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キャロライン視点③
しおりを挟む「聖女様、ありがとうございました」
「ええ」
私は貧困街に近い古い教会で、怪我人たちの治療をしていた。
最初に着た時は冗談じゃ無いと思った。けれど、衛兵の見張りは居るし、ここの住民たちは気が荒くて、ぞんざいに扱うと直ぐに怒鳴る。
本当に暴れられたら怖いし、どんなに腹が立ってもひたすら耐えていた。
こんな所来たくないけれど、王命には逆らえない。いつも庇ってくれたお父様は家督を兄に譲って王都を出ていった。
今は公爵領で引き篭もっているらしい。
ここでは、ムスカン公爵家の威光なんて効かない。みんな毎日の食べ物を手に入れるだけで精一杯。そんな場所。誰も私の機嫌なんて取ってくれなかった。
「はあー、疲れた……」
「順番はまだかーっ!」
「子供が痛がって泣いているの。早くしてよーっ!!」
もうっ!五月蝿いわね。
ここの住人たちはみんな何だかイライラしていて、少し待たされただけで、治療施設の係員に文句を言ってくる。
私は毎日しぶしぶ治療を続けていた。
これでも国外追放よりはまだマシだし……。
そんなある日、とても綺麗な顔をした少年が治療を受けに来た。
「どうしたの?その顔」
少年にはその綺麗な顔に似合わない醜い火傷があった。
「火事があって……巻き込まれそうになった」
「綺麗な顔なのに勿体無いわ。毎日治療に着て。痕が残らないといいけど……」
着ている服はボロボロだけど、それでも美しい顔。
平民にしておくのは勿体無いみたい。
「本当?痕残らないようになるの?」
「うーん。私の技術じゃ難しいかも。でも、顔だしね。頑張るわ」
「俺、この顔好きなんだ」
「そうね。綺麗だわ」
「ありがとう。俺お父ちゃんにソックリなんだぜ!」
「へぇー、お父さんイケメンなのね」
「うん。ミュージカル俳優だったんだ。死んじゃったけど」
毎日通う彼から身の上話を聞いた。彼の名前はルーク、12歳。
ルークのお父さんは人気のあるミュージカル俳優。そこそこ豊かに暮らしていたのに、戦争で劇場は破壊され一気に生活が変わったそうだ。
彼のお父さんは1年前に暴動に巻き込まれて亡くなり、ルークはそれから一人で生計を立てている。
「キャロライン様、ありがとう。僕知ってるよ。聖魔法を使えるのって聖女様なんでしょ?」
治療の最終日、ルークは私に向かって晴れやかな顔で笑った。
「正式には聖女じゃないけどね」
「そうなの?でも、僕にとってはキャロライン様が聖女だったよ」
実はルークのために私は随分頑張った。聖魔法の教本を引っ張りだして、勉強した。
火傷の痕を消すために、新しい皮膚が違和感なく形成されるように、細かな調整を行う。
それはとても大変な作業だったけど、彼の治療のお蔭で私の聖魔法の技術は上がった。
「ありがと」
こんなにひねくれた私だけど、素直なルークの言葉は心に沁みる。
彼の滑らかな頬を見ると、寝不足になりながらも勉強した苦労が報われた気がして、誇らしくなった。
「もし夢が叶ったら、一番最初の舞台は見に行ってあげるわ」
「本当っ?キャロライン様、僕頑張るよ」
戦争が終わったらミュージカル俳優のオーディションを受けたいのだそうだ。
「僕、キャロライン様に似合う男になるんだ」
「ふふっ、頑張ってね」
私はその時、彼が平民だとか、自分が公爵令嬢だとか、そんな事は忘れていて……。
ただ、ルークの成長した姿を見たいと思った。
ツギハギだらけの服で、それでも格好良く姿勢を伸ばしてルークは去っていった。
ルークと話をして私は少し考え方が変わった。
貧困街に居る人たちにも、それぞれの人生がある。出来るなら、ルークみたいな少年が夢を追いかけられる国になるといい。
幸い私の家は公爵家。
出来る事がたくさんある気がした。
12年後、薔薇の花束を抱えたルークが私に会いに来ることを、その時の私は知らない。
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