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恋人のふり?
しおりを挟む※ちょっと時間が遡ります。
私とシリル様が恋人同士だという噂は瞬く間に広がった。
シリル様ってば帰国してまだ3ヶ月なのに、今や社交界ナンバーワンの人気らしい。彼の異名は『氷の貴公子様』
この国の令嬢たちが好みそうな二つ名だと思う。
シリル様は帰国後忙しかったみたいだけど、ようやく落ち着いたとデートを申し込まれた。
「恋人って、夜会でエスコートしてくださるだけで充分ですのよ?」
「敬語!戻ってるよ、ヴィア」
シリル様は指先で私のおでこをつんッと押した。
ちょっと意地悪なその仕草。なのに、私を見る目が優しいから胸がぎゅっとなる。
「あっ、ごめんなさい、じゃ無かった。……ごめんね」
「うん。これから少しずつ慣れていこう。ヴィアと恋人だっていう噂を流してから、僕へのアプローチは減ったから助かってる。
だけど、もう少し恋人として自然に見えるようにしないとね。じゃ、当日、楽しみにしてる」
シリル様は私の手を取り指先に口づけた。
彼は恋人の演技がとても上手い。エスコートもスマートだし、さり気なく私に触れてくる。
私は慣れていないから、その度にドキドキしてしまうのが、なんだか悔しい。
シリル様ってこんな雰囲気の子では無かった。
元生徒っていっても、そんなに懐かれていた印象は無い。人見知りだったのか、思い出すのは不機嫌な顔や照れた表情ばかり。
留学して変わったのかな?
本当の恋人だと錯覚しそうになって困る。彼は社交界の人気者だから、いずれ可愛い婚約者を見つけるのに……。
~・~・~・~・~
デートの日は晴天。
シリル様は黒っぽいシャツと薄灰のジャケットにスッキリタイトなスラックスという出で立ち。
なんだか、年齢より大人っぽくみえる。
一方の私は、深い青の無地のワンピース。縦のラインを強調するデザインで、ウエストもしっかり絞ってあるから、太ってみえることはない……と思う。
ちょっとだけ首元が開きすぎているから、光沢のある水色のストールを羽織って胸を隠した。
「シリル……かっこいい」
「ありがとう。ヴィア、君も今日のワンピース、とってもよく似合ってるよ」
氷の貴公子様は、私をじっくりと見た後、天使のような微笑みを浮かべた。
「……あ、ああ、ありがと」
ニヤつきそうになるのが恥ずかしくて、下を向いてお礼を言った。
本当はこんな時は笑顔を向けて『ありがとう』って言った方が可愛いのに……。
実は夜遅くまで悩み抜いてこのワンピースを着ていくことに決めた。なのに、ウキウキしていたことがバレるのが恥ずかしくて、クールに振る舞ってしまう。こんな時に素直に笑えない自分が嫌になっちゃう。
偽物とはいえ、初めてのデート。少しでも可愛いと思ってもらいたい。
「さあ、行きましょう」
シリル様に腕を差し出され遠慮がちに手を置くと、その手をぐっと引かれて深く腕を組むようにされた。思わず彼の顔を見ると余裕の笑顔。
慣れてる……。
ラナンクルスは『自由恋愛の国』
シリル様も向こうでたくさんの恋愛をしてきたのかもしれない。
私はシリル様より七歳も年上なのに、恋愛初心者。もっとしっかりしなくちゃ。
アンドレア様とだってデートに行ったことは無いから、本当にどうしていい分からない。
生徒だった少年とデートだなんて不思議な気分。だって、彼はまるで別人みたいだもの。
朝からドキドキしていて、すでに心臓は限界をむかえそうなほど高鳴っていた……。
「わあーーっ!きれー」
「そんな感動してもらえるなんて、良かった」
シリル様が連れてってくれたのはルードスの湖を一周する遊覧船のレストラン。
王都に隣接するその湖は貴族令嬢の間でも話題の場所。
太陽の光で湖面が光り、水鳥たちが優雅に餌を食べている。遊覧船内のレストランでは、そんな水鳥たちと湖畔の風景を眺めながらフルコースの食事が楽しめちゃうらしい。
ニコニコと嬉しそうなシリル様にエスコートされ遊覧船に乗り込むと、きらびやかなエントランスホールが広がっていた。
船の中とは思えないほど、広くて豪華。
「まあ!広いわ」
「ああ、こんなに大きな船は僕も初めてだよ」
遊覧船なんて珍しいから、二人で船の中を一通り見て歩く事にした。
窓から見ると、水面はキラキラと宝石みたいに輝いていて、魂を抜かれそうなぐらい綺麗!
「天気が良いから、湖が眩しいぐらい。ずっと見ていても飽きないわね」
窓に張り付いて外を見ていたら、シリル様は私の背中のすぐ後ろに立って窓の外を眺めた。
「本当だ。晴れて良かった」
彼が窓に手を付くと、まるで後ろから抱きすくめられているみたい。距離が近くて、緊張する。心臓の音、聞こえちゃわないかしら?
シリル様はきっと慣れてるから平然としている。私も早く慣れないと……。
私達は湖の色と海の色の違いや、生息している魚について話をした。
ちょっと色気がない内容だとは思うけど、男性と盛り上がる会話なんて思い浮かばない。
シリル様は私に合わせてくれているのか、楽しそうに会話に応じてくれていた。
「シリル?久しぶりね」
二人で歩いていると、突然すごい美女から話しかけられた。
「ああ、アリア嬢。お久しぶりです」
「やだ、幼馴染みなのに、水臭いわ。昔みたいにアーリィで良いわよ。ラナンクルスから帰国したんですってね。全然連絡をくれないから寂しかったわ」
「忙しかったので……」
「そう。昔馴染みのよしみで許してあげる」
その女性は私をチラリと見たけれど、特に挨拶もせずにわたしなんか居ないかのように振る舞った。
シリル様は……うわっ……すごく仏頂面だわ。
見上げると恐ろしいほどの不機嫌顔。
この不機嫌そうな顔は昔の彼を思い出す。
そうそう、いつもこんな顔をしてたっけ。いや、昔よりも更にキレが増してるかも……。
アリア様からの無言の圧を感じてシリル様を見上げた。
「シリル様、わたくし席を外しますね?」
「そう?そうしてくれる。私、シリルと久しぶりに話したいわ」
私が気を利かせて移動しようとしたら、シリル様にギュッと抱きしめられた。
えっ!?
ここッ、人前!
「だめ、ヴィア。ここに居て。それと、敬語戻ってる」
優しい声で耳打ちされて……。
子供だと思っていたシリル様の胸の中は、思ったより逞しかった。
「シリル?」
「アリア嬢、僕は今恋人とデート中です。邪魔しないでいただけますか?」
「えっ……恋人?その人……が?でも……久しぶりだし……」
「僕には、話することなんてないですが?」
聞いた事の無いような冷たい声。幼馴染みって言ってたのに、親しくないのかしら?
シリル様は結局アリア様を追い払ってしまった。私はシリル様の胸の中だったから、アリア様の表情は見えなかったけど……。
「彼女とは母親同士の交流があって……でも、親しくは無いから誤解しないで」
誤解なんてしようが無い。
だって、シリル様の態度がすごく冷たかったもの。
こんな風に、甘やかされると誤解しそうになっちゃう。
私はきっと恋愛対象外だから……。
なのに、シリルの広い胸の中は心地良くて……。ずっとこのままでいたいだなんて思ってしまった。
好きになっちゃう前に恋人のフリは終わりにしてもらおう。
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