星の王子さま踊り子に恋をする

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デート

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 ロレンツォは毎日踊り子のステージに通いつめ、とうとうデートの約束をしました。

 ロレンツォは天にも昇る気持ちです。

 踊り子の名前はステッラ。

 ロレンツォはステッラと手を繋いで街を歩きます。

 街の表通りは活気があり賑やか。市場には色とりどりのフルーツや野菜が高く積み上げられていますし、建物はみんな綺麗です。

 持っている籠いっぱいに食べ物を買う女性たち。様々な特技を見せる大道芸人。

 公園の噴水のそばで休む母子はとても幸せそうに微笑んでいました。

「街の人たちはみんな楽しそうだね」

 自分の国の民たちの幸せそうな様子を見てロレンツォは嬉しくなりました。この国の人たちみんなを幸せにすることがロレンツォの役目。そのことをロレンツォは父王から聞かされて育ったからです。

 ロレンツォはデートで、貴族の好む高級なお店に行こうと思っていましたがステッラは
「そんなお店に入るのは緊張してしまうわ」と言って、自分の知っているお店に案内してくれました。

 そこは、街の表通りから奥に入った場所。
 ロレンツォが見た事も無いようなオンボロの食堂でした。

「おばちゃん、カポナータちょうだい!」
「はいよ!」

 硬くてガタガタ安定しない椅子。メニューの書いてある紙が壁に貼られていますが、なんだか汚い茶色いシミが付いています。

「ここで、食べるの?」
「もちろんよ!」

 ロレンツォにはとても不潔な店に見えました。運ばれてきた食べ物に手を付けようか迷っていると、隣で昼食を食べている男性たちの会話が聞こえてきます。

「今月の給料も少ないし、生活は楽にならねーな」

「ああ、働けど働けど暮らしは楽にならず。イヤになるなー」

「しかも、あの『星の王子様』が次の国王だぜ。この国のお先は真っ暗さ。王子さまは、いいねぇ。毎日、お星さまを眺めていても飯が食えるんだから」

 隣の席に座っている男たちはロレンツォのことを噂していました。

「この国の王子さまって評判悪いんだね」

「さあ?私はこの国に来たばかりだから知らないわ」
 
 この男たちの会話を聞く前は、自分の正体を明かせばステッラは「玉の輿」だと喜んでくれると思っていましたが、ロレンツォは自分の正体を明かすのが恥ずかしくなりました。

「何故この国の王子さまは『星の王子さま』なんて呼ばれているの?」

 何も知らないステッラは不思議そうに聞いてきます。

「星空が好きで星の見える夜は毎晩夜ふかしをして勉学も疎かにしている王子さまだよ。出来損ないさ」

 ロレンツォは恥ずかしくて、俯きながら答えました。

「そうだったのね。ロレンツォは裏通りに行ったことはある?」

「ん?裏通り?無いよ」

「じゃあ、行ってみない?」

 ステッラに誘われるまま、ロレンツォは裏通りと呼ばれる場所にやってきました。

 そこには道路に座って項垂れる人や、ボロボロの服を来た子供たちが居ました。彼らの目には力がなく、活気もありません。

 表通りと裏通りでは同じ国とは思えないほど、風景が違っていました。

「こんな場所があったのか……」

「裏通りの道は狭すぎて馬車も通れないから。貴族や国王の視察に、こういう場所を選ばないのはどこの国も同じね」

 貴族など地位の高い人が視察する場所は、予め町長が安全を確認してからそこを案内します。だから、裏通りに住む貧しい人たちは、貴族の視界には映りません。
 ロレンツォだってこんな貧しい場所を見るのは初めてでした。
 
 初めて見る、自分の国の民たちの困っている姿。

「あの男は身体の具合が悪いのかな?」

「いいえ。仕事が無いからあの場所に居るの。ほら、あの場所は少し日が当たるでしょう?家の中は寒いからあそこで暖をとっているのよ」

「仕事はしないのか?」

 貴族の男性はみな18歳になると働きます。あの男性も充分働ける年齢に見えました。

「雇ってくれる場所がないのよ」

 ロレンツォは項垂れている男性に銀貨を渡そうとしましたが、ステッラに止められてしまいました。

「どうして銀貨を渡しては駄目なんだ?」

「ここは、治安が悪いもの。大金を持っていることを知られれば襲われるかもしれないわ。銀貨を渡したって一時しのぎにしかならないの。健康な彼らが働ける場所を作らないと」

 この国の王子だというのに、自分は目の前の困っている男性を助けることが出来ません。

 今まで感じたことのない感情がロレンツォの中で湧き上がりました。それは重苦しくて、そわそわして、じっとしていられないような気持ちです。

 ロレンツォはぎゅっと手を握りしめ、王宮に戻ったあと自分の部屋に篭りました。




    
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