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四章
虚日2
泰蔵は飯を置いて、頭を下げる。
七年前。隣村の市の帰りだった。少し寄り道をした俺は、陽が沈みかけた人気のない道を歩いていた。その時、急に悲鳴が聞こえ、俺は驚いて、声のした方へと走った。
道を登った先の道に、すぐに駕籠と、人の塊が見えた。
一人の裕福そうな男が、駕籠から引きずりだされて、殴られ、蹴られていた。八人ほどの従者や、荷物持ちは、皆、震えながら、四人の追剥の仲間に囲まれて立ち往生していた。
俺は携えていた槍を握ると、そのまま賊を襲った。賊は逃げ去り、俺は殴られていた男を助け起こした。
それが宗十郎の父、孫六との出会いだった。
孫六は、財産も、命も、俺に救われたと思ったようだった。襲われた日も、駕籠には金が乗せてあったのだ。
俺は孫六に、どうしても礼がしたい、と家に招かれ、そのまま村へ行った。孫六の家は大きく、豪華だった。
話すうちに、孫六は隣村の神人(下級の神職・特権を得、商売をした)であり、いくつかの村の米の流通を取り仕切り、財を成していることが分かった。しかし、品物の運搬はいつも危険と隣り合わせで、危険な仕事であることも、彼は言った。
孫六は荷物を運ぶときの用心棒として、俺を雇いたいと言った。俺はそれを受けた。
俺は次第に信用され、孫六の家の者が個人的に遠出をする際にも、同行するようになって――今に至る、というわけだ。
「泰蔵は三郎の味方だ。俺は騙されない」
訝し気な目を向ける宗十郎を、俺は無視し、食器を水ですすぎながら飲み干す。
「信用しなくてもいいから、草履を履け。今日中にあの山を越えなければ、三日後に、宗十郎殿の叔父殿の家には着かないぞ」
今回の旅の目的は二つあった。隣村に住んでいる叔父の四十の祝いのためと、その妻の父親が亡くなったので、香典を持っていくことだ。
宗十郎は、俺が指さした山を見て、舌打ちをした。
「だいたい、何でわざわざ、俺が行かないといけないんだ」
宗十郎に睨まれた泰蔵が、荷物を背負いながら言う。
「単純に、皆忙しかったのでしょう。葉月が終わりかけ、長月が始まるこの時季は、稲の借り入れと種植えが同時に来ます。そうなると管理する側も忙しい。実際の仕事にくわえ取れ高の帳簿つけ、分配、新米を流通に載せるための手続きや根回し等、やることはいくらでもあります」
「だからって、俺が行かなくても」
「いえ、祝賀会に行くのは、宗十郎様にとっても良いことです。叔父上殿が、小遣いをくれますし。しかし、急いだほうが良いと私も思います」
「なんだよ」
「祝賀会に遅れたら、その額は少し、下がるかもしれません」
泰蔵は己の顎に手を遣りながら、濃い一本眉をすこし上げた。
宗十郎は鼻に皺を寄せ、わざとらしく息を吐いた。それからようやく、草鞋を結びにかかった。
七年前。隣村の市の帰りだった。少し寄り道をした俺は、陽が沈みかけた人気のない道を歩いていた。その時、急に悲鳴が聞こえ、俺は驚いて、声のした方へと走った。
道を登った先の道に、すぐに駕籠と、人の塊が見えた。
一人の裕福そうな男が、駕籠から引きずりだされて、殴られ、蹴られていた。八人ほどの従者や、荷物持ちは、皆、震えながら、四人の追剥の仲間に囲まれて立ち往生していた。
俺は携えていた槍を握ると、そのまま賊を襲った。賊は逃げ去り、俺は殴られていた男を助け起こした。
それが宗十郎の父、孫六との出会いだった。
孫六は、財産も、命も、俺に救われたと思ったようだった。襲われた日も、駕籠には金が乗せてあったのだ。
俺は孫六に、どうしても礼がしたい、と家に招かれ、そのまま村へ行った。孫六の家は大きく、豪華だった。
話すうちに、孫六は隣村の神人(下級の神職・特権を得、商売をした)であり、いくつかの村の米の流通を取り仕切り、財を成していることが分かった。しかし、品物の運搬はいつも危険と隣り合わせで、危険な仕事であることも、彼は言った。
孫六は荷物を運ぶときの用心棒として、俺を雇いたいと言った。俺はそれを受けた。
俺は次第に信用され、孫六の家の者が個人的に遠出をする際にも、同行するようになって――今に至る、というわけだ。
「泰蔵は三郎の味方だ。俺は騙されない」
訝し気な目を向ける宗十郎を、俺は無視し、食器を水ですすぎながら飲み干す。
「信用しなくてもいいから、草履を履け。今日中にあの山を越えなければ、三日後に、宗十郎殿の叔父殿の家には着かないぞ」
今回の旅の目的は二つあった。隣村に住んでいる叔父の四十の祝いのためと、その妻の父親が亡くなったので、香典を持っていくことだ。
宗十郎は、俺が指さした山を見て、舌打ちをした。
「だいたい、何でわざわざ、俺が行かないといけないんだ」
宗十郎に睨まれた泰蔵が、荷物を背負いながら言う。
「単純に、皆忙しかったのでしょう。葉月が終わりかけ、長月が始まるこの時季は、稲の借り入れと種植えが同時に来ます。そうなると管理する側も忙しい。実際の仕事にくわえ取れ高の帳簿つけ、分配、新米を流通に載せるための手続きや根回し等、やることはいくらでもあります」
「だからって、俺が行かなくても」
「いえ、祝賀会に行くのは、宗十郎様にとっても良いことです。叔父上殿が、小遣いをくれますし。しかし、急いだほうが良いと私も思います」
「なんだよ」
「祝賀会に遅れたら、その額は少し、下がるかもしれません」
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