Lost Fiction

湯月@重陽

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女王殺し

楽園の鳥

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 飛び出す片割れを、無理に留めることは出来ないと知っていた。
 只、片割れにとって此の国が魅力的である限り、片割れの止まり木の一つであり続ける事が出来ると信じたかった。


 飛んでゆけ。そして、戻って来い。
 鳥よ、鳥よ、_私の片割れ。
 
 私の半分。





 どれほど堅牢を極めた城も、完全な閉鎖系ではない。天然の岩壁に囲まれた此処は防備に長けるが、其れは通路がないと同義ではない。

 彼は、知る人も少ない細路地の、入り口付近に立っていた。足下に置かれたズタ袋は歪に膨らんで、何やら硬いものでも入っていそうだ。

「"鳥"」
「"止まり木"」
 
 呼びかけに振り向いた彼は両手を拡げる。歩み寄り、其の腕の中。

「おかえり。"鳥"」
「ただいま。"止まり木"」

 腕いっぱいに、抱き締め合う。

 片割れの帰還は、此の身の慶び。





 湯を浴びてサッパリとした片割れは、早々に寝台に寝転んだ。

「暫く、野宿野宿で身がキツかった」
「お前。使えば良かっただろ、非常用資金」
「何があるか分からんのに、そんな怖い事出来るかよ」
「…まあ、其れはそうか」
 
「何ぞあったか、片割れ。」
「うん?」
「浮かぬ顔だ」指差す眉間。
 思わず押さえた、眉間。_溜め息。

「変わらぬ、が、憂鬱」
「其れは、また悩みが深い」
「そうとも」

 投げ出す身体。寝台に。
 身を寄せてつくられた場所に納まれば、手を伸ばして触れられる距離に片割れが居る。

「姉者は変わらず、"今日は昨日の次で、明日は今日の続き"と信じておいでの御方だからな」
「…難儀なことだ」
「全くな。

 実際の処はどうだ?片割れ」
「…余り、良い話がない」
「承知さ」

 諸国を巡って見聞を持ち帰る。片割れを誰より信じている。
 
「また一つ女の王の国が倒れ、男の王が成り代わった。戦の噂ばかりが流れて来るな」
「止められぬかぁ。此の流れも。」
 察しはしていても、実際に聴けば憂鬱。

 小卓に用意された甘橙オレンジを2つ取って、一方を片割れに渡す。明るい色の果実は、気鬱な話の良い友だ。少しはマシな気分にしてくれる。
 
「略奪ばかりが増やす術でも有るまいに。何ぞ、そうも、拙速ばかり好むものか」
「"在る"が魅力なのだろう。"作る"は、"今は無い"だ」
 そして"在る"になるには、経験と運が要る。
「…ってみん事には増えん類なんだが、」
「其処まで考えてはおらんだろう」
「…参るぅ」

 ゴロリゴロリと転がれば、胸元に招かれた。
 包まれる温もり。生まれた時からの、慣れた。
 傍にお前がいる。 _何という幸福だろう

「"王"など、苦労ばかりでホンに利の無い」
 そも、
「"王の眼""王の眼"と皆、気楽に云って呉れるが、まず、王に成れねば今頃私は墓穴の中だったんだがな」
「ああ、"試し"」
「そう、"試し"」
 "止まり木"候補が受けた。"鳥"は只ひたすらに待った。_思い出だ。
「実際、何があったんだ?」
「うん?」
「"試し"」
「あー、…"神に合う"ような事?」

 説明が難しい。と云うか、おそらく経験せねば解らん類。

 会話は途切れ。


「、私の半分。 __私は、もうじき、多分、…死ぬ。」
 見る。
 面は、静か。_眼を合わせて、笑う。
「最近、占の結果も悪い」

「共に_」
 指先が、口を抑えた。

「此の国は良く出来てる。王の力吸い上げて地に放ち、一度、王となったら国を離れれば死ぬ。
 _お前がスキだよ。私の幸い」

 あの日。母も姉も両手を挙げて私を押し込んだ。《一人しか生き残らん》"試し"を受ける私を、只一人引き留めようとしたお前。

 其れでも、"れかし"と定めたならば。

 「お前が、とてもスキだよ」



  此の世の様々、塵芥
 _数多から、たった一つ選び、此れと指差すよろこびよ。
 人の身に、生まれ果たした恍惚よ

 人の悦は、己で己が服従するものを選べること。



 _どうせなら、人の身に生まれた骨頂を知りたいと思ったのだ。



 私はアイツが欲しかった。

 アイツは"王の鳥"。
 私が王である限り、アイツは"私の鳥"。
 私が王座から滑り落ちれば、アイツは"誰かの鳥"。

 "私の鳥"と呼びたい、出来るだけ永く。
 其れだけだ。私が善き王をした 其の理由など。

 偉大なことを為して其れを崩さずに死ぬ人間は、
 結局、至極、個人的な欲のために其れをするのだ。

 偉大なこと 何て ホントはどうでもいい人間が。



 はてもさても困ったことよ
 隣国のやからが、またしても書状を送ってきおった。

 …。
 如何様にしか成らんし
 如何様にしか成り得ぬか

 さて、"決めてしまったなら、果たされねばならん"





 例えば、揺れる吊り橋を「落ちるんじゃないか?」と笑って揺らす人間は、橋が落ちないと信じ切っている。
 大きく揺らして歓声をあげ、飛び跳ねては軋ませる。
 だから負荷に耐えかね切れた蔓。
 落ち行く顔に驚きを貼り付ける。

 揺れる橋が落ちると知っている人間は、神経質なほどに慎重だ。逆に落ちない橋の存在を信じない。
 橋は、 落ちる。


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