約束の続き

夜空のかけら

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第9章 理の使命2

82 存在するという意味

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なんだかんだあって、孤児院に行くことになりました。
私が行くことになったのは、商人魂という街区の孤児院で、朝っぱらから市場の声がうるさいところです。そこで、私と同じように孤児院を紹介されて働いている人たちに混じって、孤児たちの世話をしています。
その人たちに話を聞こうとすると、なぜか口に指で✕を作って、しゃべれないような感じを出しています。あらかじめ、エリーさんに意思疎通を会話以外でもいいか?と聞いたところ、頻繁でなければいいとOKをもらっていたので、それで話すことに。
話しかけたのは、いつも剣を振っているお兄さん。お昼休み後で、孤児たちのお昼寝の時間中のこと。
「あ、私これが使えます。無理に言葉を出さなくても大丈夫です。」
「お…、ああ、なるほど。国王さまと同じだね。久しぶりなので、びっくりした。」
「ちょっとお話したいのですが、いいですか?」
「いいよ。どんなこと?」
「では、ここに来るようになったのは、どうしてですか?」
「うーん、良く分からないんだよね。気が付いたら、ここに居た。という感じで。」
「気が付いたら…ということは、別の場所からここに来たのですか?」
「たぶん。でも、それ以前という部分があるはずなのに、記憶があいまいで、こう…なんていうのかな、ガラス越しに見えそうで見えない、もどかしい感じとか。」
「…なんとなく、分かったような分からないような。」
「それは、分からないと同じでは?」
相手のつぶやきが聞こえなかったように、装って…
「で、さっきの✕はなんなのです?」
「ああ、ここで使う言葉がまだ満足に使えなかったから、意思疎通ができないと思ったからさ。」
「なるほどね。でも、私はこれがあるから、言葉を話せなくても問題はないと思います。」
「あれ?聞いていないかな。この孤児院から別の仕事に移る際は、言葉を習得していないと移れないよ。仮にこういう便利なものがあっても変わらないと聞いたことがあるし、ここに来る前に持っていた能力の一部は、住めば住むのど奪われていくから直に、使えなくなるよ。例外は、王族などだけだね。」
「なっ!聞いていない…。」
独り言のつもりだったけれど、相手との接続を終えていなかったから、その声も次の声も話したり聞いたりしてしまった。
「あれ?もしかして、言ってはいけないことを話した?」
「ごめんなさい。ちょっと用事ができたので、出てきます。」
「おいおい、休憩時間が終わるから、今日はもう無理だって。」
その言葉の通り、お昼寝時間はそろそろ終わる。言い訳は聞いてもらえないから、とりあえず、明日聞きにいくことにして、周りの同僚たちと共に、孤児たちの世話をし始めた。

***

翌日、あらかじめ院長に許可をもらい、職業案内所にて、エリーに問いただす。
言葉を覚えないと転職できないと言われたって。
「あらあら、うっかりさんがいるのね。ええ、普通なら能力を封じて…いいえ、正確には結界の維持に流用させて…もらっているからね。」
「流用って、どういうことですか。まさか、勝手に能力を使っているの?なんでそんなことをしているの。能力を使えば、私と同じように言葉を習う必要がないのに。」
「そんなに興奮することではないわ。この街、なんかおかしいと思わない?」
周りを見ても、何かおかしいとは思わない。ちょっと、大きい街だとは思っているし、薄らぼんやりな記憶の中では、こういう街はいくつもあったような気がしたから。
「どこが?普通の街じゃない。」
「街に結界が張ってあるのは知っているわよね。」
「あの人がいるところでそう言っていたし、さっきも結界維持で流用とか。」
「結界とか隠蔽って、なんでそんなに面倒なことをやっているのでしょうか。しかも、街へ入れたのは、ある世界で創世の女神や破壊の神と言われた神々。さらには、なぜか、神の力を持っても、魔法使いの落ちこぼれにも封印させられるというこの街は。」
「うーん。全然分からない。」
「では、あなたのお姉さんが眠ったままなのは、なぜ?」
「存在が薄くなる?」
「存在が薄くなった理由は?」
「分からない。」
「少しは考えないと、困るわよ。」
「そんなこと言っても、お姉ちゃんと違って、頭は良くないし、創世の女神の片割れと言っても、その知識はほとんど分からないし。教えてよ。」
「創世の女神の場合、世界が生まれると同時に我が子とでもいうべき存在が世界に生まれ出る。その我が子は、自分たちを創ってくれた創世の女神を絶対なる者として信仰の対象とする。信仰の対象になった創世の女神は、存在を強化され、その世界での能力行使ができるようになる。」
「……??」
「あとで、お姉さんに聞いてね。存在を高めるために世界を創り人を創る。それらが、無くなってしまえば、自分自身を自分だと認識する相手がいないがために存在が薄くなっていく。最終的には消えてしまう。」
「消える…?」
「あなた方4人は、自分たちの存在を高めるために創った世界を壊し、その世界からの恩恵を失った。恩恵を失えば、自らの存在を別の方法で獲得しないと、壊した世界と同じように消えていく。能力に発現しているお姉さんと一緒に眠っている方は、かなり薄くなっていて、この街が回収しないと多分数日のうちに消えてた。消えてしまえば、次はあなただったかもね。」
「あの男の人は、どうなんですか?」
「あの方は、単独世界の破壊の神ではなくなっている。元々、反転魔法陣そのものになっていたこともあり、世界の破壊の際の余剰情報を他の世界の自分へ流していて、破壊大神おおかみになっている。複数の世界を同時に破壊・再生することが可能な状態。もちろん、保有している量がとんでもないので、かなりの量をこの街の維持保全と結界に流してもらっているんだけれど、それでも過剰らしくて、跳躍用の魔槽まそうを増設して、そこにも溜めてもらっている。」
「跳躍…、この場所からどこかへ行くんですか?」
「行くというか、この街は特定の世界に固定されていないの。常に移動しているから。」
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