33 / 35
護衛騎士・スタン視点2(終)
しおりを挟む
リタ王国の王宮に戻った。
フェルナンド殿下には馬車の中で、ロリィ様との結婚しか残された道はないことを繰り返し説明した。
初めは抵抗をみせていた殿下も王宮に戻る頃には落ち着いて腹を括ったようだった。
けれどフェルナンド殿下のロリィを見る目は、卒業パーティーでリリアベール様に婚約破棄を言い渡した時の冷たい視線。
憎しみすら感じさせる視線はとても婚約者に向けるものではない。
けれども、既に権力者達を手中に収めた彼女は、殿下の小さな抵抗など、気にも留めなかった。
そうして急いで結婚式が執り行われた。
急いだとは思えない豪華絢爛な結婚式。主役であるロリィは正に光の乙女らしく楚々としていて美しい。恥じらいながら頬を赤く染め、初々しさを醸し出す。
フェルナンド殿下は結婚式の間も硬い表情を崩す事は無かった。
驚いたのは初夜だ。
フェルナンド殿下とロリィは七日間寝室に籠った。
お二人とも七日間、寝室を出なかったが毎日一回は健康状態の確認のため、宮廷医が寝室を訪れた。勿論危険な薬や魔法の痕跡が無いことは確認されていた。
侍女たちも寝具の交換に入る。ずっと行為をしているわけで無いらしい。
けれど自分はこの目でフェルナンド殿下の姿を確認できない事が不安だった。
様々な性具が寝室に持ち込まれた。
身体を傷付けるようなものはない筈。しかも、殿下の命令で性具は持ち込まれている。
そうして七日間が過ぎ八日目の朝、部屋から出てきた殿下は憑き物が落ちたようにスッキリとした表情をしていた。
ロリィ様を見つめる表情は蕩けるように甘く………愛しくてしょうがないといった様子だ。
その日から殿下のロリィ様への態度は一変した。
ロリィ様に求められなくても自ら世話を焼く。
誰もがフェルナンド殿下はロリィに、籠絡されたのだと…そう思った。
「殿下もロリィ様の性技の虜に?」
「うぶな殿下などロリィ様にかかればイチコロだ。」
「快楽調教でもされたのか?」
不敬で処罰されそうなほどの噂話があちこちで囁かれていた。
フェルナンド殿下が快楽に堕ちるとは………。
しかし、その予想は違った。
ある日、長く護衛騎士を務める私に殿下は本音を話してくれた。
「なぁスタン、私は初夜のあの七日間でロリィの心の闇を見たのだ。」
「……はぁ。」
殿下が何を話し出すのか、話の方向性が掴めず曖昧な反応をしてしまった。
私の躊躇いに気付いた殿下がフッと小さく笑った。
「別に閨の内容を話すわけじゃない。」
「い、いえ。そういう訳じゃ……。」
「まぁ、少し話を聞いて欲しいんだ。」
「はい。」
そう言われてしまえば黙って話を聞く他ない。
「ロリィは何か心の闇を抱えて苦しんでいるんだ。」
「はい。」
色々思う事はあるが黙って肯定の相槌を打つ。
「私はあの爛れた日々の中で、彼女の……ロリィの心の叫びを確かに聞いた。」
「はい?」
「彼女が王宮で、悪女を演じるのにはきっと理由がある。私は彼女の心の闇を照らす光になりたいんだ。私だけが彼女を救うことが出来る。」
「どうしてそんな風に思うのかおうかがいしても?」
殿下はよくぞ聞いてくれた、とでも言うように顔を綻ばせる。
「彼女は私に助けを求めて私との婚姻を望んだのだ。彼女が婚姻を望んだのは他でも無い、私だけなのだ。ロリィを闇から救い出す。これは夫の私だけが出来る事なんだ。」
そう話す殿下の表情は希望に満ち溢れていた。
「私は愛情を注ぎ、いつか彼女の心の虚を埋めたい。だからね、誰にどう思われようとも私は彼女に尽くす事に決めたんだ。」
ああ、これは………。
殿下の目に宿った光は、リリアベール様に手紙を届けるように命じたあの時の光だ!
「はい。殿下の心のままに。」
この決断はどこまでも殿下らしい。
けれど、キャシュール商会が手を引いた我が国と隣国は、他の国より明らかに魔道具での発展に遅れをとっていた。
★☆★
三年後
ピチャンに留学していた宰相子息が映像を記録出来る魔道具を王宮に仕掛けた。そこに映っていた映像によってロリィの真実の姿が白日の下にさらされた。
ロリィは国民の怒りを買い、国家動乱罪で処刑された。
国王夫妻と王太子は責任を追及され、辺境の地で幽閉。
王位には王家の血筋であり、ロリィの毒牙にかかっていなかった国王の従兄弟が就くことになった。
ロリィを担ぎ上げた教会は信頼を失い、もはや礼拝に通う人もごく僅かだ。
リタ王国と隣国のタザは今や大陸の最貧国となってしまっていた。
新国王でも財政を立て直せる見通しが立たない。
俺は今、辺境の地でフェルナンド様の身の回りの世話をしている。
自分の不甲斐なさを恥じて辺境の地への同行を希望したのだ。
行動は制限されるが、衣食住の心配はない。
今、フェルナンド様は下働きの女性に仄かな恋心を抱いている。
平民の五歳年下の可憐な少女だ。
フェルナンド様の食事を用意し、フェルナンド様と目が合うと頬を赤く染め、逃げるように去っていった。
実ることはない恋。
それでもフェルナンド様の瞳は光を取り戻した。
フェルナンド殿下には馬車の中で、ロリィ様との結婚しか残された道はないことを繰り返し説明した。
初めは抵抗をみせていた殿下も王宮に戻る頃には落ち着いて腹を括ったようだった。
けれどフェルナンド殿下のロリィを見る目は、卒業パーティーでリリアベール様に婚約破棄を言い渡した時の冷たい視線。
憎しみすら感じさせる視線はとても婚約者に向けるものではない。
けれども、既に権力者達を手中に収めた彼女は、殿下の小さな抵抗など、気にも留めなかった。
そうして急いで結婚式が執り行われた。
急いだとは思えない豪華絢爛な結婚式。主役であるロリィは正に光の乙女らしく楚々としていて美しい。恥じらいながら頬を赤く染め、初々しさを醸し出す。
フェルナンド殿下は結婚式の間も硬い表情を崩す事は無かった。
驚いたのは初夜だ。
フェルナンド殿下とロリィは七日間寝室に籠った。
お二人とも七日間、寝室を出なかったが毎日一回は健康状態の確認のため、宮廷医が寝室を訪れた。勿論危険な薬や魔法の痕跡が無いことは確認されていた。
侍女たちも寝具の交換に入る。ずっと行為をしているわけで無いらしい。
けれど自分はこの目でフェルナンド殿下の姿を確認できない事が不安だった。
様々な性具が寝室に持ち込まれた。
身体を傷付けるようなものはない筈。しかも、殿下の命令で性具は持ち込まれている。
そうして七日間が過ぎ八日目の朝、部屋から出てきた殿下は憑き物が落ちたようにスッキリとした表情をしていた。
ロリィ様を見つめる表情は蕩けるように甘く………愛しくてしょうがないといった様子だ。
その日から殿下のロリィ様への態度は一変した。
ロリィ様に求められなくても自ら世話を焼く。
誰もがフェルナンド殿下はロリィに、籠絡されたのだと…そう思った。
「殿下もロリィ様の性技の虜に?」
「うぶな殿下などロリィ様にかかればイチコロだ。」
「快楽調教でもされたのか?」
不敬で処罰されそうなほどの噂話があちこちで囁かれていた。
フェルナンド殿下が快楽に堕ちるとは………。
しかし、その予想は違った。
ある日、長く護衛騎士を務める私に殿下は本音を話してくれた。
「なぁスタン、私は初夜のあの七日間でロリィの心の闇を見たのだ。」
「……はぁ。」
殿下が何を話し出すのか、話の方向性が掴めず曖昧な反応をしてしまった。
私の躊躇いに気付いた殿下がフッと小さく笑った。
「別に閨の内容を話すわけじゃない。」
「い、いえ。そういう訳じゃ……。」
「まぁ、少し話を聞いて欲しいんだ。」
「はい。」
そう言われてしまえば黙って話を聞く他ない。
「ロリィは何か心の闇を抱えて苦しんでいるんだ。」
「はい。」
色々思う事はあるが黙って肯定の相槌を打つ。
「私はあの爛れた日々の中で、彼女の……ロリィの心の叫びを確かに聞いた。」
「はい?」
「彼女が王宮で、悪女を演じるのにはきっと理由がある。私は彼女の心の闇を照らす光になりたいんだ。私だけが彼女を救うことが出来る。」
「どうしてそんな風に思うのかおうかがいしても?」
殿下はよくぞ聞いてくれた、とでも言うように顔を綻ばせる。
「彼女は私に助けを求めて私との婚姻を望んだのだ。彼女が婚姻を望んだのは他でも無い、私だけなのだ。ロリィを闇から救い出す。これは夫の私だけが出来る事なんだ。」
そう話す殿下の表情は希望に満ち溢れていた。
「私は愛情を注ぎ、いつか彼女の心の虚を埋めたい。だからね、誰にどう思われようとも私は彼女に尽くす事に決めたんだ。」
ああ、これは………。
殿下の目に宿った光は、リリアベール様に手紙を届けるように命じたあの時の光だ!
「はい。殿下の心のままに。」
この決断はどこまでも殿下らしい。
けれど、キャシュール商会が手を引いた我が国と隣国は、他の国より明らかに魔道具での発展に遅れをとっていた。
★☆★
三年後
ピチャンに留学していた宰相子息が映像を記録出来る魔道具を王宮に仕掛けた。そこに映っていた映像によってロリィの真実の姿が白日の下にさらされた。
ロリィは国民の怒りを買い、国家動乱罪で処刑された。
国王夫妻と王太子は責任を追及され、辺境の地で幽閉。
王位には王家の血筋であり、ロリィの毒牙にかかっていなかった国王の従兄弟が就くことになった。
ロリィを担ぎ上げた教会は信頼を失い、もはや礼拝に通う人もごく僅かだ。
リタ王国と隣国のタザは今や大陸の最貧国となってしまっていた。
新国王でも財政を立て直せる見通しが立たない。
俺は今、辺境の地でフェルナンド様の身の回りの世話をしている。
自分の不甲斐なさを恥じて辺境の地への同行を希望したのだ。
行動は制限されるが、衣食住の心配はない。
今、フェルナンド様は下働きの女性に仄かな恋心を抱いている。
平民の五歳年下の可憐な少女だ。
フェルナンド様の食事を用意し、フェルナンド様と目が合うと頬を赤く染め、逃げるように去っていった。
実ることはない恋。
それでもフェルナンド様の瞳は光を取り戻した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,157
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる