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王の眼
酔覚めの水
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悲鳴。
直ぐ側の出口から。
--気づけば、私の身の側を影が駆け抜けて、他の出口たちに煉瓦を積んでいた。--
最早、顔も這入らぬ煉瓦の隙間から、白い指先が、溺れる人が藁を掴もうとするように暴れ出る。
慌てて退いた人波の間から、大きな槌を持った男が歩み出た。
大きく振り上げられる槌。振り下ろされる
白い指先がひしゃげ、
絶叫。
赤い華が 赤赤と 咲いて … 潰れ。白い骨が。
…違う 違う 違う違う違う 違った!
違った
違った!
…此れは、悲劇だ。
皆に必要でも、此処で起きているのは悲劇だ。
此れは悲劇だ。
例えどれ程、皆の為の聖劇でも。贄として捧げられる彼女の悲劇だ。
もしも悲劇でないと云う者が在るならば、
君よ 彼女と代わるがいい!!
…声も出せず、動く事も出来ない私を お願いだから 罵って
※
「敷居は踏むなよ。お若いの」
其れは敵対の作法だからね。
「昔は糸を張ったのさ。湾に鉄鎖を張るように。
海では今でも鎖を使うかね。
潜り跨ぐのは 訪れ。
しかし、剣もて断ち切り踏み躙るは__侵犯だ。」
母の母である人は、私の祖母であるはずの見知らぬ人は、火の番をしながら そう云った。
母の後継に定まって後、城を出ることになった。
王となる為の学びに、各地の有力者の元を周る。
_私は余りに無知だった。
母の母の家の隅。声掛けられた、見知らぬ男。
眼の前の暗い目をした男。見知った目元、母の面影。
見慣れた萎びた首 。其の片割れと名乗った人の恨み言を聞かされる。
「アレは偽りの王。妹の為に用意された活路を奪い、のうのうと生き延びた偽王」
…憐れな男。自らの悪意が跳ね返った其の結末に、今になっても気付かない。
_憐れな人だ。死を望まれていたのか。
お前さえ大人しく死んでおけば、皆幸せになったのに!!
云われたくもない悍ましい妄言が、きっと母親の心を打ち砕いた。
憐れな人だ。可哀相な人だ。あれ程までに為るのも、納得の悲劇。
…でも其れって、私達に関係あるの?
"私の不幸を思い知れ"。私達に、関係あったの?
片割れ亡くしても己の悪意に気づかぬ、此の愚かな人も。
のた打ち回り、罵倒しながらも、家族の愛を求める母も。
取り戻せると思っているの。 何を?
私の姉妹は戻らない、戻って来れない 。
何も取り戻せやしない。
時は逆戻らずに、喪った人は戻らない。
外側だけ整えたって、其処にある面々は、嘗て去って行った誰かじゃない。私は叔母様じゃない。
…そんな事も、分からないの?
分からないの、其れとも、 見る気もないの?
眼を逸らせていれば、真実は其の身を襲わないと。
無理なのに。…私達も結局、追いつかれたもの 。
おぼつかぬ足取りで、迎えの人間に半ば抱えられて帰る人の背を眺めて、いつの間にやら現れた祖母が云う。
未だ彷徨っているのか
あの茫漠を。其の心許無さを。
此の身はただ母の上。そして母の下に。
其れだけで、私達 救われるのに
…哀れよのぅ。
泣き出しそうな顔の祖母を前に、唐突に気付く。
どれ程に此の人が悲しい顔で抱き締めたところで、私の地獄も悩みも 解決なんてしない。何にも変わらない。
誰だって悲しいのだと、眼の前の人が云う。
皆が不幸なら、不幸で良いの? 不幸に皆でなりたいの?
私は笑いたい。幸せになりたい。_例え其れが、独りでも。
母がつくった、あの城は地獄。あの城を抜け出した此処も、地獄。あの城を出られさえすれば救われると、無邪気に信じた私を嗤う。
其れはそう。地獄をつくった母を、作ったのは此の世界。
私、そんな事も気付いてなかった。
直ぐ側の出口から。
--気づけば、私の身の側を影が駆け抜けて、他の出口たちに煉瓦を積んでいた。--
最早、顔も這入らぬ煉瓦の隙間から、白い指先が、溺れる人が藁を掴もうとするように暴れ出る。
慌てて退いた人波の間から、大きな槌を持った男が歩み出た。
大きく振り上げられる槌。振り下ろされる
白い指先がひしゃげ、
絶叫。
赤い華が 赤赤と 咲いて … 潰れ。白い骨が。
…違う 違う 違う違う違う 違った!
違った
違った!
…此れは、悲劇だ。
皆に必要でも、此処で起きているのは悲劇だ。
此れは悲劇だ。
例えどれ程、皆の為の聖劇でも。贄として捧げられる彼女の悲劇だ。
もしも悲劇でないと云う者が在るならば、
君よ 彼女と代わるがいい!!
…声も出せず、動く事も出来ない私を お願いだから 罵って
※
「敷居は踏むなよ。お若いの」
其れは敵対の作法だからね。
「昔は糸を張ったのさ。湾に鉄鎖を張るように。
海では今でも鎖を使うかね。
潜り跨ぐのは 訪れ。
しかし、剣もて断ち切り踏み躙るは__侵犯だ。」
母の母である人は、私の祖母であるはずの見知らぬ人は、火の番をしながら そう云った。
母の後継に定まって後、城を出ることになった。
王となる為の学びに、各地の有力者の元を周る。
_私は余りに無知だった。
母の母の家の隅。声掛けられた、見知らぬ男。
眼の前の暗い目をした男。見知った目元、母の面影。
見慣れた萎びた首 。其の片割れと名乗った人の恨み言を聞かされる。
「アレは偽りの王。妹の為に用意された活路を奪い、のうのうと生き延びた偽王」
…憐れな男。自らの悪意が跳ね返った其の結末に、今になっても気付かない。
_憐れな人だ。死を望まれていたのか。
お前さえ大人しく死んでおけば、皆幸せになったのに!!
云われたくもない悍ましい妄言が、きっと母親の心を打ち砕いた。
憐れな人だ。可哀相な人だ。あれ程までに為るのも、納得の悲劇。
…でも其れって、私達に関係あるの?
"私の不幸を思い知れ"。私達に、関係あったの?
片割れ亡くしても己の悪意に気づかぬ、此の愚かな人も。
のた打ち回り、罵倒しながらも、家族の愛を求める母も。
取り戻せると思っているの。 何を?
私の姉妹は戻らない、戻って来れない 。
何も取り戻せやしない。
時は逆戻らずに、喪った人は戻らない。
外側だけ整えたって、其処にある面々は、嘗て去って行った誰かじゃない。私は叔母様じゃない。
…そんな事も、分からないの?
分からないの、其れとも、 見る気もないの?
眼を逸らせていれば、真実は其の身を襲わないと。
無理なのに。…私達も結局、追いつかれたもの 。
おぼつかぬ足取りで、迎えの人間に半ば抱えられて帰る人の背を眺めて、いつの間にやら現れた祖母が云う。
未だ彷徨っているのか
あの茫漠を。其の心許無さを。
此の身はただ母の上。そして母の下に。
其れだけで、私達 救われるのに
…哀れよのぅ。
泣き出しそうな顔の祖母を前に、唐突に気付く。
どれ程に此の人が悲しい顔で抱き締めたところで、私の地獄も悩みも 解決なんてしない。何にも変わらない。
誰だって悲しいのだと、眼の前の人が云う。
皆が不幸なら、不幸で良いの? 不幸に皆でなりたいの?
私は笑いたい。幸せになりたい。_例え其れが、独りでも。
母がつくった、あの城は地獄。あの城を抜け出した此処も、地獄。あの城を出られさえすれば救われると、無邪気に信じた私を嗤う。
其れはそう。地獄をつくった母を、作ったのは此の世界。
私、そんな事も気付いてなかった。
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