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三章
歯止めが利かない
俺は即座に立ち上がり、忠頼の身体に転がり込むように抱き着く。忠頼が俺の背に、優しく手を置き、さすった。
忠頼の手が触れ、俺は胸がぎゅうと押しつぶされるような心地がした。俺は忠頼に抱き着いたまま言った。
「――道具の手入れは終わったのかよ」
「お前があまり凝視するから、やめた」
俺は、顔が熱くなるのを感じた。
「仕方ねえだろ。どうせ……俺の方が、お前のことを好きなんだ」
「そうだろうか」
「だってお前は……俺に会いたくて、我慢できなくなることなんて、ないんだろ」
忠頼が、俺を抱きしめる手に、ぎゅっと力を籠めた。それから身を離すと、俺の目をじっと覗き込むように見つめた。
「お前は本当に、そう思うのか」
忠頼はそうつぶやくと、俺の頭の後ろをぐっと掴み、そのまま口づけをした。
「ん、……ふ……っン」
息継ぎの瞬間さえ勿体ないような口づけだった。俺は体の中が沸騰しそうに熱くなり、忠頼の衣をギュッと掴む。
ようやく口を離すと、忠頼が言った。
「お前に触れてしまったら――歯止めが利かなくなるだろう」
忠頼が俺の首筋を、短い音を立てて吸う。それから唇を耳に止せ、優しく歯を立てる。
「――っあ……」
俺は体中に脈を打つ快楽になすすべもなく、無意識に体を縮める。
だが、目を閉じる刹那、忠頼の顔を見て、何故か俺は、ぎくりとした。
――なんだ?
ほんの僅かな違和が、俺に歯止めをかけた。
いつの間にか、俺の着物の紐が解かれ、帯が解かれていた。
俺は快楽の波に揺蕩いながら、何とか、己の思考をつなぎとめようとした。
忠頼のもたらす安堵と歓喜で、俺の体は、はちきれそうになっているはずなのに、心は逆に、妙に静かになっていく。
俺は開けられた己の襟を掻き合わせようとしながら、吐息の中で言葉を発する。
「ん、忠頼……なあ」
俺は忠頼の注意を引こうとする。だが忠頼はそのまま、ゆっくりと俺を押し倒した。
忠頼の指が俺の指先に絡む。その感触に、俺の身体の全てが、ぞくぞくと震えた。
「――どうした?」
その声に、俺はパッと目を開けた。瞬間、上に乗っている忠頼と、目が合った。
――あ。
その刹那、俺の中でぼんやりと感じていたことが、急にはっきりと像を結んだ。
俺は忠頼の胸に手を当て、ゆっくりと胸を起こした。俺たちは真正面から向き合って、座った姿勢になる。
「――忠頼。少し待ってくれ」
声が掠れ、俺は一つ咳をする。忠頼は闇の中、微動だにしなかった。しきりに鳴く蛙や虫の声がやけに耳障りに感じる。俺は胸がざわざわした。
俺は小さく息を吸い込むと、語を継いだ。
「お前……何考えてる?」
忠頼はしばらく、俺を見詰めてから、言った。
「何故、そのようなことを聞く」
忠頼の声には、ほんの僅かな躊躇いがあった。それは俺に、妙な確信を与えた。
「――目が違え。お前の目に、不安がない。今お前が……そんな目をしているのは変だ」
戦の前、忠頼が俺を見る時はいつでも、どこか、悲しげな色があった。俺を失う事への、恐怖と不安。しかし、今、忠頼の目にはそれがなかった。
忠頼は、ふう、と静かに小さく、息を吐いた。そして、足を立て膝に崩し、床に眼を落としたまま、暫く黙る。
忠頼はようやく、ぽつりとつぶやいた。
「お前は、次の戦に来なくていい」
「……は?」
声が震える。
忠頼の手が触れ、俺は胸がぎゅうと押しつぶされるような心地がした。俺は忠頼に抱き着いたまま言った。
「――道具の手入れは終わったのかよ」
「お前があまり凝視するから、やめた」
俺は、顔が熱くなるのを感じた。
「仕方ねえだろ。どうせ……俺の方が、お前のことを好きなんだ」
「そうだろうか」
「だってお前は……俺に会いたくて、我慢できなくなることなんて、ないんだろ」
忠頼が、俺を抱きしめる手に、ぎゅっと力を籠めた。それから身を離すと、俺の目をじっと覗き込むように見つめた。
「お前は本当に、そう思うのか」
忠頼はそうつぶやくと、俺の頭の後ろをぐっと掴み、そのまま口づけをした。
「ん、……ふ……っン」
息継ぎの瞬間さえ勿体ないような口づけだった。俺は体の中が沸騰しそうに熱くなり、忠頼の衣をギュッと掴む。
ようやく口を離すと、忠頼が言った。
「お前に触れてしまったら――歯止めが利かなくなるだろう」
忠頼が俺の首筋を、短い音を立てて吸う。それから唇を耳に止せ、優しく歯を立てる。
「――っあ……」
俺は体中に脈を打つ快楽になすすべもなく、無意識に体を縮める。
だが、目を閉じる刹那、忠頼の顔を見て、何故か俺は、ぎくりとした。
――なんだ?
ほんの僅かな違和が、俺に歯止めをかけた。
いつの間にか、俺の着物の紐が解かれ、帯が解かれていた。
俺は快楽の波に揺蕩いながら、何とか、己の思考をつなぎとめようとした。
忠頼のもたらす安堵と歓喜で、俺の体は、はちきれそうになっているはずなのに、心は逆に、妙に静かになっていく。
俺は開けられた己の襟を掻き合わせようとしながら、吐息の中で言葉を発する。
「ん、忠頼……なあ」
俺は忠頼の注意を引こうとする。だが忠頼はそのまま、ゆっくりと俺を押し倒した。
忠頼の指が俺の指先に絡む。その感触に、俺の身体の全てが、ぞくぞくと震えた。
「――どうした?」
その声に、俺はパッと目を開けた。瞬間、上に乗っている忠頼と、目が合った。
――あ。
その刹那、俺の中でぼんやりと感じていたことが、急にはっきりと像を結んだ。
俺は忠頼の胸に手を当て、ゆっくりと胸を起こした。俺たちは真正面から向き合って、座った姿勢になる。
「――忠頼。少し待ってくれ」
声が掠れ、俺は一つ咳をする。忠頼は闇の中、微動だにしなかった。しきりに鳴く蛙や虫の声がやけに耳障りに感じる。俺は胸がざわざわした。
俺は小さく息を吸い込むと、語を継いだ。
「お前……何考えてる?」
忠頼はしばらく、俺を見詰めてから、言った。
「何故、そのようなことを聞く」
忠頼の声には、ほんの僅かな躊躇いがあった。それは俺に、妙な確信を与えた。
「――目が違え。お前の目に、不安がない。今お前が……そんな目をしているのは変だ」
戦の前、忠頼が俺を見る時はいつでも、どこか、悲しげな色があった。俺を失う事への、恐怖と不安。しかし、今、忠頼の目にはそれがなかった。
忠頼は、ふう、と静かに小さく、息を吐いた。そして、足を立て膝に崩し、床に眼を落としたまま、暫く黙る。
忠頼はようやく、ぽつりとつぶやいた。
「お前は、次の戦に来なくていい」
「……は?」
声が震える。
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