異種の魔道具使い《ゼノマジックアティライザー》

一ノ瀬 レン

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第一章 縛者の跳躍《スプリング・オブ・バインダー》

16都市を守るために

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リトリアル王国のダンジョン最深部、マスタールームでカイが魔道具の説明を受けていたときのこと。

「これがタッタラ~ン嘘発見器~」

ラディールは妙な効果音とともに一つの魔道具を取り出す。
その魔道具は何の変哲も無い、ただの球体だった。

「これは相手が付いた嘘が分かるという優れものだ。もし私が嘘を付けば……『カイ君はここにいない』『ブー』……このように音が鳴る。どうだい?使えるだろう?」

自慢げに胸を張るラディールをカイは呆れた表情で見つめ返す。

「毎回それを言っていると、すごくてもすごいって言いづらいわ……それに音が相手に聞こえちゃ意味無いんじゃ無いか?」

「君の場合は脳に直接音が届くようになっているから周りには聞こえないよ」

「ほかに欠点は?」

「無いよ。しいて言うなら自分が嘘ついたときにもなるってことくらいかな?」

「十分な欠陥品じゃないか!!何て物搭載してんだ!!」



**************************



そして今、カイの頭に『ブー』という効果音が二度にわたって鳴り響いた。
一度目は「後ろ暗いことは無いのか?」というカイの質問に「ええ、もちろん」と答えたとき。
二度目は「自分は敵国の工作員ではないと?」という質問に対し「ええ違いますよ。私は工作員ではありません」と答えたとき。

これは二つのことを意味していた。
ホルダルには後ろ暗いことがあること。そして彼が敵国の工作員であるということ。
敵国はおそらくリトリアル王国だろう。逆にそれ以外は考えられない。

だからこそカイは端的に事実を伝えた。

「お前、工作員だな」と。

それと同時に二つの出来事が起きた。
一つはホルダルが服の中から四角い物体を取り出し、その中心にあるスイッチを押そうとしたこと。
もう一つは、事前に合図を送っていたシュミルが動き出したことだ。

シュミルは俺の言葉と同時に、魔法――水弾――を放つ。
それは寸分違わず、ホルダルの右手にあたりその手から物体が零れ落ちる。
ホルダルはすぐさまそれを拾おうとしたが、その前に距離を詰めていたシュミルがホルダルの腹に拳をぶち込む。
ホルダルの体がくの字に曲がり体が浮かび上がる。
カイはホルダルの意識が一瞬途切れた瞬間に後ろへ回り込むと、地面に叩き込み土魔法で拘束する。

俺の言葉から此処まで約一・五秒。
あっという間の出来事だった。

その刹那の攻防をみたラインは呆気に取られている。

「おい、起きろ」

カイはホルダルの頬を強く叩いて、起こす。
ホルダルは自分の体が土魔法で完全に拘束されていることを確認しては、演技を続ける。

「私はホルダル商会の会長だよ!?こんなことしていいのかい?」

「それ以前にリトリアル王国の工作員だろ?ラインさん。領軍を派遣して馬車の中身を抑えてください。たぶん危険なものです」

「お、おう」

ラインは上着を手に取り、外へと駆け出そうとする。だが、

「もう、遅い」

ホルダルのその呟きとともに激しく鐘の音が鳴り響く。
その鐘の音は日頃なるときを知らせる鐘の音とは大きく違った。そうまるで……

「緊急事態警鐘だと!?」

「ライン様!!」

この家にラインの部下であろう二人の人物が駆け込んでくる。
その顔は真っ青だ。

「ホルダル商会の積荷が散乱!!中から大量のモンスターが生かされたままで!!まっすぐこちらへ向かっています!!」

「民を今すぐ町の中心部にある避難所へ!!領軍は全力を持ってモンスターの迎撃に当たれ!!」

「は!!」

ラインはいきなりの事態にも冷静に対応する。
流石領主というべきであろう。
駆け込んできた部下は伝令を伝えるため再び外へと駆け出していく。

「あなた」

ルリアが心配そうな顔で後ろに立っていた。
ラインは心配ないというかのように笑う。

「大丈夫だ。お前はクリルと共に避難所へ向かえ」

「はい」

ルリアはクリルの手を引き、町の中心部へ向かい走り出す。
ラインは二人を見送ると拘束されたホルダルの顎を蹴り上げ、意識を刈り取ると簀巻きにしてカイたちに押し付ける。

「お前らはこいつを持って避難所へ向かえ。こいつは牢屋へぶち込むように」

「まって、俺達も行くよ!!」

シュミルは自分達も戦うことを主張する。
だが、ラインは首を横に振る。

「駄目だ。お前らはまだ子供だ。危険なことをする必要は無い」

「僕らは大人だ!!」

「これ以上余計なことを言うな!!早く避難所へ向かえ!!」

ラインはシュミルをきつく叱りつけると、自分はモンスターを迎え撃つため玄関にかけてあった剣を手に取り門のほうへと駆け出す。
カイはホルダルの体を持ち上げると、シュミルを促す。

「おい、シュミル。避難所へ向かうぞ」

「でも!!」

「俺達はまずこいつを牢屋にぶち込む必要がある。それにお前武器も無いだろ?」

「それは……」

「武器なら貸してやる。こいつをぶち込んでからでも遅くは無いだろう?」

「え?」

「俺達は大人だ。自分の行動に責任をもてるなら何したっていいんじゃないか?」

カイはそういうとにやりと笑う。
シュミルはそれに同じように怪しい笑みを浮かべると、うなづく。

「そうだね。俺達が戦場にいっちゃ駄目なんだもんね。だったら俺達じゃない・・・・・・誰か・・が行けばいいのか」

「そういうこと、さあ早く行こうぜ」

「うん」

カイ達はホルダルをぶち込むため避難所へと向かう。
その口に怪しげな笑みを浮かべながら……。



**************************



「ホルダル商会が動き始めたぞ」

コルトの町郊外、その森の木の上で二人の男は話し合っていた。

「ン?何で分かるんだ?」

つまらなそうに寝転がる男はモンスターを焼いて作った肉に齧り付く。

「緊急事態を知らせる鐘が鳴った。おそらくホルダル商会による工作だ」

「ああ、さっきの甲高い音か。でも、あいつら中でモンスターを解き放つって言ってたぜ。今日も入れてなかっただろ?」

つまらなそうな表情を浮かべていた茶色いフードをかぶった男の口角が上がる。
興味深い話題を見つけたときに彼が見せる癖だ。
男は肉の切れ端を投げ捨てて体を起こす。
そんな気まぐれな男を呆れた様子で見ながら、黒いフードをかぶった男が質問に答える。

「おそらく交渉が決裂したのだろうよ。だから、夜も始まったばかりの時間に魔物を解き放ったんだよ」

「ん?時間が関係あるのか?」

「夜になれば魔物を視認することが難しくなる。それならば、五感がより鋭い魔物のほうが有利になるだろ」

「だが、その対策をしてないわけが無いだろ?ほら」

突如として、都市がある方角から強い光が降り注ぐ。
視線を向ければ、町の中心部にある高い建物から強い光が放たれていた。
それにより都市周辺部が明るくなり、モンスターへの対策が可能になっていた。

「こりゃ分が悪いな。モンスターはたいした被害なく駆逐されるだろうし」

「どうしてそう思うんだ?」

「ネックなのはモンスターが町の外で放たれたという事実だ。町の周りには都市を囲むようにして硬い壁、そして門がある。これをモンスターごときが突破できるはずも無い。その前に壁の上から放たれる矢や魔法でモンスターのほうが全滅だ」

「ふん、つまらないな」

「いや、そうでもないみたいだぞ」

バサッバサッという音と共に一羽の梟が舞い降りる。
その足の先には紙が巻きつけてあった。
黒いフードをかぶった男は手を差し伸べ、梟を手につかませると、足から紙を抜き取る。

「指令か?」

「ああ」

この梟は彼らの依頼主から送られたテイムモンスター。
この梟が依頼主と彼らの間を往復し、連絡を取り合っていたのだ。

基本的に魔物は人間を敵視している。
余程のことが無い限りモンスターがテイムされることは無い。
だから、この伝達方法はばれにくくかつ早いやり取りを可能にしていた。

「なんていってる」

茶色いフードをかぶった男は横から指令書を覗き込む。

「おお、これは楽しくなりそうだ」

男は先ほどよりも口角を上げる。心なしか声も弾んでいた。

「門の破壊と領主の暗殺か。領主は前線にいるようだな」

「門を破壊するのは混乱を拡大させるためかね。まあ、こちらとしてもそちらのほうがやりやすいけど……いいのかね?自分がのっとる・・・・・・・都市を壊すのは」

依頼主の懐具合と未来図を予想しながら茶色いフードをかぶった男はキヒヒと笑う。

「門くらいたいした被害じゃないってことだろう」

黒いフードをかぶった男は興味なさげに呟く。
二人は木の上に立ち上がると、音も立てず魔物の死体の上に飛び降りる。
その身こなしは上級冒険者に勝る動きだった。

「今回は楽そうだな。混乱の中で領主をただ暗殺すればいいのだから」

「油断は禁物だぞ。まあ、俺達の敵になるような奴はいないだろうがな『火魔法 揺らめく灯火フリッカートーチ』」

黒いフードをかぶった男は火魔法を発動し指令書を燃やす。
後を残さないようにするためだ。

「「さて、見せ付けようで無いか。暗殺者スピアとカルムの真の力を―――」」

直後二人の姿が揺らめくように消える。

彼らは疑っていなかった。自分達が任務を失敗することを。
今までに沢山の依頼をこなしてきた。その中には上級冒険者の暗殺もある。
彼らはその積み重ねてきた業績から自信を身につけていた。
今回も彼らの実力があれば感嘆に任務を完遂できただろう―――




―――その都市に規格外イレギュラーがいなければ。





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