魔力なしの私と魔術師を目指した少年

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10.バルドル視点

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 俺がこの魔術師協会で訓練を受け、少しずつ協会に入る依頼もこなすようになった頃、不穏な噂が流れた。

「辺境の地ピッソリネの兵団が魔獣討伐に苦戦し、街への侵入をゆるしたそうだ。」
「辺境といえば我が国一番の武力を誇る地。並ぶのは王都にいる騎士団や魔術師団くらいだろう?」 
「なんでも急に魔獣が狂暴になったらしいぜ。」
「おっかねーなー。まあ、王城が騎士団と魔術師団を派遣するようだから、騒ぎは収まるだろうぜ。」

町の食堂に行けば皆がその話でもちきりだった。
けれど国民の期待とは裏腹に騎士団も魔術師団も芳しい成果は得られず、魔獣被害は増加の一途を辿った。

魔獣被害が原因で、農作物の収穫量の減少や魔石の発掘の遅れなど、我が国の経済も徐々に疲弊していった。

いつまで続くか分からないこの状況に、国王陛下は大節制の勅令を出し、貴族達も一様に贅沢を控えた。
魔獣が町へ進攻するのを防ぐのが精一杯で国は手立てを失っていた。

俺はその頃、漸く魔力が協会内で一番多くなり、魔術の形成のスピードも早くなっていた。
俺はディアナが心配で、魔術師として一人立ち出来た今、ディアナを迎えに行くために住む場所を探していた。

そんなある日

「バルドル、お前が王城より召還されている。恐らく討伐隊を結成するのだろう。」

協会の会長に呼び出されそう言われた。

直ぐにアレク先生と共に王都に向かった。
アレク先生は侯爵家の三男で、謁見時のマナー等教えてくれた。

王城なんて入ったことはない。平民の俺が入ることになるなんて考えたことも無かった。
戦闘とは違う緊張感で冷や汗が出る。

魔術師の正装であるローブを身につけ、謁見の間に入ると国王陛下は柔和な笑顔で俺を迎えてくれた。

けれどもその目は施政者のものだ。辺りを如才なく眺めざっと視線を走らせる。

「お主がバルドルか。」
「はい。」
「この国は建国以来の危機だ。国中の戦力を結集して魔獣を食い止めねばならぬ。貴族、平民、騎士、魔術師の境界なく、討伐隊を結成したい。」
「はい。」
「バルドル、お主に各地方にいる兵士、魔術師を国王の名を使い召集することを許可する。王国一の討伐隊を結成し率いよ。」

まさか、自分が討伐隊を?
今まで国の要所は王都の騎士団や魔術師団が守ってきた。
俺がそんな重要な役割を担うなんて思ってもみなかった。

「平民の私がですか?」
「そうだ。無理を承知で頼む。お主はかつて無いほどの魔力拡張を受けたと聞いた。平和な時代が続き危機感の足りなかった王都の騎士団や魔術師団では魔獣は抑えられん。既に魔術操作も王国一だと聞いている。」

それは、俺が目指した国一番の魔術師の仕事。
ディアナも住んでいるこの国を守らなければならない。

「はい。この国を守るため、全力を尽くします。」
「アレクからお主の事は色々と聞いている。あれとは旧知の中だ。褒賞にお主が想いを寄せている貴族令嬢との婚姻を認めよう。さすれば周囲の反対も抑えられる。どうだ?」

この討伐に成功すれば、堂々とディアナを迎えに行ける。
ディアナに苦労させなくてすむ。

「ディアナの意思を優先して、もしディアナが俺の元に来てくれるならお願いします。」

元より陛下の勅命だ。断れる訳が無い。
俺は魔術師協会でも骨のあるヤツを選抜した。他の土地にいる騎士や魔術師の選抜はアレク先生に協力して貰った。

討伐の荷造りの為に久しぶりに魔術師協会の部屋に戻るとハムちゃんが待っていた。

『家を出ます』

彼女が家を出ると決断したことにほっとした。
弟の魔力の有無を心配して実家を離れられずにいたが、もう心残りは無いのだろう。

「行き先は書いてないな。」

これが最後の手紙になる。ハムちゃんを魔獣の森まで来させる訳にはいかない。

『討伐に行く。手紙は書けない。』

最後の手紙にそう書いた。

帰ったらなんとしてでも彼女を探しだそう。
ーーディアナの住むこの国を守るーー
そう決心して討伐に向かった。
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