2 / 16
2.突然の縁談
しおりを挟むローレンスの葬儀から一週間。
私の心はローレンスと一緒に死んでしまったのかもしれない。そう思うほど、何を見ても、何を食べても感情が動かない。
不思議と泣くことも無かった。
私は表面上は穏やかに、今までと変わらずに過ごしていた。
侯爵夫人としてローレンスを支えることが私の夢になっていた。彼は志の高い人だったから相応しくあろうと努力してきた。
ローレンスという大きな存在だけでなく、将来の目標を同時に失った私は、生きる目的も分からなくてただ無為な時間を過ごす日々。
朝起きて着替えて食事を食べる。毎日当たり前にこなしてきた日課すら、その意味を見出だせない。
彼のいない世界に生きていて何になるのだろうーー
ただ時間が過ぎていくのを感じながら、自分の時間だけが止まってしまったみたい。何かしなければと焦るのに、何も出来なくて……。そんな事をぐるぐる、堂々巡りのように考えていた。
☆
「え?王城に?」
「ああ、カトリーナの名前もある。一緒に行ってくれ。」
そんな日々の中、私と両親が王城に呼び出された。
それは本当に突然の知らせでーー。
私にリュゼット王国から縁談が届いたと言う知らせだった。相手はリュゼット王国の若き国王イグネイシャス。
何の交流も無いのに……、どうしてそんな縁談が来たのか分からなかった。ただ、相手は私を指名してきた、と……。
「カトリーナ、案ずるな。何とか断れるようにするから……。」
父は強い決意を秘めた目でそう言ってくれたけど……。
婚約者を亡くしたばかりの娘を気遣ってくれたのだと思う。けれど、相手は友好国の王族。断れる可能性が低いことは分かっていた。
「カトリーナ……すまない……。」
リュゼット国王の強い要望で、縁談は断ることは出来なかった。
それは私自身も予想していたことで、駄々をこねたりせずに貴族令嬢らしく嫁ごうと決めていた。
もう大好きだった人はこの世にはいない。政略結婚で他の誰に嫁ぐことになっても私にとっては同じだった。だからーー
「お父様、仕方がありません。両国の友好の証となれるよう、務めて参りますわ。」
「カトリーナ……。」
いつも貴族らしく鷹揚とした父親が、私に涙を見せた。
リュゼット王国の国王は『血塗れ国王』と呼ばれるほど残虐な人物。
彼は前国王の側室の子。王位継承権争いでは、三番目だったそうだ。彼は王位を巡る熾烈な争いの後、即位した。
王位継承争いをしていた長男と次男が命を落とし、彼が王位を継ぐことになったそうだ。そんな彼は即位後も安泰では無く、何度も命を狙われ自ら返り討ちにしてきた。
私の前に娶った二人の妃を自ら殺しているという噂もある。寝室から出てきた国王が妃の返り血を浴びたその姿を見て侍女たちは卒倒したという。
『血塗れ国王』と呼ばれる所以。
貴族として生まれた私は、いずれどこかに嫁がなければならない。
もし、命を落とすことがあっても構わないと思った。
「イグネイシャス王になってからの治世でリュゼット王国の国民は暮らしやすくなったそうです。案外と、優しい人かも知れませんわ。」
残虐であるとの噂される人物だが、その政治手腕は確かで……。近隣国との友好を深め、国を豊かにし、国民からの人気は高い。
「カトリーナ……。すまない。」
父はもう一度私に頭を下げた。
婚姻はリュゼット王国の意向で急いで準備され、1ヶ月後、私は生まれ育った家に別れを告げ血塗れ国王の元へと嫁ぐことになった。
30
あなたにおすすめの小説
いくら時が戻っても
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。
庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。
思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは―――
短編予定。
救いなし予定。
ひたすらムカつくかもしれません。
嫌いな方は避けてください。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】あなたに従う必要がないのに、命令なんて聞くわけないでしょう。当然でしょう?
チカフジ ユキ
恋愛
伯爵令嬢のアメルは、公爵令嬢である従姉のリディアに使用人のように扱われていた。
そんなアメルは、様々な理由から十五の頃に海を挟んだ大国アーバント帝国へ留学する。
約一年後、リディアから離れ友人にも恵まれ日々を暮らしていたそこに、従姉が留学してくると知る。
しかし、アメルは以前とは違いリディアに対して毅然と立ち向かう。
もう、リディアに従う必要がどこにもなかったから。
リディアは知らなかった。
自分の立場が自国でどうなっているのかを。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
一緒に召喚された私のお母さんは異世界で「女」になりました。
白滝春菊
恋愛
少女が異世界に母親同伴で召喚されて聖女になった。
聖女にされた少女は異世界の騎士に片思いをしたが、彼に母親の守りを頼んで浄化の旅を終えると母親と騎士の仲は進展していて……
母親視点でその後の話を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる