努力するのが嫌なので監禁エンドを選びましたが、そろそろ外の空気が吸いたいです【R18】

文字の大きさ
12 / 13

番外編③

しおりを挟む


殿下視点


 シェイラを正妃としてから五年。
 彼女は現在2人目を妊娠中だ。

「殿下、そろそろ出産も近いですし、少し廷内を歩きたいです。」

 ジェフリーのお産の時、普段ほとんど歩かないシェイラは体力が無くて、出産するまでが大変だった。宮廷医や産婆からも、彼女の運動不足に気を付けるように指導を受けていた。

「そうだな……。一緒に庭園や宮廷内を歩こう。」

 俺は快諾して、シェイラとのんびり散歩することにした。





 シェイラはマタニティ用のゆったりとしたワンピースを着ていて少しお腹が重そうだ。転んでしまわないように、手を繋いで廷内を歩いた。
 妊娠中の食事の好みの変化や、新生児の下着の素材について相談しながら歩く。  
 彼女は気分が良いのか饒舌だった。

 こうやって過ごしているとごく普通の夫婦のようだ。彼女は面倒くさがりだが、育児には積極的で良い母親でいてくれる。





「セドリク殿下ぁーっ!」

 二人でのんびりと会話を楽しんでいると、背後から甘ったるい不快な声が聞こえてきた。

 この声は……。

 ブリッコリン伯爵令嬢はシェイラと反対側に回り、腕を絡めてきた。

 何だっ!こいつはっ?
 馴れ馴れしい態度が気色悪くて腕を振りほどこうした……が、

 ……いや

 待てよ。

 シェイラはやきもちを妬いてくれるのか?
 そんな疑問が脳裏を過った。
 俺なら、シェイラに無断で触れた男は闇に葬る。
 けれど、彼女は?
 俺と同じような嫉妬心を感じるのか?

 俺は、ブリッコリン伯爵令嬢の不敬な行為を咎めずに見逃してみた。

 「殿下ぁ~、わたくし王妃様のお茶会に招かれて来たんですのぉ。殿下も一緒にいかがですかぁ?」

 母上は無類の話好きで、良い話相手を見つけてはお茶会に呼んでいる。
 勿論、シェイラは絶対に参加させないが……。

「いや、俺は遠慮しておこう。」

 濃い化粧、臭い香水の匂いが鼻につく。令嬢は俺を上目遣いで見上げ、肘に胸を当ててくる。早くこの腕を振り払いたい。

「えーっ、わたくし、寂しいですぅ~。殿下もたまには息抜きした方が良いですよぉ。お妃さまが妊娠中では退屈でしょう?」

 王太子妃であるシェイラを挑発するような言葉。シェイラの顔をチラリと見ると、彼女は平然としていた。

「しかし、茶会など女の集まりに行っても……。」

「違いますよ、殿下。」

 俺がブリッコリン伯爵令嬢の誘いを断ろうとしたら、それまで黙っていたシェイラが口を挟んできた。

「何が違うんだ?」

「この令嬢は、お茶会に誘っているのでは無く、夜伽に呼んで欲しいと誘いをかけているのです。」

 シェイラはゆっくりと、令嬢の前に立って向き合った。その表情からは怒りは特に感じない。むしろ、笑顔だ。

「ねぇ、貴女。そうでしょ?妊娠中、わたくしが、夜のお相手を出来ないことを知っていて、自分なら夜伽が出来ると言っているのよねぇ?」

「……わ、私は……その……。」

 勿論、令嬢が俺を誘惑していることには気が付いていた。最近は俺がサディストだという噂もあまり聞かなくなった。若い令嬢はそんな噂は知らないだろう。

「その豊満な胸を殿下の肘に押し付けて、感触をアピールしているのよねぇ。」

 シェイラは俺を見てニッコリと微笑んだ。
           
「殿下、お誘いを受けてますよ?どうされます?」

「ほら、貴女も、『閨のお相手に私を選んでください。』ってお願いしたら?」

 シェイラは笑顔だが、令嬢は真っ青な表情で固まっている。

 シェイラが怖い……。
 けれど、これはやきもちか?
 念願のやきもちなのか?

 俺は嬉しくてシェイラをぎゅっと抱き締めた。

「嬉しいよ。シェイラがはじめてやきもちを妬いてくれたっ!!こんなに嬉しいことは無い。今日は二人の記念日にしようっ!シェイラのやきもち記念日だっ!!」

 興奮した俺は、ブリッコリン伯爵令嬢が見ている目の前で、シェイラに熱いキスを落とした。

 シェイラは目を白黒させて躊躇っていたが、俺ががっちり後頭部に手を回し逃げられないようにしてしまうと、少しずつ舌を絡め応えてくれる。

「んっ……はぁ……ぅぐっ……リック……苦し……い。」

 彼女の唇を味わうと、止まることなんて出来ない。
 
「はぁ、シェイラ……可愛い……好きだよ……。」

  愛を囁きながら繰り返し唇を重ねる。
  二人の熱い息遣いとぴちゃぴちゃと湿った音が、辺りに響いた。

「……んっ……はぁ……。」

  興奮してますます深くなる口づけを止めるように彼女が俺の胸を強く押した。

「リ、リック、ここぉー、人前ぇーっ。」

「関係ないよ。」

 俺は再び彼女を強く抱きしめた。
 今すぐ押し倒したいのに、そう出来ないことがもどかしい。けれど、俺の子供がお腹で育っているのだ。
 我慢、我慢……。

 気が付くとブリッコリン伯爵令嬢の姿は見えなくなっていた。

 彼女のことなんてどうでもいい。
 俺はシェイラが愛しくてたまらない。

「これからは、毎年この日をやきもち記念日として祝おう。」

「嫌よ。記念日なんて面倒くさい。」

 俺の胸の中で、苦しそうにシェイラが答えた。




しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

歳の差を気にして去ろうとした私は夫の本気を思い知らされる

紬あおい
恋愛
政略結婚の私達は、白い結婚から離縁に至ると思っていた。 しかし、そんな私にお怒りモードの歳下の夫は、本気で私を籠絡する。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...