魚憑き

湯月@重陽

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一章 淀む池に潜む魚

二人目

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 よくよく手入れされた鳴き廊下を、案内役の男に先導されて歩く。

「そう緊張することもありません。今日から此処が貴女の家_嫁ぎ先なのですから」
「、、、は、はイ ! 」
 勢い余った声は裏返り、やってしまったと顔を伏せる。顔は火照ほてって熱い。頭の中のうりでは、父親と母親が頭を抱えていた。案内役の男性が、一体どんな表情をしているか、恐ろしくってたまらない。

 (だってだって、うちより大きな御屋敷、初めてなんだもの)

 うちも大概大きいらしいと伝聞するのに、此の御屋敷は倍以上だ。テーマパーク以上の大きさとは、流石にどうかしている。
 右手に見える庭には四季の華。奥の大きな池には蓮が揺れて咲いていた。

 ともあれ。
 ようやっと顔の熱さがひいて、何とか前を向いた彼女は、少しばかり心配そうに此方を見る男性に気付いて、少しだけ安心した。
 そっと息を吐いて。
 _ともあれ、今日から自分は此の御家の女主人なのだと思った。
 父からも母からも、栄誉な事だから能々務めるようにと口が酸っぱく成る程に言われたのだ。

 (頑張らなくっちゃ)

 光射す庭に、彼女は今日からの明るい未来を思った。

 のに。

 バタバタと足が宙を掻く。ガリガリ指は喉を掻き毟る。

「あ"っッッゴッッボ、ぅ」

 足掻いている。足掻いている。_首筋に架かった縄に。 
 陸に上げられて跳ねる魚の様に。

※※

 熱々の鉄板の上で跳ねる脂が食欲を唆った。「お待たせしました」の一言と共に、目の前に置かれた皿。ミディアムレアに焼かれた肉は焦げ茶から赤を覗かせて、ナイフを入れると溢れる肉汁が音を立てた。大きく切り取って口を開ける。多少行儀が悪くとも、個室なので問題無い。
 摩り下ろし玉ねぎを加えたソースが、甘辛くって肉と米に良く合った。付け合わせのサラダで口を休めて、もう一口。

 スマホが鳴った。

「野辺です。はいはい、どーも。…例の件です?」

「…承知しました。10分以内に向かいます」
 
 通話を切って、テーブルに備えられたベルを鳴らす。直ぐにやって来た店員に皿を指して訊ねる。
 
「すみません、これ。持ち帰りに包むって出来ます?」


※※※


 雨の日は、淡色の世界と溶けてしまいそうな気がする。
 空から降る水と、地に横たわる水が混じる空間。
 ペールの涼しげで儚い色が、現れては翻る。オレンジ、グリーン、ピンク、パープル、ブルー。
 流されるように踊るように魚達は泳ぐ。
 ゆらりと、黒い尾鰭が揺れる。



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