ただの雑兵が、年上武士に溺愛された結果。

みどりのおおかみ

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二章

戦からの帰途5 未練が

  生き物の少なくなった、冬の森では、小さな鳥の声さえ、ひどくよく聞こえた。俺は冷たく柔らかい土の感触を、掌に感じながら、うとうとしていた。
――馬鹿野郎。眠っちゃ駄目だ。
  そう自分を叱責する。だが、俺の感情はほとんど動いていなかった。今は、とにかく、起き上がりたくない。
 俺は横になったまま、最後に食べた飯のことを思い出していた。ちゃんと炊かれた、柔らかい飯を食ったのは、いつのことだったろうか。
 一度そんなことを考え出すと、堰を切ったように、次から次へと、飯のことばかり、思い浮かんだ。意識がはっきりしていた時は、つとめて考えないようにしていたから、尚更だった。
 野菜や、木の実と、米を一緒に蒸して作る、炊き込みご飯。あれは、村の祭りの時にだけ、食べられたご馳走だ。正月に、邪気払いに飲む、ふんわりあまい酒。川で捕った魚を炙って、立ち上る脂の香りと一緒に、かぶりついたこと。
 食べ物のことを考えていたはずなのに、いつのまにか、親戚や、村の者たちの顔が浮かんだ。苦い思いが、胸に広がる。 俺は村が嫌いだった。
 父さんと母さんが死んだときのことを、思い出す。
 俺が七つの頃、村のそばで、戦が始まった。父さんは、傷だらけで逃げてきた侍を、ひとり、匿った。
 それが、いけなかった。敵兵は、俺たちの村に、侍を探しに来た。
 俺は、その時、他所の家に遊びに行っていたが、父、母、兄は、侍をかくまっていた咎で、やってきた敵兵に殺された。敵兵は、近隣の住民からも物や食料を奪うと、そのまま去って行った。
 身寄りをいっぺんに失くした俺は、叔父たちに引き取られた。だが、周りの態度は、けして温かいものではなかった。俺は、村に災いをもたらした元凶として、無視され、排斥され続けた。
――それでも。
 俺は、村を出なければよかった、とは思わなかった。戦で死ぬような思いをしても、今、こんな風に野垂れ死にしそうになっていても。
 戦場という非日常の中だからこそ、生まれる絆が、あった。俺は、初めて、人に、自分の心の内を話すことができた。
 五郎兵衛と庄吉の顔が、浮かぶ。生きていてほしい、と、俺は芯から願った。自分が死にそうなのに、こんな風に思うのは、おかしいのかもしれないが。
 孝太郎と源太は、どうなったろう。今回は、別の場所で戦っているから、安否は分からない。善戦している、とは聞いていたが、どうなのだろう。
 源太は、俺がここにきて、最初に、心を開けた友だった。俺が、自分の村が嫌いだと言ったら、なら俺の村に来ればいい、と言ってくれた。
 最後に、忠頼の顔を思い出した。呆れるほど、いつも思い出しているその顔は、いつもの、仏頂面だ。
 だが、今は、忠頼のそのまなざしの温かさを、己の身の内側に感じた。
――未練がましいな。
 俺は自嘲した。忠頼と話すのは、弓場を行き来する、僅かな間だけだった。再会してから、結局、俺たちは、たった一度しか――。
 俺は、とぎれとぎれの意識の中から、思い出を継ぎ合わせようと努力した。
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