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一章
ならば、体に、証しを残す
その声は、冷徹と周囲に評されるこの男に似つかわしくなく、なんとなく調子が狂う。
忠頼は、己の眉間の辺りを揉みながら、息を吐く。
「怪我をしているなら、もう下がっても良い。だが、それは持っていけ。何かの時に、役に立つやもしれん」
ーーまだ言うのか。
俺は再び、頭を下げながら言う。
「恐れながら、左衛門殿。何の由もないのに、これを受け取ることは出来かねます」
「強情だな」
忠頼はぽつりと呟く。
「では、由を作れば良いのか」
顔を伏せていた忠頼が、目を上げた。その目が真っ直ぐに俺を射抜く。
俺は、ぞくりとした。
「あの、左衛門殿――」
忠頼の眼光の鋭さに、俺の心臓が早鐘を打つように鳴る。
蝋燭の灯が揺れる。遠くで獣が吠える声が一つ、二つ聴こえた。俺は座ったまま、思わず後ずさって、その目から逃げようとした。
しかし、一呼吸遅かった。忠頼は俺の右手を捉えると、身体を俺の方へ滑り込ませる。
そして、そのまま、俺の手の甲に、甲に唇を落とした。
俺は頭が真っ白になった。と同時に、ぶわっと体中が沸騰したかのような感覚におちいる。
忠頼は、俺の左手も取った。
忠頼が唇を落とす。指の付け根に。そして指の先端。掌にも。
「――っ」
忠頼は、俺の手を強く掴んでいるわけじゃない。むしろ、柔く巻き付く蔓のように、自然に俺の手首を支えている。
――くそ、何でだ。
俺は声を押し殺し、体を捩った。全身を襲うこの快楽から逃げようとするが、どうにも上手く行かない。
胸がざわざわとする。息が上がる。体が、こんなにも反応することに、心が付いていっていなかった。
俺は取り敢えずこの場を凌ぐことにした。
「分かりました、証を、受け取ります」
「ああ。そうしてくれ」
忠頼が、あっさりそう言ったので、俺は、ほっとした。これでやっと、この状況から解放される。
だが、忠頼は俺の右手をすいと持ち上げると、俺を押し倒した。
「左衛門殿……?」
目の前に覆いかぶさった忠頼に、俺は呆けたような声で尋ねる。
忠頼は、ひとつも表情を崩さずに言う。
「証の文を受け取ったところで、俺の目がなくなったら、すぐさま竈の火にでもくべるつもりだろう?」
俺はぎくりとして、口をつぐむ。忠頼は俺の体に、ゆっくり手を這わせた。体が、俺の意思とは関係なく、びくりと跳ねる。忠頼は、あくまで淡々と話す。
「ならば、体に証を残す。どうしても嫌なら、自分の力で、逃げてみろ」
滅茶苦茶なことを言われているはずなのに、俺はぼんやりした頭で、全然別のことを思っていた。
――俺は、この声が、嫌いじゃねえ。
「……っ?!」
俺は、はっとして下を見た。忠頼の唇はいま、一番敏感なところを咥えこもうとしている。
俺は動転した。
普段はそういうことを考えない、俺でさえ、身分が、とか、恐れ多い、という気持ちで、身がすくんだ。必死に快楽を押し殺そうとしながらも、自然と呼吸が早くなる。
「あっ……あ……?!」
体中の血が沸騰し、声が漏れる。同時に傷口がずくりと痛んだ。
俺は忠頼の頭をそこから放そうとしたが、その舌づかいに翻弄され、言葉さえ満足に出てこない。俺は言葉の代わりに、忠頼の頭に手を伸ばし、行為を止めようとするが、その手もすぐに抑えられる。
ふいに、忠頼が口を離した。俺はすぐに抗議の声を上げる。
「わかった、もういい、もういいですから、ここまでしないで下さい」
「どうするかは、俺が決める。嫌なら、逃げろと言ったろう」
忠頼はそれだけサラリと言うと、俺が言葉を返す前に、再び俺のものを総て、咥内へ入れてしまう。
「――っ」
忠頼は、俺のものを、優しく吸い上げるようにして、上下させる。
俺は全身を駆け巡る快楽の波に攫われた。ずっと身体を苛んでいた、殴られた痛みさえ、消えていくようだ。
俺は我を忘れて、ただ喘いだ。
言葉も、思考も、痛みも、切なさも、全部混ざった感覚。
もう、いいや、と俺は思った。
――これは、俺じゃない。だって、こんな感覚は、知らない。
その瞬間、快楽が頂点を突いて、俺は達した。ぼんやりとした意識の中、忠頼が、俺の腹に口づけをする感触を感じた。跡をつけているのかもしれない、と俺は、頭の隅で思った。
これが証の代わりだ、という忠頼の声を、俺は、最後に聞いた。
忠頼は、己の眉間の辺りを揉みながら、息を吐く。
「怪我をしているなら、もう下がっても良い。だが、それは持っていけ。何かの時に、役に立つやもしれん」
ーーまだ言うのか。
俺は再び、頭を下げながら言う。
「恐れながら、左衛門殿。何の由もないのに、これを受け取ることは出来かねます」
「強情だな」
忠頼はぽつりと呟く。
「では、由を作れば良いのか」
顔を伏せていた忠頼が、目を上げた。その目が真っ直ぐに俺を射抜く。
俺は、ぞくりとした。
「あの、左衛門殿――」
忠頼の眼光の鋭さに、俺の心臓が早鐘を打つように鳴る。
蝋燭の灯が揺れる。遠くで獣が吠える声が一つ、二つ聴こえた。俺は座ったまま、思わず後ずさって、その目から逃げようとした。
しかし、一呼吸遅かった。忠頼は俺の右手を捉えると、身体を俺の方へ滑り込ませる。
そして、そのまま、俺の手の甲に、甲に唇を落とした。
俺は頭が真っ白になった。と同時に、ぶわっと体中が沸騰したかのような感覚におちいる。
忠頼は、俺の左手も取った。
忠頼が唇を落とす。指の付け根に。そして指の先端。掌にも。
「――っ」
忠頼は、俺の手を強く掴んでいるわけじゃない。むしろ、柔く巻き付く蔓のように、自然に俺の手首を支えている。
――くそ、何でだ。
俺は声を押し殺し、体を捩った。全身を襲うこの快楽から逃げようとするが、どうにも上手く行かない。
胸がざわざわとする。息が上がる。体が、こんなにも反応することに、心が付いていっていなかった。
俺は取り敢えずこの場を凌ぐことにした。
「分かりました、証を、受け取ります」
「ああ。そうしてくれ」
忠頼が、あっさりそう言ったので、俺は、ほっとした。これでやっと、この状況から解放される。
だが、忠頼は俺の右手をすいと持ち上げると、俺を押し倒した。
「左衛門殿……?」
目の前に覆いかぶさった忠頼に、俺は呆けたような声で尋ねる。
忠頼は、ひとつも表情を崩さずに言う。
「証の文を受け取ったところで、俺の目がなくなったら、すぐさま竈の火にでもくべるつもりだろう?」
俺はぎくりとして、口をつぐむ。忠頼は俺の体に、ゆっくり手を這わせた。体が、俺の意思とは関係なく、びくりと跳ねる。忠頼は、あくまで淡々と話す。
「ならば、体に証を残す。どうしても嫌なら、自分の力で、逃げてみろ」
滅茶苦茶なことを言われているはずなのに、俺はぼんやりした頭で、全然別のことを思っていた。
――俺は、この声が、嫌いじゃねえ。
「……っ?!」
俺は、はっとして下を見た。忠頼の唇はいま、一番敏感なところを咥えこもうとしている。
俺は動転した。
普段はそういうことを考えない、俺でさえ、身分が、とか、恐れ多い、という気持ちで、身がすくんだ。必死に快楽を押し殺そうとしながらも、自然と呼吸が早くなる。
「あっ……あ……?!」
体中の血が沸騰し、声が漏れる。同時に傷口がずくりと痛んだ。
俺は忠頼の頭をそこから放そうとしたが、その舌づかいに翻弄され、言葉さえ満足に出てこない。俺は言葉の代わりに、忠頼の頭に手を伸ばし、行為を止めようとするが、その手もすぐに抑えられる。
ふいに、忠頼が口を離した。俺はすぐに抗議の声を上げる。
「わかった、もういい、もういいですから、ここまでしないで下さい」
「どうするかは、俺が決める。嫌なら、逃げろと言ったろう」
忠頼はそれだけサラリと言うと、俺が言葉を返す前に、再び俺のものを総て、咥内へ入れてしまう。
「――っ」
忠頼は、俺のものを、優しく吸い上げるようにして、上下させる。
俺は全身を駆け巡る快楽の波に攫われた。ずっと身体を苛んでいた、殴られた痛みさえ、消えていくようだ。
俺は我を忘れて、ただ喘いだ。
言葉も、思考も、痛みも、切なさも、全部混ざった感覚。
もう、いいや、と俺は思った。
――これは、俺じゃない。だって、こんな感覚は、知らない。
その瞬間、快楽が頂点を突いて、俺は達した。ぼんやりとした意識の中、忠頼が、俺の腹に口づけをする感触を感じた。跡をつけているのかもしれない、と俺は、頭の隅で思った。
これが証の代わりだ、という忠頼の声を、俺は、最後に聞いた。
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