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しおりを挟むノブユキは白衣の胸ポケットからボールペンを抜き取り、あたしの顔の前にかざした。ゆっくりと上下左右に動かされるボールペンを目で追う。
続いて「部屋の電気を見てくれ」と指示されたため、天井を仰いだ。上から顔を覗き込んできたノブユキが、手のひらであたしの視界を遮る。
「瞳孔は正円、動作に不審な点もないな。瞳孔径も正常範囲だろう」
「眼科的な部分で問題はないと思いますよ? 主治医が何度も調べてるので」
「その主治医というのはどんなヒト?」
「どんな、って訊かれても……ごく一般的な眼科医だと思いますよ。ただ、ちょっと変わった人なのかもと思ったことはあります」
「どんなこと?」
「……内容は伏せさせてもらいますけど、主治医も病気絡みで辛い経験をしたらしいんですよね。『あたしみたいな子供にそんな話までする?』って思うくらい込み入った事情まで、語り始めると止まらなくて。しかも泣きながら」
「リツコちゃんに心を許しているということだろうか。それにしても患者の前で泣くというのは……なかなか理解しがたいね。その医者が初めてお前さんの眼を見たときの反応は?」
「小さい頃のことだからあんまり覚えてないです。母親いわく、主治医に出会うまでに三軒の眼科を回ったらしいですけど」
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