暗殺者ホープの旅

山波斬破

文字の大きさ
3 / 5
世界一の暗殺者死す

破-2

しおりを挟む
 確かに刺した筈なのに、真新しいナイフは血にまみれていなかった。刺した感触も他とは違う不思議で体験したことのないもので魁斗の心に異様な気持ちをもたらした。

「カッカッ、まだまだ青いな」

 魁斗に反論する余力はなかった。あるのは自分という曖昧な意識。いろいろな思いがあふれてくる。矮小な自分も、自信家な自分も。

「ターゲットはドナミエトの幹部。つまり重徳、あんただ」

 惰弱な虚勢でしかないが、魁斗は自分を偽れない事を自覚した。

「父だからと気を抜けば……」

 フッと気配が消えていた。たった一瞬、いや瞬を超えた速さで重徳の輪郭がぼやけたように消えたのだ。

「こうなる。シュッ!! てな、具合に」

 手刀で、スゥっと服だけ綺麗に切られていた。鮮やかな手並みで魁斗は微動すら出来なかった。

 重徳は既に、魁斗の後ろをとっていた。暗殺者にとって屈辱でしかない。僅かな、嫌悪感と自分への怒りが魁斗に湧いた。

「ボクの後ろに立つな!」

 右拳を左手で覆いながら流れるように右肘を打ちこんだ。だが、柔軟な筋肉からくる繊細な動きに力をそらされた。

「随分と直情的。素直でかわいいねー」

 スッと真横に重徳は立ち、魁斗の頭を撫でた。父と息子のただのコミュニケーションだとでもいうように。

「父ちゃん、あんたを超えたい……いや。超えてやる!!」

 丹田から、全身に血液が沸騰したように流れ出す。練気という技だった。

「思えば、仕事してるのに煙草を吸うあんたはおかしかったよ。臭いをわざわざ消していたのに」

「カッカッ、今さらだな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...