あなたへの恋心を消し去りました

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「お前グレース嬢との事、噂になってるぞ。いいのか?」

 ドアに手を掛けたところで、中から話し声が聞こえてきました。どうやら、例のお話のようです。私は咄嗟に手を止めてそっと中を覗き込みました。

 背中を向けていますが、この声の主はアイザック様でしょう。サミュエル様の幼い頃からの友人で、気さくで話しやすい雰囲気の方です。

「別に良いだろ。ジニアとの結婚はするんだから……。向こうも遊びだよ。なんて言うかさ、グレースとは話をしてても楽なんだよ。俺に過度な愛情表現は求めてこないし……。彼女、乗馬もするし声楽も今勉強中だってさ。活動的で趣味が多いんだよ……。だから、つい振り向いて欲しくなる。ジニアは俺と花にしか興味が無くて、会話も退屈なんだ」

「いいじゃないか。それだけ好かれてるんだろ?ジニアちゃん、いっつもお前のあとをちょこちょこ追いかけてて、可愛いよな。あまり泣かせんなよ?」

 友人の揶揄うような口調に、サミュエル様は顔を顰めました。

「幼い頃から親に勝手に婚約者を決められて、よそ見は許されない。それって理不尽だと思わないか?」

 彼の本音に、胸がズキンと痛みます。

「確かにそうかもしれないけど、ジニアちゃん顔も可愛いし性格も素直だし、何よりお前のことをあんなに好いているじゃん。俺は羨ましいけどな。俺の婚約者なんて冷たいぜ?『政略結婚だと思って割り切ってね』だってさ」

「それってお互いの心は自由で良いって事だろ?世継ぎを作った後は恋人でも愛人でも勝手にどうぞ、そんなクールな関係が羨ましいよ。ジニアは俺をいつもキラキラした目で見つめてきてさ……。何かを期待されているようで、正直重い。俺には政略結婚って割り切った関係の方が性に合ってると思うな」

 それ以上この会話を聞いているのは辛くて……、私はその場を離れました。





 家に帰って一人考えてみました。

 私には親に決められた婚約者を心から好きになれるなんて幸せだと思っていたのに……。サミュエル様はそうじゃなかったのです。

 それどころか、私に好かれて迷惑だったなんて……。
 家同士の関係もあるから強く拒否することも出来なくて、サミュエル様は悩んでいたのかもしれません。

 私は……サミュエル様の望むような結婚相手になれるでしょうか?
 必要以上に干渉しない関係を?

 彼に好きな人が出来て、愛人として囲って……それを認めるなんて、考えるだけで泣いてしまいそうです。
    
 だからーー

 私は決断をして、魔女の住む森へ向かいました。



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