私が大聖女の力を失った訳

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王都を出て辺境へ

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 戦争での功績を称え、ノヴァは叙爵することになった。

「俺、領地の事とか何にも分からないです」

 そう断ったノヴァにファーガス王太子殿下は

「優秀な家令をつける。学ぶのはこれからゆっくりでいい。国境の街を含むウィルトス辺境伯領を治めて欲しいんだ。これからはウィルトスを名乗るといい」

 そう言ってくれた。

 殿下たちは私が使った魔法について、何も聞かなかった。
 あの時の事は「大聖女の愛が生んだ奇跡」として、美談になっているらしい。

 ファーガス王太子殿下もビクター殿下も、鋭い人だ。そんな話を鵜呑みにしている訳ではないだろう。
 ただ、彼らの優しさや配慮をみると、もしかして筆頭聖女の秘密だと言われていた禁戒魔法の事を、本当は知っているのではないかと思えた。

 もちろん、殿下はそんな事おくびにも出さないが……。


 ファーガス王太子殿下の隣でビクター殿下は穏やかに微笑んでいた。

「フェリチュタス、君もノヴァと結婚すれは、ウィルトス辺境伯夫人だ。マナー講習は聖女の塔にもあっただろう?」

「ええ、少しはありましたが……。辺境伯夫人なんて……。私は社交界で上手く振る舞う自信がないです」

「そう……。大丈夫、俺も出来るだけ力になるから」

 私は聖女の塔での意地悪な令嬢たちを思い浮かべていた。戦争が終わり、シエラとソフィー以外の聖女候補はみんな家に帰されたと聞いていた。

「心配しなくていい。君に逆らえる令嬢なんて、誰も居ないよ。私はかなり真剣に君をビクターの妃に迎えるつもりだったから、色々と……ね」

 ファーガス殿下の黒い笑みに『何をしたのだろう』と考えていると、ノヴァがビクター殿下の視界から私を覆い隠した。

「ん?ノヴァ?」

 ノヴァは私の方を向いて腕に抱き込み、警戒するような視線をビクター殿下へと向けた。

 ええ?
 こんなに感情を露にする彼は珍しい。

「ノヴァ。駄目よ。お世話になったの」

 ビクター殿下は両手を広げ呆れたように眉を上げた。

「英雄にしては心が狭いな。俺はきっぱり振られたんだ。安心するといい。フェリチュタスははじめから、俺には一切靡かなかったよ」

 ビクター殿下はノヴァを揶揄った後、私の耳元で

「愛されてるね。おめでとう」

 と祝福してくれた。
 どこまでも優しい人だと思う。

 「ノヴァ、君が不在の間、襲われそうになった彼女を助けたのは俺だ。感謝してほしいね」

 ノヴァは「えっ?」と小さく驚くと、私の方を向いて事実かどうか確認するような眼差しを向けた。

「う、うん。それは本当。ビクター殿下に助けて貰ったの」

 シレークスへの出立直前、男たちに襲われそうになった。あの時、ビクター殿下が助けてくれなかったらと思うと……、今でも怖い。

「ビクター殿下、その事に関しては本当にありがとうございました」

 ノヴァはビクター殿下に向き直り、丁寧に頭を下げた。

「ああ、これからは君がずっとフェリチュタスを守ってあげてくれ」

「そのつもりです。もうあんな思いしたくないですから」

 禁戒魔法を使った後、私は一週間目覚めなかったらしい。彼は片時も私の傍を離れず看病してくれた。ろくに食事も睡眠もとらなくて、みるみる憔悴していく彼をみんなが心配したのだと、アリアナ様が教えてくれた。

「じゃあね、フェリチュタス。ノヴァと幸せにね」

 ビクター殿下はほんの少し寂しそうに、しかし柔らかく微笑んだ。殿下にも素敵な恋人が現れるといいなと思う。

「ビクター殿下、ありがとうございました」

 私を閉じ込めるように依頼したムスカン公爵令嬢は貧困街での労働刑を受けているらしい。彼女が依頼した内容は、あくまでも私たちの足止めで、襲うまでは指示していなかったことが、男たちの取り調べで分かったそうだ。 



 目覚めた後、私は神聖力を全て失っていることが分かり、私は聖女としての資格を失った。

 身勝手な行動で神聖力を失った私に国民の声は優しかった。それは多くの人が、あの酷く痛め付けられたノヴァを見ていたから……。

 大広間に入ってきたノヴァを見た時、その場にいた多くの人が胸を抉られるような痛みを感じたそうだ。
 
「アリアナ様、申し訳ありません」

「いいのよ。そんな予感はしてたわ。ノヴァと行くんでしょ?幸せにね」

「はい」

 ソフィーとシエラも私を笑顔で見送ってくれた。私が力を失って、聖女たちの負担が多くなるのに、それでも彼女たちは優しかった。


 ☆
 


 そして、私はノヴァと共に辺境伯領へと向かうことになった。ウィルトス辺境伯領には国境の街シレークスがあり、戦争被害が一番大きかった場所だ。前領主は戦争や暴動で二人の跡継ぎを無くし、爵位を返上したそうだ。

 隣国からの賠償金でこれから領地を立て直す。ノヴァは急いで国境軍の整備を行うらしい。

 英雄ノヴァの元、国境軍へ志願する兵士たちを連れて、私たちはウィルトス辺境伯領へと旅立った。



     
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