私が大聖女の力を失った訳

文字の大きさ
29 / 34

番外編①

しおりを挟む
 
 ウィルトスの領主邸には既に王家選りすぐりの使用人さん達が勢揃いして私達を出迎えてくれた。

 厳つい門をくぐるのズラリと並んだ使用人さんの数に気後れしてしまう。

「領主様、奥様、私が家令を務めさせていただきます、レイエクです。」

 家令のレイエクさんはナマズっぽい顔に口髭を生やした40代くらいの男性。姿勢がとっても良くてきびきびとした動き。ファーガス殿下が平民だった私たちにと選んでくれた人だ。きっと優秀なのだろう。

 レイエクさんは私たちが挨拶すると、領主邸を案内してくれた。そのポイントを押さえた分かりやすくて短い説明は、彼の有能さを物語る。

 領主邸は飾り気が無くて、内装も重々しい雰囲気。

 レイエクさんは、「若い奥様には淋しいでしょうから、少しずつ模様替えもしていきましょう。」と提案してくれた。

「ここで生活していくのに、何かご希望はございますか?」

 レイエクさんにそう尋ねられ、ノヴァとの約束を思い出した。

「私は聖女の塔に入る前はよく家族のために食事を作っていたんです。だから、結婚してもノヴァに手作り料理を振る舞いたいのですが……。」

 貴族の奥様は自ら厨房に入ったりしないのかもしれない。そう不安に思っていると、レイエクさんはあっさりと頷いてくれた。

「分かりました。料理長に伝えておきます。毎日全てのお食事を用意するのは大変ですので、奥様手作りの品もお出しするという形でよろしいですか?」

「は、はい。お願いします。」

 嬉しくて……。ノヴァを見上げて好きな食べ物は何か質問した。

「そうだな……。肉を煮込んだもの、あとは……魚も好きだな。骨が多いのはちょっと……。苦い野菜は食べれない事はないが嫌いだ。」

 お子様みたいな好みだ……。戦地では何でも食べていたのに、意外だった。

「じゃあ、苦いものは工夫するわね」

「い、いや。フェリが作った物なら何でも食べる」

 ノヴァは慌ててそう言うが、我慢して食べて欲しくないし、少しでも喜んでもらいたい。
 それに、料理には自信がある!

「大丈夫よ。明日から何か一品作るね。まずは約束のパイシチュー作るわ」

「ああ。楽しみだ」

 あの時の会話を思い出したのか、ノヴァは少し遠い目をした。

 まだ荷解きも残っているし、やるべき事は山積み。だけど、私と彼の新しい生活が始まるのだと思うとウキウキしていた。

 その日の夕食は使用人さんたちとの親睦会も兼ねて、皆で食卓を囲んだ。
 給仕する人が大変になるので、料理は一斉にテーブルに並べる。みんなでワイワイ食べる食事が楽しかった。
 貴族としてのマナーを学ぶ前だから、今日はこれで許して欲しい。

 使用人さんたちはみんな良い人たちで、私は楽しくてふわふわと浮かれていた。
 だから、今日がどんな日だったかなんて、すっかり忘れていたのだ。


~~~~~


 夕食が終わって部屋に戻ろうとする私の手をノヴァがぐいっと引っ張った。

「今日、何の日か分かってる?」

 メイドさんにバレないようにそっと耳打ちされ、慌ててコクコク頷いた。

 言われるまで忘れていた。
 今日が初夜……ってこと?

 浮かれていた気分が一瞬にして消滅した。
 うわーーっ!
 どうしようっ。
 いつかなって思ってたけど……。
 いざとなったら緊張するっ。

 案内されたのは当然ノヴァの隣の部屋。扉を開ければ夫婦の寝室に繋がっている。

 と、取り敢えずお風呂に入って身体を磨いてーーーー?
 下着とかどうするのかしら?
 パジャマは着るの?
 ベッドに入って待つの?
 初心者の私には、何もかも分からない……。途方にくれて困っていると、湯殿の準備をして戻ってきたメイドさんが、着る物を準備してくれた。

「これ……?」

「はい。貴族では、夫婦で閨を共にするときにはこのようなお召し物を着用するのが一般的でございます」

 用意されていた下着は、白いレースのベビー・ドール。お尻をギリギリ隠すほどの丈で、可愛い花模様の刺繍で縁取られている。 
 可愛いよ。
 可愛いとは思う。思うけど……。
 問題なのは胸。全然隠れていなくて透けてるので恥ずかしい。こんなの着なくても変わらないっ。ショーツなんて、最早レースの紐みたいで……。

 「き、貴族って大胆なのね。下着専門のお店でもここまで布地の少ない下着は見たこと無いわ」

 メイドさんの名前はリナと言って私より一つ年上。落ち着いていてしっかりものといった感じの女性だ。

「奥様も直ぐに慣れますわ」

 リナが事も無げにそう言うので、そんなものかも……、と納得した。

 そして、私は何にも隠れていないような心もとない下着をつけて、上に薄手のガウンを羽織って寝室の扉をノックした。










 
 
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

さようなら、私の初恋

しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」 物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。 だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。 「あんな女、落とすまでのゲームだよ」

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処理中です...