皇妃は寵愛を求めるのを止めて離宮に引き篭ることにしました。

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8,離宮に移りました

襲撃の後、離宮内の後片付けや修理で暫くバタバタと忙しい日々を過ごしていた。
陛下も後始末に忙しく、辺境への出発は延期したようだった。

「ねー何か手伝える事はないかしら?」
前世の記憶がある私には、何もせずに忙しそうな皆を見ているのが心苦しい。

「ケイト様は何もしないでゆっくりしていてくださいませ。」
そう言われても………

修理業者も、陛下に認められた身元の確かな者しか雇わず、人の出入りも最小限にしているため、進捗状況が芳しくない。

「私も窓拭きとか出来るから!」

実力行使とばかりにシェリーから雑巾を奪うと、脚立に登って窓を拭き出した。

「ケイト様!危ないです。せめて高い場所はお止めください。」

窓拭きは綺麗になると心が洗われるようで大好きだった。
「私、高い所も大丈夫なのに………。」

しかし、注意されたのでは仕方がない。

手の届く範囲の拭き掃除をしていると、古いクローゼットの飾り棚が外れ掛かっているのに気が付いた。

「何かしら??」

ガタン

棚を外して見るとそこには古い一冊の本が隠すように置いてあった。

「日記??」

本は黄ばんで茶色いシミが出来ている。それでも文字は読めそうだ。

「これ、ルビー皇妃の日記だわ。」

ルビー皇妃はサリーヒ皇后に嵌められ辺境の地へ送られた側室の一人だ。

「廃人になったって教えられていたけど、体調の良い日は日記が書けたのね。」

ルビー皇妃の息子が現在のグレンシア辺境伯の曾祖父だ。

ルビー皇妃の日記には側室となった苦悩や、皇帝への気持ちが書かれている。
文章は纏まりが無くて、所々消してあったりする。
それが余計に生々しくて………。

ルビー皇妃は政略結婚でやむを得ず側室として召され、当時のランドルフ皇帝陛下に激しく執着され、皇后の怒りをかったようだ。
「はぁー可哀想だわ。ランドルフ陛下は何を考えてらっしゃったのかしら?」

その文章は纏まっていなくても胸に突き刺さるような悲壮な思いを伝えてくる。それはルビー皇妃の叫びのようで……

ルビー皇妃の息子はどんな思いで辺境に向かったのだろう?

皇家と距離をとりたかった?

「これはグレンシア辺境伯にお返しした方が良いのかしら?」

ただ、この日記を見て、側室制度はもう止めた方が良いと………そう思った。

そして…辺境伯もそう考えているからこそ、帝都には来ない、そんな気がした。

「今度陛下が来たらこれを渡そう。」

辺境へ立つ前には此処に来ると言っていた。
私は陛下の訪れを待ってこれを渡そうと決心していた。

しかし、陛下は忙しいのか、なかなか訪れが無かった。
私も使用人達と掃除やお花の世話、料理もしてのんびり楽しく過ごしていた。

★☆★

陛下が来たのは二週間後。
陛下は少し隈が出来ていて疲労感を滲ませている。

「陛下、お久しぶりでございます。」
「ああ、ケイトも変わりはないか?」

陛下は私に事件の顛末を説明に来たようだった。
来て早々にお茶を飲むと侍女達に下がるよう指示を出した。

「今回の強襲の首謀者はウェルダン侯爵だった。」

「そうですの。怖いですわね。」

「長年に渡る不正も発見され、帳簿も見つかった。極刑は免れないだろう。」

「ミレーゼ様は?」

「ミレーゼは関わりが少ないと判断され修道院に行くことになった。」

「そう……ですか。」

あまり好きな方では無かったが、こうなってしまうと可哀想に思えてくる。

陛下はミレーゼ様の事をどう思っているのだろう?

今、陛下の表情は悲しんでいるようには見えない。
それでも、寵愛なさっていた側室だ。

「陛下は大丈夫ですか?ミレーゼ様がいなくなってしまわれて。」
「え?」

陛下は私が何を聞いているのか分からないといった表情で首を傾げる。
「ミレーゼ様を大切に思ってらっしゃったのでは?」
陛下は合点したように頷くと私の両手を包むように握りしめた。

「ケイトが無事で良かった。」
私を見つめる表情は真剣そのもの。
「私はね、ケイトだけを好きだと言ってきた筈だ。」

そう…なのだろうか?
一番じゃ無くて、私だけ?
ケイトとしてお妃教育を受けた私には、どう受け取って良いか分からなかった……。


★☆★

私は陛下が帰る間際にルビー皇妃の日記を渡した。
「これをグレンシア辺境伯に…。ここに置いて置くべきではないと判断いたしました。」
陛下は慎重に日記を開き目を通すと、痛ましげに顔を歪めた。
「分かった。必ず渡そう。」
そう言うと陛下は私の額にキスを落とし、離宮を後にした。

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