16 / 18
14.それから(終)
しおりを挟むルフォンス伯爵領はそれから大きな発展を遂げた。
伯爵領の中心都市のヤーマは街道の完成に伴い今や国の交易の中心地になりつつある。
ヨークス海岸は高級リゾートとなった。ヨークス海岸もヤーマも人の流入が増えて治安が一時悪くなったが、自警団の強化やクロヴィス様が完成させた防犯の魔具のお蔭で治安は回復。
今は小さな路地に女性一人で入れるほどの安全な街になった。
「次の休暇で、ピカリーノ公爵夫妻とご子息がヨークス海岸に来るそうだ。それでホテルゼッリンに宿泊する事になる。」
「まあ!では、わたくし達もお出迎えをしなければ。」
ホテルゼッリンは高級ホテルで、我がルフォンス伯爵家が経営している。
そしてそのホテルは、滞在中に新作魔具が使えると話題になっていて王都でも人気だ。
もちろんその新作魔具はクロヴィス様の作ったもの。
「ピカリーノ公爵か……。」
クロヴィス様はどことなく嫌そう。けれど、私はクラーラ様も一緒だし、ピカリーノ公爵夫妻の噂は聞いていたから平気だと思った。クロヴィス様はクラーラ様の変身を知らない……。
ふわふわ令嬢だったクラーラ様が国一番の淑女になる劇的変化は実際に見てないと信じられないだろう。
「ふふ。きっと大丈夫ですわ。」
クロヴィス様を安心させるよう微笑んだつもりなのに、彼の目には私は無防備に映ったみたい。
「出迎えるときには俺も同席しよう。」
クロヴィス様はお義母様の見舞いに行く予定だったけれど日程を延期した。
お義母様の病気の原因は水に溶ける鉱物の関節への蓄積だと最近になって判明した。長く原因不明だったから諦めていたけれど、お義母様はクロヴィス様の改良した水の浄化の魔具を使用し病気の進行を食い止めている。
義両親は今、田舎町で夫婦二人でゆっくりと療養していた。
☆
迎えたピカリーノ公爵家宿泊の日。
ピカッと輝く髪型のお二人と、ふわふわした金髪の男の子が揃って豪奢な馬車から降りてきた。
隣に立つクロヴィス様は私の腰をぐっと自分の方に近づけた。元婚約者だから気にしているのかも……。
でも、クロヴィス様!外見よく見て!
学園時代とはすっかり別人だから。
「ようこそ。ピカリーノ公爵、公爵夫人。当ホテルへの滞在を嬉しく思います。」
それでもクロヴィス様は苦手な営業スマイルを何とか作り、礼儀正しく夫妻を出迎えた。
私もそれに続いてカーテシーをとり、夫妻に歓迎を伝える。
定規のような真っ直ぐな姿勢のピカリーノ公爵と全く揺れずに滑るように移動する夫人は、ツリメーノ公爵夫妻の遺伝子を引き継いでいるみたい。後ろからついてくるご子息はぴょんぴょんと跳ねるように歩いていて、元気が有り余っている。
「クロヴィス先生!学園時代にはお世話になりました。至らぬ生徒で申し訳なかったです。」
意外な事に、フレンドリーに話し掛けてきたのはピカリーノ公爵だった。彼は学園時代、私を探して何度も先生の研究室に押し掛けた事を謝っているのだろう。
「いえ、昔の事です。」
クロヴィス様はディアーク殿下の変わりように面食らって、目をパチパチと瞬かせた。
「レイチェル様、ご無沙汰してます。今日からお世話になります。クロヴィス先生の魔具が大変な話題でこのホテルに来たいと息子が言ってまして……。クロヴィス先生は学園をお辞めになった後も研究を続けていらしたんですね。なんて素晴らしい。」
クラーラ様は慈愛の籠った優しい目で、自分の子供を見下ろした。学園時代とは違う、包み込むような母親らしい雰囲気。
「お部屋にはお子様向けの魔具も用意してございます。夜、灯りが消えた後には、天井に星空が出現する仕掛けもございますわ。どうぞごゆるりとお過ごしください。」
夫妻が挨拶を交わしてホテルに入って行くと、夫人と手を繋いだジークアルト様が母親の手を振りほどき、ホテルのロビーに飾ってある鏡に向かって走っていった。
「みちゅけたっ!!」
「ジークっ!!」
「ジークアルトっ!!」
両親の制止も聞かず、ジークアルトさまは鏡の前でイケメンポーズを繰り出した。
「ぼくぅーっ、ぷふぁーフェクトっ!!」
あっ……。
鏡に向かって斜め40度に構え顎に手を当てアンニュイに微笑む。そのポーズは10才の頃の殿下にそっくりで……。
あの殿下のナルシストは遺伝だったのね。
クロヴィス様は私の手を握った。そして、息子を追いかけるピカリーノ公爵夫妻の後ろ姿を見て「大変そうだな。」と呟く。
そして、私のお腹に向かって「ナルシストにはなるなよ。」と話し掛けた。
その表情は、真剣そのもの。
そんなクロヴィス様を見て、私はお腹を撫でながらクスクス笑った。
ーーー(完)ーーー
ここまで、読んでくださった方。
ヘンテコなお話にお付き合いいただきありがとうございました。
116
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
えっ私人間だったんです?
ハートリオ
恋愛
生まれた時から王女アルデアの【魔力】として生き、16年。
魔力持ちとして帝国から呼ばれたアルデアと共に帝国を訪れ、気が進まないまま歓迎パーティーへ付いて行く【魔力】。
頭からスッポリと灰色ベールを被っている【魔力】は皇太子ファルコに疑惑の目を向けられて…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる