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聖女の犠牲
しおりを挟むアルフレード殿下視点
薄っすらと重い瞼を上げると、見慣れない天井が見えて、再び目を閉じた。
俺は何をしていたんだ?
ぼんやりとした頭で必死に記憶を辿り、ようやく倒れる前の事ーー
救世主に刺された事を思い出した。
「……殿下?目を覚まされましたか?」
「ん……ルドルフ……そうだっ!リズは?救世主は?どうなったんだ?」
侍従であるルドルフは目を伏せ、静かに首を振った。
「何があったんだ?」
身体を起こそうとすると、背中に引き攣れるような痛みが走って、思わず顔を顰めた。
「その事は後ほど。先に侍医を呼んで参ります」
俺にそう言い残すと、ルドルフはバタバタと部屋を出ていった。
俺は何日間眠っていたのだろう。
その間に、この国には何が起こった?
リズリーネは?
悪い想像が頭を過る。
部屋に残された護衛兵士は、唇を引き結んだまま俺から目を反らせた。
侍医の診察が終わると、ルドルフは俺が意識を失っていた間に起こった出来事を教えてくれた。
救世主が守護水晶を破壊したことで、空の色が変わり、国中が大騒ぎになったこと。
結界が不安定になった原因が救世主だと知って、国民が神殿に押し寄せたこと。
そしてーー
新たな結界を作るため、リズリーネが犠牲になった事。
「まさか……リズリーネが?」
「はい。結界を張る方法を調べ、陛下やご両親へ相談することも無く、そのまま祈りの間へ向かったそうです」
「そんな……」
リズリーネは新しい結界を張る作業が命懸けだと知り、救世主に頼ることなく自らその命を捧げたそうだ。
「殿下への手紙を預っております」
ルドルフから白い封筒を渡された。表には見慣れた文字で俺の名前が書かれていた。
リズリーネらしい、線の細い整った文字。
便箋を開くとそこには
『あの時は分からなかったけれど、私もきっと殿下のことが好きでした』
そう、短い一文が書かれていた。
あの日、俺の告白の答えだろうか?
涙で文字が滲む。
彼女は、国のために自らを犠牲にした。
あの横暴で自分勝手な救世主にさえ、彼女は情けをかけたのだ。
「リズリーネ、リズリーネ……」
俺は手紙を胸に抱きしめ、愛おしい人の名前を何度も呟いた。
「しばらく一人にしてくれ」
侍従と護衛を部屋から出し、ひとしきり俺は泣いた。
彼女が、リズリーネが居ないなんて……。信じたくないと思いながらも、心の奥底では知っていた。
彼女なら国を助けるために迷い無く自分を犠牲にする。その事に確信があった。
リズリーネが好きだった。
だから、彼女が俺から開放されて幸せになれるならいいと思った。
9歳の頃。既に大人びていて凛としていたリズリーネの横顔を思い出す。
置いてけぼりになった自分が情けなくて。
長く悲しんでいられない。
俺にはまだやるべき事がある。
☆
「……彼女の遺体は?」
どうにか平静さを取り戻した後、今の俺の身体で出来ることを探そうと思った。まだ、傷の痛みはあるし、毒の影響で身体も思うようには動かない。
「それが……、リズリーネ様の身体はその場から霧散するように消えてしまったそうで……」
「俺は、弔うことすら許されないのか……」
侍従の肩を借り王宮の外に出ると、空は見慣れた青色で……。
王宮内も、そんな騒ぎがあったことが嘘のように静かだった。
「この空が暗赤色になったと言うのか?」
「はい。国民は不安に陥り大混乱となりました。けれど、リズリーネ様の結界によって、空が青さを取り戻し、国民はリズリーネ様への感謝を示すため、神殿に列を作って祈りを捧げております。救世主を支持していた神官長は、国民の怒りをかい、神殿を追放されました。その時、一部の民から暴行を受けましたのでこちらで保護しております」
「して、救世主は?」
「地下牢に。殿下が意識を取り戻した後、証言を得て裁判を開く手筈になっております」
「……そうか」
救世主の地下牢での様子は相変わらずらしい。
自分しかこの国を救えないと高を括り、横暴な言動は変わっていないと言う。
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俺達は無様に振り回され、リズリーネを喪ってしまった。
リズリーネは、正に聖女だった。
誰にでも優しく高潔で……。
リズリーネは俺と家族、そして友人に短い手紙だけ残し、祈りの間に向かったそうだ。
誰とも言葉を交わすことなく、未練が残るからと、潔くこの世を去った。
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