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辺境へ
しおりを挟む「はぁーまったくこれは大変な呪いを使ったな。」
宰相が手配した呪具師がミュゼリール様の手のひらの紋様を見て呆れたように溜め息を吐いた。
「これは太古の禁術だ。呪具など必要ないし、方法さえ知っていれば誰でも出来る。身体の一部、例えば髪とか爪を使用するんだ。禁術は破られたら三倍の代償が必要だ。聖女の命を狙ったのなら同じように恨みを持つ人間三人の命を掛けたことになるな。」
「どうすれば解呪出来る?」
「ワシが解呪の方法は知っている。魔力の高い魔術師がいれば出来るが……。」
魔力が高い魔術師なら王宮にいる筆頭魔術師が協力してくれる筈だ。
「何か問題でも?」
「準備するものがある。魔獣の森の近くに自生するネヒードという草の根だ。王都では手に入らん。しかも魔獣の森は最近危険でネヒードも採れなくなっている。」
魔獣の森が近い村は近年魔獣被害が増えている。ミュゼリールのいた村だ。
「俺が採って来よう。」
「ノクティス様!危険です!」
フラッツに止められるが、愛しい人の危機に悠長に構えてなんかいられない。
「じっと待ってるだけなんて出来そうにないな。まだ正式には王太子では無い。俺は行くぞ。」
本来なら止める立場であるコヤック様も俺を止めなかった。黙認するつもりなのだろう。
「7日で呪いが完成する。急げ。その他の材料はコヤックに準備させる。」
呪具師はそう言って、俺たちを急かすとコヤック様に残りの材料を紙に書いて渡した。
紙を受け取るとコヤック様は直ぐ様周囲に指示を出す。
その指示はいつも通り的確で無駄が無い。
「こっちはコヤック様に任せよう。直ぐに馬を用意してくれ。」
フラッツは俺を止めるのを諦めたようだ。
直ぐに馬の準備のため部屋を出ていった。
どんなに急いでも2日は掛かる道のりだ。
着いて直ぐにネヒードが見つかるとは限らない。
クラウドと数人の護衛を引き連れ、夜通し馬で駆けた。馬の休憩を挟みつつ、最速で辺境の村へ向かう。
ミュゼリール様が心配で……黒い靄がかかったように景色が暗い。
押し潰されそうな不安の中、只管馬を走らせた。
★★★
俺たちは辺境の村に着いてまず村長を訪ねた。
ドンドンドンドン
村の高台にある一際大きな家のドアを叩く。
「夜遅くにすまないが開けてもらえないだろか?」
暫くすると、室内の灯りが付く。
ガチャ
眠そうな様子で目を擦りながら年配の男がドアを開けた。
「どなたですか?」
男は俺たちの身なりを見て怪訝そうに聞いてきた。
「夜分遅くにすまない。王宮から来たノクティス・ケントレッジという者だ。王宮にいる聖女ミュゼリール様が倒れたんだ。治すにはネヒードという植物の根が必要だそうだ。どこに行けば手に入るか教えて欲しい。この辺りで採れると聞いた。」
俺が名乗ると男は目が覚めたようで姿勢を正した。
「し、失礼しました。ケントレッジ公爵家の方ですか。」
「ああ、ミュゼリール様はこの村の孤児院に居たと聞いたが?」
「はい。知っております。ネヒードの根ならあります。」
「あるのか?魔獣被害で採れなくなったと聞いたが?」
「ミュゼリール様のお蔭で元通り採れるようになりました。そ、それで、ミュゼリール様は?」
「今は眠っている。助けるためにこの根が必要だ。貰っても?謝礼はする。」
「ええ、ええ勿論です。ミュゼリール様や孤児院の子供たちはこの村で畑仕事を手伝ったりしてくれましたからよく知っています。どうぞ持っていってください。ミュゼリール様をよろしくお願いします。」
俺たちはネヒードの根を受け取ると休むこと無く王宮への帰路を急いだ。
ミュゼリール様の祈りの効果はこんなに早く表れていたのか。女神様の導きか……。
思えば雨季にも関わらず、ここ数日間は天気が良かった。馬が疲れるような足場の悪い道も無く、最短で辺境の村まで来れた。
黒く染まって見えていた景色に光が差し込んだように目の前が明るくなった。
…道が見える。
ミュゼリール様は助かる、そう確信しながら馬を走らせた。
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