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番外編①
しおりを挟むウィルトスの領主邸には既に王家選りすぐりの使用人さん達が勢揃いして私達を出迎えてくれた。
厳つい門をくぐるのズラリと並んだ使用人さんの数に気後れしてしまう。
「領主様、奥様、私が家令を務めさせていただきます、レイエクです。」
家令のレイエクさんはナマズっぽい顔に口髭を生やした40代くらいの男性。姿勢がとっても良くてきびきびとした動き。ファーガス殿下が平民だった私たちにと選んでくれた人だ。きっと優秀なのだろう。
レイエクさんは私たちが挨拶すると、領主邸を案内してくれた。そのポイントを押さえた分かりやすくて短い説明は、彼の有能さを物語る。
領主邸は飾り気が無くて、内装も重々しい雰囲気。
レイエクさんは、「若い奥様には淋しいでしょうから、少しずつ模様替えもしていきましょう。」と提案してくれた。
「ここで生活していくのに、何かご希望はございますか?」
レイエクさんにそう尋ねられ、ノヴァとの約束を思い出した。
「私は聖女の塔に入る前はよく家族のために食事を作っていたんです。だから、結婚してもノヴァに手作り料理を振る舞いたいのですが……。」
貴族の奥様は自ら厨房に入ったりしないのかもしれない。そう不安に思っていると、レイエクさんはあっさりと頷いてくれた。
「分かりました。料理長に伝えておきます。毎日全てのお食事を用意するのは大変ですので、奥様手作りの品もお出しするという形でよろしいですか?」
「は、はい。お願いします。」
嬉しくて……。ノヴァを見上げて好きな食べ物は何か質問した。
「そうだな……。肉を煮込んだもの、あとは……魚も好きだな。骨が多いのはちょっと……。苦い野菜は食べれない事はないが嫌いだ。」
お子様みたいな好みだ……。戦地では何でも食べていたのに、意外だった。
「じゃあ、苦いものは工夫するわね」
「い、いや。フェリが作った物なら何でも食べる」
ノヴァは慌ててそう言うが、我慢して食べて欲しくないし、少しでも喜んでもらいたい。
それに、料理には自信がある!
「大丈夫よ。明日から何か一品作るね。まずは約束のパイシチュー作るわ」
「ああ。楽しみだ」
あの時の会話を思い出したのか、ノヴァは少し遠い目をした。
まだ荷解きも残っているし、やるべき事は山積み。だけど、私と彼の新しい生活が始まるのだと思うとウキウキしていた。
その日の夕食は使用人さんたちとの親睦会も兼ねて、皆で食卓を囲んだ。
給仕する人が大変になるので、料理は一斉にテーブルに並べる。みんなでワイワイ食べる食事が楽しかった。
貴族としてのマナーを学ぶ前だから、今日はこれで許して欲しい。
使用人さんたちはみんな良い人たちで、私は楽しくてふわふわと浮かれていた。
だから、今日がどんな日だったかなんて、すっかり忘れていたのだ。
~~~~~
夕食が終わって部屋に戻ろうとする私の手をノヴァがぐいっと引っ張った。
「今日、何の日か分かってる?」
メイドさんにバレないようにそっと耳打ちされ、慌ててコクコク頷いた。
言われるまで忘れていた。
今日が初夜……ってこと?
浮かれていた気分が一瞬にして消滅した。
うわーーっ!
どうしようっ。
いつかなって思ってたけど……。
いざとなったら緊張するっ。
案内されたのは当然ノヴァの隣の部屋。扉を開ければ夫婦の寝室に繋がっている。
と、取り敢えずお風呂に入って身体を磨いてーーーー?
下着とかどうするのかしら?
パジャマは着るの?
ベッドに入って待つの?
初心者の私には、何もかも分からない……。途方にくれて困っていると、湯殿の準備をして戻ってきたメイドさんが、着る物を準備してくれた。
「これ……?」
「はい。貴族では、夫婦で閨を共にするときにはこのようなお召し物を着用するのが一般的でございます」
用意されていた下着は、白いレースのベビー・ドール。お尻をギリギリ隠すほどの丈で、可愛い花模様の刺繍で縁取られている。
可愛いよ。
可愛いとは思う。思うけど……。
問題なのは胸。全然隠れていなくて透けてるので恥ずかしい。こんなの着なくても変わらないっ。ショーツなんて、最早レースの紐みたいで……。
「き、貴族って大胆なのね。下着専門のお店でもここまで布地の少ない下着は見たこと無いわ」
メイドさんの名前はリナと言って私より一つ年上。落ち着いていてしっかりものといった感じの女性だ。
「奥様も直ぐに慣れますわ」
リナが事も無げにそう言うので、そんなものかも……、と納得した。
そして、私は何にも隠れていないような心もとない下着をつけて、上に薄手のガウンを羽織って寝室の扉をノックした。
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