異界からの救世主が来て、聖女の私はお役御免です。

文字の大きさ
3 / 26

実家

しおりを挟む

「おかえりリズっ!!」

 オルフェ伯爵家に戻ると、両親と兄が私を出迎えてくれた。

 あまりに慌ただしく神殿を追い出されたから、実家に連絡してあるのか心配だったけれど、ちゃんと家族は私を出迎えてくれた。

 久しぶり戻った実家の屋敷は記憶より少し小さくて、出迎えてくれた使用人たちも幾分年をとっていた。
 それだけ長い間離れていたのだろう。

「ごめんなさい。突然戻ってくることになって……」

「何を言ってるんだ。謝ることなど無いさ。娘が家に戻って来れるようになったんだ。これ以上嬉しいことは無い。リズリーネ、君は聖女としての役目を立派に果たして来たんだ。胸を張って戻ってくれば良い」

 私が頭を下げるとお父様はポンっと優しく肩を叩いた。慈しみに溢れた視線と言葉は、じんわりと胸の中を温かくしてくれた。
 
「そうよ。リズ。貴女は良くやったわ」

 そう言うと、母の柔らかな胸に抱きしめられた。
 家族ってやっぱり良いな。

 18歳になった今でも母の匂いはホッとする。

 神殿で私は大切に扱われてきたし、付き人たちもとても親切だった。だけど、親の愛情は全然別物。
 包み込むような優しさを感じるのは、やはり両親からだけだ。

 10年以上過ごした神殿は、出ていく時には見送りも無くてとても寂しかった。
 
 まあ、神官長に神託があり救世主が現れるなんて出来事は歴史書でも読んだことが無い。舞い上がってしまうのも当然だと思うけど。




 その夜は家族揃っての久しぶりの晩餐。

「リズ、好物は変わって無いかい?今日は料理長がリズの好物をたくさん準備してくれたよ」

「ありがとう、兄さま。神殿ではお野菜と果物ばかりだったから……正直何が好きだったか、忘れてしまったの」

「そうか……。俺は小さなリズが鴨肉のローストにマンゴーソースを掛けたものが好きだった記憶があるが……」

「うーん、覚えてないわ」

「そうかい?いつも俺の分も分けてあげてたのに?」

「ごめんなさい。ふふっ、でもお肉なんて久しぶりだわ。神殿ではお肉もお魚も禁止されていたから……鴨肉なんて楽しみっ」

 神殿でも料理はたくさん並んでいたけど、味付けも薄いし、お肉もお魚も無くて……

「美味しいっっ」

 舌に感じる油や塩気が美味しくてたまらない。マンゴーのソースは甘じょっぱくて鴨肉に油を口の中でさっぱりと包んでくれた。

「ああ、美味しい。幸せ~」

「思い出した?」

「ううん、覚えてないわ。だけど、美味しい!好きな味だわ」

「そうか、良かった。料理長も喜ぶよ」

「ええ!後でお礼を言わなくちゃ!」

 家族4人揃った晩餐は、私が一人で喋っていた。
 離れて暮らしていた10年分、たくさん話したいことが溜まっていたのかもしれない。

 両親もお兄様もずーっと聞き役。神殿では物静かなんて言われていたけど、家族相手だと話をするのが楽しかった。

「そうだ、リズ、明日からしばらくお妃教育は中止すると連絡があった」

「何かあったのかしら?」

「突然救世主が現れたものだから、救世主をどう扱うか、王宮でも大騒ぎになっているようだ」

「そうなんですね。でも、国が平和になるのなら良かったです」

「ああ、そうだな。私も愛する娘が戻ってきたし、嬉しいことばかりだ」

 お妃教育もお祈りの儀式もないなんて嬉しい。

 朝早く起きなくていいから、私はお母様と一緒に夜更かししながら、久しぶりにのんびりと過ごした。

    
しおりを挟む
感想 144

あなたにおすすめの小説

召喚聖女が来たのでお前は用済みだと追放されましたが、今更帰って来いと言われても無理ですから

神崎 ルナ
恋愛
 アイリーンは聖女のお役目を10年以上してきた。    だが、今回とても強い力を持った聖女を異世界から召喚できた、ということでアイリーンは婚約破棄され、さらに冤罪を着せられ、国外追放されてしまう。  その後、異世界から召喚された聖女は能力は高いがさぼり癖がひどく、これならばアイリーンの方が何倍もマシ、と迎えが来るが既にアイリーンは新しい生活を手に入れていた。  

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

過去の青き聖女、未来の白き令嬢

手嶋ゆき
恋愛
私は聖女で、その結婚相手は王子様だと前から決まっていた。聖女を国につなぎ止めるだけの結婚。そして、聖女の力はいずれ王国にとって不要になる。 一方、外見も内面も私が勝てないような公爵家の「白き令嬢」が王子に近づいていた。

黒の聖女、白の聖女に復讐したい

夜桜
恋愛
婚約破棄だ。 その言葉を口にした瞬間、婚約者は死ぬ。 黒の聖女・エイトは伯爵と婚約していた。 だが、伯爵は白の聖女として有名なエイトの妹と関係をもっていた。 だから、言ってはならない“あの言葉”を口にした瞬間、伯爵は罰を受けるのだった。 ※イラストは登場人物の『アインス』です

聖水を作り続ける聖女 〜 婚約破棄しておきながら、今さら欲しいと言われても困ります!〜

手嶋ゆき
恋愛
 「ユリエ!! お前との婚約は破棄だ! 今すぐこの国から出て行け!」  バッド王太子殿下に突然婚約破棄されたユリエ。  さらにユリエの妹が、追い打ちをかける。  窮地に立たされるユリエだったが、彼女を救おうと抱きかかえる者がいた——。 ※一万文字以内の短編です。 ※小説家になろう様など他サイトにも投稿しています。

「次点の聖女」

手嶋ゆき
恋愛
 何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。  私は「次点の聖女」と呼ばれていた。  約一万文字強で完結します。  小説家になろう様にも掲載しています。

結婚するので姉様は出ていってもらえますか?

基本二度寝
恋愛
聖女の誕生に国全体が沸き立った。 気を良くした国王は貴族に前祝いと様々な物を与えた。 そして底辺貴族の我が男爵家にも贈り物を下さった。 家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。 そして妹の婚約まで決まった。 特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。 ※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。 ※えろが追加される場合はr−18に変更します。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

処理中です...