ただの雑兵が、年上武士に溺愛された結果。

みどりのおおかみ

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四章

虚日3

 正午ごろ、俺たちは山の中腹から、自分たちの住んでいる村を、はるかに望んだ。
 山の間を埋めるように段々になっている金色の田んぼは、俺たちの住む村が、この地方でも有数の穀倉地であることを、ありありと示していた。
 泰蔵が足を止めたまま、呟く。
「こうして高いところから眺めると、なかなかに壮大ですね。宗十郎様の国は」
「俺のじゃない。喜一朗と、勝次郎のだ」
 宗十郎がつまらなそうに言う。喜一郎と勝次郎とは宗十郎の二人の兄のことだ。、
「大丈夫です。その辺は父親が便宜を図ってくれますよ」
 泰蔵が言う。宗十郎は、しばらく風景を眺めていたが、ふいに景色から眼をそらすと、歩き出した。
「――どうだろうな。母さんが死んだ今、愛人の息子である俺なんて、邪魔なだけだ」
 泰蔵がなにかを言おうとした。が、宗十郎はそれを遮るように、大きな声で言った。
「ああそうだ。ところで三郎、お前、先の戦で、戦ったのか?」
「あ? なんだ、藪から棒に」
 急に水を向けられ、俺は歩きながら、宗十郎を少し振り向く。
「そんなに強いのなら、そうに決まってるって、家の者が話していた。お前がいくつか持っているその槍の形も、ここらのものとは違う。それに、ただの流れ者が持つ槍にしては、立派すぎると、お前の槍を直した職人も言っていた」
 枝葉の隙間から、太陽の光がこぼれ、地面に模様を作る。葉擦れの音を聞きながら、俺は柔らかい土の上を、黙ってゆっくりと歩き続ける。
 宗十郎は諦めずに、俺の後ろで、声を張り上げる。
「なあって、三郎、お前、戦で、何人殺したの」
 俺は歩きながら息を吐く。
「――覚えてないな」
「嘘だ。なあ、戦場の話をしてくれよ」
「なんでそんな、面白くもないこと聞きたがる」
「いいから。退屈なんだ」
 その時、ふと足が軽くなる。足もとを見ると、草履の紐が切れていた。俺は屈んで紐を縛る。宗十郎が後ろから、さらに言った。
「おい。話をしないと。父様に、三郎が反抗的だと言いつけるぞ」
 俺は、俺の横に追いついた泰三と、ちらと目を合わせた。そして二人で、宗十郎をじっと見つめる。
「宗十郎様。三郎殿だって話したくないことはあるんじゃないでしょうか」
「何だよその目は。二人して」
 宗十郎は、泰蔵と俺が結託したのが気に入らなかったらしい、機嫌を損ね、そっぽを向いて、地面を蹴った。
 俺は一つ息を吐くと、立ち上がりながら言った。
「はいはい、わかったわかった。じゃあ、聞いた奴の話をしよう――あるところに、農民上がりの雑兵がいた。だが結局、加勢したほうの軍は散り散りになり、恩賞も貰い損ねた。雑兵は流れ着いた集落で、農民になった。はい、おしまい」
 宗十郎がぽかんとし、それから盛大に顔を顰めた。
「なんだ、その、糞つまらない話」
 俺と泰蔵はふたたび顔を見合わせると、再び、宗十郎を無視して、山道を登り始める。
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