を子らの父に選ぶのは必然だった。
そして、彼に添うのが常で無い事も必然だった。
まろく膨らんだ腹を優しく擦る地母神と、地母神に付き添い笑い合う春の神。
※
此れは誰だ。
此の世界の全てを持っている。
此れは誰だ?
_如何すれば、手に入る?
※
腹を擦る。
産み月まで、あと少し。
扉を開き、内に入る。
赤い雫が地に落ちて、糸が流れるように地を這った。
うねり近づく其の液体で出来た糸は、あと少しの処で動きを止めた。
鉄錆の香り。
誰かの背中。足元の見慣れた髪色。広がる_赤。
「春!」
血相変えて駆け寄るところを、床に引きずり倒され衣を破られた。
貌一面に朱の水玉を散らした風の神は、逆光の中、心底愉しそうに笑った。
制止も無視され、許しも無く押し入られた処は無残に壊され、胎に子種を吐き出される。幾度揺さぶられ、吐き出されたのか。
満足げに引き抜かれた其処から、内腿に風の神の白い精、そして、地母神の朱が滴る。
震える唇。噛み締められた唇。
流された赤。
更に伸ばされる手に、
力がようやっと正しく巡る。
_失せろ、下郎。
驚きに見開かれた眼差しの残像残して、目の前から体が消える。
「春、春…」
家の中は夜。
陽光も無く、人々の笑い声も無い。
しかし、其れに意味も無い。
裾を血と仇の精で汚しながら、這いずる様にして半身に近づく。
「春」
引き千切られた首が、無惨。
胸元には大穴。心の臓は_無い。零れ落ちた血は既に温度を失くした。
「春、春」
零れ落ちてしまったものが、もう戻せない。
泣き、縋り付いて。
唐突に、_其れは来た。
「あ?」
ずぐりと痛む。
腹、痛み。
____痛い!痛い!!
床を掻く。指先に更なる赤が滲む、縋りつく半身の躯。
怨嗟と泣き声と、死の穢れの中で。 新しい神々は生まれた。
地母神が生んだ神は全部で4神。
豊穣の神
破壊と再生の神
お終いの神
記録の神
※
産まれ落ちた子らを布で包み、
奪われ、_残ったものを見下ろした。
手の内から逃げていくものを、留めておけぬものを、如何にか如何にかと思った。
零れ落ちてしまったお前を少しでも搔き集めたくて。
誰にも何にも渡したくなくて。
肉を裂いて、胆に腸に噛みつき嚙み砕き、喉奥_其の先の虚へと落とし込む。
腹の中。
全て喰らってしまえば、もう、失ったりせずに。妾の存在する限り、お前は妾と共にある。
しかし、
骨は困った。此のままでは流石に食えぬ。
目についた大鍋、大竈。
鍋に骨を入れ、火に掛ける。ぐつりぐつりと煮込み崩して、骨の髄まで残さずに。
そして
全ては地母神の腹の中。
何時しか其の容は夏から冬へ。
知る。
己の夏が傷つき隠れた。己でさえも触れられぬ処に。
だが、其れにも矢張り意味はない。
何時の間にやら竈の火は絶えて、何時の間にやら大鍋も壊れた。
そして春は最早_亡い。
其れは、全ての妹神達が地に鎮まった後の事だった。
新しい神が生まれなくなって久しい頃に、噂話が廻って来た。
何でもとっても不気味なものが、西の方を徘徊しているそうな。
地母神と春の神は顔を見合わせる。
行ってみようかと云う事になって。行ってみようよと云う事になった。
揃って遊山の西の果て。
其処で見つけた若い神。冬の容の彼は居た。
銀の髪に青の瞳。_中身は地母神と重ならぬもの全て。
驚いた。お前の中には妾が居ない。妾の中にはお前が居ない。
全くの異質。全くの謎。_子の父に相応しい。
風の神は地母神の、誰も入った事の無い胎に種を蒔いた。
同じ冬の容でも、春の神は何せ全て全てが地母神と逆しまであった。
其れはつまり地母神と彼が “同じ”と云う事だった。
だから、初まりの地母神が、風の神を子らの父に選ぶのは必然だった。
そして、彼に添うのが常で無い事も必然だった。
まろく膨らんだ腹を優しく擦る地母神と、地母神に付き添い笑い合う春の神。
※
此れは誰だ。
此の世界の全てを持っている。
此れは誰だ?
_如何すれば、手に入る?
※
腹を擦る。
産み月まで、あと少し。
扉を開き、内に入る。
赤い雫が地に落ちて、糸が流れるように地を這った。
うねり近づく其の液体で出来た糸は、あと少しの処で動きを止めた。
鉄錆の香り。
誰かの背中。足元の見慣れた髪色。広がる_赤。
「春!」
血相変えて駆け寄るところを、床に引きずり倒され衣を破られた。
貌一面に朱の水玉を散らした風の神は、逆光の中、心底愉しそうに笑った。
制止も無視され、許しも無く押し入られた処は無残に壊され、胎に子種を吐き出される。幾度揺さぶられ、吐き出されたのか。
満足げに引き抜かれた其処から、内腿に風の神の白い精、そして、地母神の朱が滴る。
震える唇。噛み締められた唇。
流された赤。
更に伸ばされる手に、
力がようやっと正しく巡る。
_失せろ、下郎。
驚きに見開かれた眼差しの残像残して、目の前から体が消える。
「春、春…」
家の中は夜。
陽光も無く、人々の笑い声も無い。
しかし、其れに意味も無い。
裾を血と仇の精で汚しながら、這いずる様にして半身に近づく。
「春」
引き千切られた首が、無惨。
胸元には大穴。心の臓は_無い。零れ落ちた血は既に温度を失くした。
「春、春」
零れ落ちてしまったものが、もう戻せない。
泣き、縋り付いて。
唐突に、_其れは来た。
「あ?」
ずぐりと痛む。
腹、痛み。
____痛い!痛い!!
床を掻く。指先に更なる赤が滲む、縋りつく半身の躯。
怨嗟と泣き声と、死の穢れの中で。 新しい神々は生まれた。
地母神が生んだ神は全部で4神。
豊穣の神
破壊と再生の神
お終いの神
記録の神
※
産まれ落ちた子らを布で包み、
奪われ、_残ったものを見下ろした。
手の内から逃げていくものを、留めておけぬものを、如何にか如何にかと思った。
零れ落ちてしまったお前を少しでも搔き集めたくて。
誰にも何にも渡したくなくて。
肉を裂いて、胆に腸に噛みつき嚙み砕き、喉奥_其の先の虚へと落とし込む。
腹の中。
全て喰らってしまえば、もう、失ったりせずに。妾の存在する限り、お前は妾と共にある。
しかし、
骨は困った。此のままでは流石に食えぬ。
目についた大鍋、大竈。
鍋に骨を入れ、火に掛ける。ぐつりぐつりと煮込み崩して、骨の髄まで残さずに。
そして
全ては地母神の腹の中。
何時しか其の容は夏から冬へ。
知る。
己の夏が傷つき隠れた。己でさえも触れられぬ処に。
だが、其れにも矢張り意味はない。
何時の間にやら竈の火は絶えて、何時の間にやら大鍋も壊れた。
そして春は最早_亡い。
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