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10,誘拐
ゴフッ
離宮の庭で寛いでいると、重いものが落ちるような音が聞こえた。
庭へと出てはいても外から狙えるような距離には行かないよう注意されていたし、私も部屋が酷いことになったばかりだったから警戒はしていた。
塀から離れた所にいたが向こうの方に、庭園にそぐわない不恰好な石が見えた。
「リル、申し訳ないけどあの石、拾ってきてくれない?」
リルが私に石を渡してくれた。何かが括りつけてある。
石を受け取って括り付けてあった布を広げると
「シェリーをあずかった。一人で外に出ろ。誰にも言うな!」
ハンカチに用件だけ書いてあった。
シェリーは買い物に出掛けていた。
今までの私ならそのまま飛び出したと思う。
でも今の私には危険なことぐらい分かっている。
リルにハンカチを渡し、私は離宮の外へ赴いた。
ハンカチの文字を読んで、シェリーが拐われた事が分かれば救出に向かう筈だ。
私には護衛がついている。
リルが王宮に連絡してくれる。時間を稼げば助けが来るだろう。
外へ出ると、市井で乗り合いに使われるような馬車が止まっていた。
中から黒い外套を羽織った男が顔を出す。
「シェリーを助けたくば、大人しく付いて来い。」
男はキョロキョロと落ち着きなく、辺りを見回す。
「シェリーはどこ?無事なの?」
「シェリーはお前に大人しくしてもらう為の切り札だ。傷一つない。は、早くしろ!!」
男は私に怒鳴ると、早く乗るよう急かせた。
馬車に乗ると男は私を後ろ手に縛った。
ゴトゴトゴト
急いでいるためだろう、馬車はやけに揺れて気分が悪くなる。
二時間程揺れを我慢していると、馬車は細い路地にある、古めかしい館の前で止まった。
「ここは?」
「娼館だ。お前は今日、娼婦として売られるんだ。」
「何をっ!」
私の振り上げた手を男は易々と掴む。
「逆らうな!!シェリーがどうなってもいいのか?シェリーを代わりに売るぞ!!」
手を下ろし男を睨む。
「身分を明かすなよ。何人か客を取った後、シェリーを解放してやる。その後は自由だ。身分を言えば、助けてもらえるだろうよ。尤も皇妃ではいられないがな。」
自分の有利を悟ると、男はニヤリと厭らしい笑みを作った。
「降りろ!」
男に従って馬車を降りる。男は私を縛っていたロープを切った。
「逃げるなよ。シェリーの命はお前の行動次第だからな。」
初めて入る娼館の中は甘ったるい匂いがしていて気分が悪くなる。
「女将、この女を買ってくれ。上玉だろう?値段はいくらでもいいぜ。」
「なんだい、訳ありかい?まあ、いいよ。」
女将と呼ばれた女性が私の顔を品定めするように見つめる。
「すごい上玉だね。そうだね、五十万ぺルルでいいかい?」
「安いな?」
「じゃあ引き取らないよ。危険な匂いがするからね。こっちは綺麗な商売やってる訳じゃないんだ。面倒事はお断りだよ。」
「ちっ、分かったよ。」
「交渉成立だね。はいよ。五十万ぺルル。」
「確かに。早くこいつに客を取らせろ。」
「なんだ?急いでるのかい?」
女将は、私の目をじっと見詰めた。
「あんた、心の準備は出来てるのかい?」
「はい。大丈夫です。」
女将はふぅーっと溜め息を吐く。
「分かったよ。もう少し後に上客が来るんだ。準備しときな。」
「待て、今すぐ客を取らせろ!」
「煩いね。私が買ったんだ。なるべく高く売るのが商売だよ!!」
女将の啖呵を聞き、男は諦めたように去っていった。
「ここで待ってな。」
連れて来られたのは奥の小さな小部屋。
怖くて怖くて身体の震えが止まらない。
「ルビー皇妃みたいになるのかな?」
陛下以外と身体を重ねるなんて………
「ううぅ………。」
思い出すのは陛下の事ばかり。
私は結婚してから陛下に愛を伝えただろうか?
陛下は沢山愛を伝えてくれていたのに……
後悔ばかりが胸を襲う。
早く陛下の腕の中に戻りたかった。
あの甘い囁きを聞きたかった。
「テオ、……テオ、怖いよ、助けて………テオ。」
薄暗い部屋の中で返事をする人はおらず、私の声だけが虚しく響いた。
離宮の庭で寛いでいると、重いものが落ちるような音が聞こえた。
庭へと出てはいても外から狙えるような距離には行かないよう注意されていたし、私も部屋が酷いことになったばかりだったから警戒はしていた。
塀から離れた所にいたが向こうの方に、庭園にそぐわない不恰好な石が見えた。
「リル、申し訳ないけどあの石、拾ってきてくれない?」
リルが私に石を渡してくれた。何かが括りつけてある。
石を受け取って括り付けてあった布を広げると
「シェリーをあずかった。一人で外に出ろ。誰にも言うな!」
ハンカチに用件だけ書いてあった。
シェリーは買い物に出掛けていた。
今までの私ならそのまま飛び出したと思う。
でも今の私には危険なことぐらい分かっている。
リルにハンカチを渡し、私は離宮の外へ赴いた。
ハンカチの文字を読んで、シェリーが拐われた事が分かれば救出に向かう筈だ。
私には護衛がついている。
リルが王宮に連絡してくれる。時間を稼げば助けが来るだろう。
外へ出ると、市井で乗り合いに使われるような馬車が止まっていた。
中から黒い外套を羽織った男が顔を出す。
「シェリーを助けたくば、大人しく付いて来い。」
男はキョロキョロと落ち着きなく、辺りを見回す。
「シェリーはどこ?無事なの?」
「シェリーはお前に大人しくしてもらう為の切り札だ。傷一つない。は、早くしろ!!」
男は私に怒鳴ると、早く乗るよう急かせた。
馬車に乗ると男は私を後ろ手に縛った。
ゴトゴトゴト
急いでいるためだろう、馬車はやけに揺れて気分が悪くなる。
二時間程揺れを我慢していると、馬車は細い路地にある、古めかしい館の前で止まった。
「ここは?」
「娼館だ。お前は今日、娼婦として売られるんだ。」
「何をっ!」
私の振り上げた手を男は易々と掴む。
「逆らうな!!シェリーがどうなってもいいのか?シェリーを代わりに売るぞ!!」
手を下ろし男を睨む。
「身分を明かすなよ。何人か客を取った後、シェリーを解放してやる。その後は自由だ。身分を言えば、助けてもらえるだろうよ。尤も皇妃ではいられないがな。」
自分の有利を悟ると、男はニヤリと厭らしい笑みを作った。
「降りろ!」
男に従って馬車を降りる。男は私を縛っていたロープを切った。
「逃げるなよ。シェリーの命はお前の行動次第だからな。」
初めて入る娼館の中は甘ったるい匂いがしていて気分が悪くなる。
「女将、この女を買ってくれ。上玉だろう?値段はいくらでもいいぜ。」
「なんだい、訳ありかい?まあ、いいよ。」
女将と呼ばれた女性が私の顔を品定めするように見つめる。
「すごい上玉だね。そうだね、五十万ぺルルでいいかい?」
「安いな?」
「じゃあ引き取らないよ。危険な匂いがするからね。こっちは綺麗な商売やってる訳じゃないんだ。面倒事はお断りだよ。」
「ちっ、分かったよ。」
「交渉成立だね。はいよ。五十万ぺルル。」
「確かに。早くこいつに客を取らせろ。」
「なんだ?急いでるのかい?」
女将は、私の目をじっと見詰めた。
「あんた、心の準備は出来てるのかい?」
「はい。大丈夫です。」
女将はふぅーっと溜め息を吐く。
「分かったよ。もう少し後に上客が来るんだ。準備しときな。」
「待て、今すぐ客を取らせろ!」
「煩いね。私が買ったんだ。なるべく高く売るのが商売だよ!!」
女将の啖呵を聞き、男は諦めたように去っていった。
「ここで待ってな。」
連れて来られたのは奥の小さな小部屋。
怖くて怖くて身体の震えが止まらない。
「ルビー皇妃みたいになるのかな?」
陛下以外と身体を重ねるなんて………
「ううぅ………。」
思い出すのは陛下の事ばかり。
私は結婚してから陛下に愛を伝えただろうか?
陛下は沢山愛を伝えてくれていたのに……
後悔ばかりが胸を襲う。
早く陛下の腕の中に戻りたかった。
あの甘い囁きを聞きたかった。
「テオ、……テオ、怖いよ、助けて………テオ。」
薄暗い部屋の中で返事をする人はおらず、私の声だけが虚しく響いた。
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