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浮気?
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仕事一筋で育児には全く参加しない夫。
そして、少し気の強い姑と無口な舅。
それでも我慢して耐えてきたのは、実家が遠くて頼れなかったことと、私が心のどこかで「こんな私を嫁に貰ってくれた」という負い目を感じていたから。
仕事で大成功を収めていて、女性にもモテる。そんなテオドールに選ばれた私は幸せなんだと、思い込もうとしていた。
馬鹿だけど、ずっと……。
シャルを抱えて孤独な夜を過ごした。誰にも悩みを相談なんて出来なかった。
シャルだけが、私の救い。我が子の可愛さは想像以上で全てが小さくて、どこを触ってもすべすべ。
情けない顔で泣いて、その泣き声はよく響く。母親を呼ぶことしか出来ない頼りなげなその生命体を育てる事に一生懸命だった。
だから、自分の身なりになんて構っていられず、私は夫のことを気遣うことを忘れてしまっていた。
そして、テオドールはその頃からますます仕事が忙しくなっていった。
シャルが五歳になる頃には、私達夫婦の会話は極端に少なくなり、甘い恋人のような雰囲気はすっかり失くなってしまっていた。
会話といえば、シャルのことや、義両親のことばかり。
「今日から五日間、仕事で王都を離れるよ」
「まあ、お仕事大変なのね」
「ああ、新しい顧客の我儘に付き合うことになってね。留守を頼むよ」
「お義父様の誕生日はどうすればいい?」
「プレゼントは君に任せる」
「……でも……、お義母様が私はセンスが悪いって」
「母の愚痴は聞き流せばいいから」
「……はい」
「君が留守をきちんと守ってこそ、俺は仕事に専念出来るんだ。俺も頑張るから君も頑張ってよ」
「……わかりました。いってらっしゃい」
「ああ、いってくる」
今日も私はお母義様に呼び出されて、主人の実家のお手伝いに行かなければならない。最近、お義母様は腰の痛みが強くなり、今までのように動けなくなった。
私が義実家で手伝いをする間、その傍らでお義母様はシャルと遊ぶ。シャルは五歳。今が愛らしい年頃。義両親も例外では無いらしく、嫁と違って孫は可愛がってくれていた。
「そこに書いてあるものを全部買ってきて頂戴」
「はい、分かりました。ですがお義母様、そろそろメイドを雇っては?」
「まあ!嫌よ、貴族じゃあるまいし。他人を家に入れるなんて真っ平よ!」
「……そう、ですか」
「何?私の手伝いをすることがそんなに不満なの?」
「いえ、そういうわけじゃ……。ただ、シャルにも手がかかりますし、私の手伝いにも限界が……」
「言い訳しないで。限界かどうかは私が判断するわ。テオドールが外で稼いでいる間、貴女が私達の手伝いをするのに何の問題があるの?テオドールのお蔭で、お金の不安が無い贅沢な生活が出来ているんでしょ?」
「はい。……申し訳ありません」
義実家で家政婦のように働いて、クタクタになって家に戻ると、テオドールが出張から帰っていた。
放り出されたままの旅行鞄。
「おかえりなさい。お疲れ様」
「ああ、本当に疲れたよ」
鞄を開けて洗濯物を出していると口紅の付いた白いシャツが……。女性ものの香水の匂いも。
そして、そっと差し込まれた手紙。
「……なにかしら?」
嫌な予感がした。胸がドキドキする。
私は主人がこっちを見ていないことを確認して手紙を広げた。
『素敵な夜だったわ♡ また旅行に連れてってね!
テオが早く独身に戻れるといいのに……♡♡♡』
まるで見つかる事を想定しているような、挑発的な内容。
テオドールが……浮気?
私はこの手紙を見つけた事がばれないように、鞄の奥底に隠した。
この手紙は誰からなのか、それを聞く事も怖かった。
向こうの方では、テオドールがシャルを抱っこしてあやしていた。
シャルに笑い掛けるその優しい眼差しを、相手の女性にも向けている?
私にプロポーズしたその口で他の女性に甘いセリフを吐いて、シャルを撫でるその手で別の女性を抱くの?
気持ち悪くて……。
夢だと思いたい。でも、これは……現実。
私にはお金も頼れる人も居ない。
全て我慢するしか無いのだろうか?
夜シャルと二人でベッドに入る。高い体温、子供特有の匂い。
スヤスヤと眠る健やかな寝顔。
私はシャルの笑顔を守るため、もっと良い妻に、良い嫁に、そして良い母親にならなければ。
そして、少し気の強い姑と無口な舅。
それでも我慢して耐えてきたのは、実家が遠くて頼れなかったことと、私が心のどこかで「こんな私を嫁に貰ってくれた」という負い目を感じていたから。
仕事で大成功を収めていて、女性にもモテる。そんなテオドールに選ばれた私は幸せなんだと、思い込もうとしていた。
馬鹿だけど、ずっと……。
シャルを抱えて孤独な夜を過ごした。誰にも悩みを相談なんて出来なかった。
シャルだけが、私の救い。我が子の可愛さは想像以上で全てが小さくて、どこを触ってもすべすべ。
情けない顔で泣いて、その泣き声はよく響く。母親を呼ぶことしか出来ない頼りなげなその生命体を育てる事に一生懸命だった。
だから、自分の身なりになんて構っていられず、私は夫のことを気遣うことを忘れてしまっていた。
そして、テオドールはその頃からますます仕事が忙しくなっていった。
シャルが五歳になる頃には、私達夫婦の会話は極端に少なくなり、甘い恋人のような雰囲気はすっかり失くなってしまっていた。
会話といえば、シャルのことや、義両親のことばかり。
「今日から五日間、仕事で王都を離れるよ」
「まあ、お仕事大変なのね」
「ああ、新しい顧客の我儘に付き合うことになってね。留守を頼むよ」
「お義父様の誕生日はどうすればいい?」
「プレゼントは君に任せる」
「……でも……、お義母様が私はセンスが悪いって」
「母の愚痴は聞き流せばいいから」
「……はい」
「君が留守をきちんと守ってこそ、俺は仕事に専念出来るんだ。俺も頑張るから君も頑張ってよ」
「……わかりました。いってらっしゃい」
「ああ、いってくる」
今日も私はお母義様に呼び出されて、主人の実家のお手伝いに行かなければならない。最近、お義母様は腰の痛みが強くなり、今までのように動けなくなった。
私が義実家で手伝いをする間、その傍らでお義母様はシャルと遊ぶ。シャルは五歳。今が愛らしい年頃。義両親も例外では無いらしく、嫁と違って孫は可愛がってくれていた。
「そこに書いてあるものを全部買ってきて頂戴」
「はい、分かりました。ですがお義母様、そろそろメイドを雇っては?」
「まあ!嫌よ、貴族じゃあるまいし。他人を家に入れるなんて真っ平よ!」
「……そう、ですか」
「何?私の手伝いをすることがそんなに不満なの?」
「いえ、そういうわけじゃ……。ただ、シャルにも手がかかりますし、私の手伝いにも限界が……」
「言い訳しないで。限界かどうかは私が判断するわ。テオドールが外で稼いでいる間、貴女が私達の手伝いをするのに何の問題があるの?テオドールのお蔭で、お金の不安が無い贅沢な生活が出来ているんでしょ?」
「はい。……申し訳ありません」
義実家で家政婦のように働いて、クタクタになって家に戻ると、テオドールが出張から帰っていた。
放り出されたままの旅行鞄。
「おかえりなさい。お疲れ様」
「ああ、本当に疲れたよ」
鞄を開けて洗濯物を出していると口紅の付いた白いシャツが……。女性ものの香水の匂いも。
そして、そっと差し込まれた手紙。
「……なにかしら?」
嫌な予感がした。胸がドキドキする。
私は主人がこっちを見ていないことを確認して手紙を広げた。
『素敵な夜だったわ♡ また旅行に連れてってね!
テオが早く独身に戻れるといいのに……♡♡♡』
まるで見つかる事を想定しているような、挑発的な内容。
テオドールが……浮気?
私はこの手紙を見つけた事がばれないように、鞄の奥底に隠した。
この手紙は誰からなのか、それを聞く事も怖かった。
向こうの方では、テオドールがシャルを抱っこしてあやしていた。
シャルに笑い掛けるその優しい眼差しを、相手の女性にも向けている?
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気持ち悪くて……。
夢だと思いたい。でも、これは……現実。
私にはお金も頼れる人も居ない。
全て我慢するしか無いのだろうか?
夜シャルと二人でベッドに入る。高い体温、子供特有の匂い。
スヤスヤと眠る健やかな寝顔。
私はシャルの笑顔を守るため、もっと良い妻に、良い嫁に、そして良い母親にならなければ。
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