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プロローグ
しおりを挟む「もう真っ暗だわ。」
明日の仕込みが終わり、寝る準備を整えたが全く眠れそうには無かった。
「そろそろ始まってる頃かしら?」
私が自室として使っている二階の小部屋の窓からは王城が見えない。
彼が討伐隊の隊長を任され、かの任務に赴いたと聞いた時から、不安で仕方が無かった。
魔獣の突然の大型化、狂暴化で我が国は建国以来の危機に陥った。
ーーあっさり破られた辺境の地。
国民は魔獣の侵攻を恐れていた。
そして彼ら討伐隊が結成されたのだ。
多数の犠牲者を出しながらも、討伐隊は魔獣の駆除に成功して帰還した。
王城では今祝賀パーティーが開かれている筈だ。
今では彼は我が国の英雄だ。
怪我はないか?
痩せてしまってないか?
魔術師団の人と上手くやっていけてるのか?
彼の事が心配で、見える筈も無いのに、外に出た。
「怪我人もいるって聞いたけど……。」
王城の方角を見るとうっすらと明るい。
「今頃ミネルヴァと会っているのかしら………。」
「もう何年も経つもの。顔見ても分からないわよね。」
直ぐには分からないかもしれない。
けれど、彼が必ず私を見つけてくれるような気がしていた。
ーー彼と私には二人だけの約束があるーー
ふと見上げた夜空には、いつもより大きく見える月が浮かんでいた。
私を見てくれているのが、お月様だけのような気がして月を眺めていた。
明日も早起きしなければならない。
それでも眠れるような気がしなかった。
ぼんやりとした視界のなかで月だけが大きくて黄色くて……
どんな時も変わらないその佇まいが私を慰めてくれていた。
ーーー
どれくらいそうしていただろう?
夜風に当たって冷えた身体がぶるりと震えた。
「……寝よう。」
そう声を出した時、不意に明るい月の光を横切る真っ黒な人影が見えた。
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