私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

文字の大きさ
63 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?

63、花の香。

しおりを挟む




勧められた水は、ほのかにレモンの味がして、しっかり冷やされていて……これもお気に入りだった。
林檎をそのまま小さくした、サイズはさくらんぼの真っ赤な果実から作った酸味の強い……
クランベリージャム、これもお気に入り。

あれもこれもと、勧められるもの全てが懐かしくて。
主に学園内で食べていたシンプルな食事だけど、その習慣も調理法も、国ごと失われてしまった過去のものだったから、ここまでたくさん揃えられていると、あまりの懐かしさに、思わず涙がぽろりと零れた。


「懐かしいかい?」


私の涙に気づいたのか、琥珀色の双眸が一瞬驚いたように見開かれ、嬉しそうに目を細めて笑みを浮かべる。


「……からい」


ローストビーフのサンドイッチに入れられていた西洋山葵ホースラディッシュのせいにした。


……ルークの本日一番の残念顔が見れた気がする。ごめんね。


でも、なんか、セシリアわたしがシシリーだと確信してるようだけど、確かにそうなんだけどさ、それを認めてしまったら、何か本当にやばそうな気がしたから。


「シシリー、はやく、思い出せると良いね……今から成長が楽しみでしょうがないよ」


私の髪をすきつつ、頭にキスを落とし、低く甘くうっとりと、しかし内緒話のように囁く。
お年頃な女の子であれば、ルークのその端正な顔立ちを間近に迫られたら、夢見心地にでもなるんだろうけど……私には、滅茶苦茶くすぐったい!

まだ3歳児ようじですからね?
ていうか、昔読んだことのある恋愛小説なんかの主人公とかなら、顔が真っ赤になったりするのかなぁ?
そもそもリアルでこんな体験することなんてなかったし、わかんないからね?

って、やっぱりダメだ…これはシシリーと認めたらやばいと思う。
どう考えても父様、母様や、セグシュ兄様のように、子供がただただ可愛くて愛でる意味でのキスや、愛情表現では無い、妙な熱を感じる。


(うーん、前前世むかしシシリーわたしはルークに何かしてしまったのだろうか?)


何かされたような記憶はないし、そもそも、こんな扱いを受けた記憶もない。

前前世むかしシシリーわたしは、セシリアいまのわたしほど美人じゃ無いし、家柄だなんだかんだと言う所では、そもそも孤児だった。
自分の出自なんて知らない。

大人になってそれなりの立場になると、何人もの知らない親戚が名乗りを上げてきたけど、そのどれも少し調べただけですぐわかるくらいに、私の本当の親族ではなかった。

シシリーわたしの死因は…ん~記憶に無いけど、まぁこれもロクな死に方しなかった第一号だった気がする。
その場にルークはいなかったと思う。


(確か……ルークは、それよりもずっと前に学園から離れていたはずなんだけど)


あ、あれですよ進路の違いってやつです。
私はそのまま学園に残り、研究を続け教授職っていえば良いのかな、先生をやりつつ研究もやっている。そんな進路と生活を選んだ。

ルークはその類稀なる魔力と知識を見込まれて、今世いまで言う、私の父様と同じ役職についた。
ちょっと名称が違うけどね。

ただ、全く接点がなくなってしまったわけではなくて、今と同じで学園は国立だったし、ルークは国仕えの魔術師なので、挨拶程度で言えば王城で会うこともあった。
でも、学生時代が終わってしまえば、互いに特別な関係では無い限り、そういうものだよね。


「……お茶をどうぞ」


黙りこくってしまった私を覗き込むようにして、漆黒の艶髪がさらりと滑り降りてくる。
目の前ではいつもより赤みの強い紅茶が注がれていく。
レモンのスライスとお砂糖がふわりと現れて、カップに飛び込む。

お砂糖2個にレモンスライスは、紅茶で踊らせた後は、実の部分を絞って……。
絞られたレモンスライスが、ひょこりと小皿に着地した。
魔法のような光景というか、まんま魔法なんだけど、やっぱり見ていて楽しいから見惚れちゃう。

しかしだ、これは完全にシシリーわたしの好きな飲み方ですね。
つまりこれ、ローズヒップティーだね。

ローズヒップティー自体が酸味のあるハーブティーなのだけど、さらにレモンの酸味を強く使ってお砂糖を入れると……ホットレモネードのような、幸せな味になるんです。
まぁ、甘酸っぱくて子供好きする味ではあるよ。
ローズヒップティーは…メアリローサ国こっちでも手に入るのかな?
お取り寄せしたい勢いである。


(薔薇咲いてるし、実のなる品種を探して、お茶にする技術があれば作ることも可能か……なければ自分で作ってみようかしら)

メアリローサ国こちらでは珍しいお茶なんだが、どうだい?」

「おいしい、でしゅ…」

「それは良かった!では後で少し持たせよう」


レモンをたっぷり加えたローズヒップティーは、いちごのような鮮やかな赤へと変化していた。
お茶というよりは何かのジュースのような色で、アイスで入れると本当にジュースみたいに見えるんだよ。


(残念。メアリローサ国こっちには無いのか……)


ルークは相変わらず私の髪を優しくすきながら満面の笑みを浮かべている……んだけど、そろそろ脱出したい。

本当は、ルークと懐かしいお話もしたいし、シシリーわたしの死亡後から今までにあったこととか、聞きたい。
他の友達のお話も…まぁ少しは聞きたい。
ルーク以上に長い付き合いになった友達は少ないけどね。

それと、私が研究していたモノ。
あれって私が死亡しいなくなった後はどうなったのかなとか。


(まぁ、内容的に奪える類のものでは無いんだけど。むしろその研究結果をその後の技術へと利用されていけたのなら、嬉しいかな、とか)


……知りたいけど、すごく知りたいけど!今はやめておこう。
なにかが、強く危険だと鳴っている。


「るーくしゃま、おかしゃまのところにいきたいの」


ルークの膝から降りようとしたところ、するりと支えられるように元の位置に戻されてしまったので、お願いしてみる。
すると、膝の上で横座りから、正面に向きを直されて、ふわりと後ろ抱きにされる。

……体格差もあって、完全にすっぽりとおさまってしまう。

セグシュ兄様によくされてる座り方……なんだけど、これまた体格差かなぁ。
安定感が違うね!…じゃなくて、本当に周囲から完全に私の姿が隠されてしまうほどに、すっぽりとおさまる。

これってすごく温かくて、安心するんだよね。
セグシュ兄様によくされるんだけど、寝れる。
馬車の時とか、そこに程良い揺れも伴うので、もう、熟睡だったもんね。

でも、ルークのは熱い!というか、こそばゆい!
安心とは真逆に、警戒音が頭の中でがんがん鳴り響く。
聞こえる心音だって、そんなに変わらないのに。


(ぎ…ぎゃあー!くすぐったい!)


頭に軽く圧迫感があり、右耳に熱をもった呼気が降ってくる。
私の頭に頬をよせてるようなのだけど、私は絶賛、くすぐったさと格闘中である。


「……本当に、良い香りだ。呪いで抑えるのが…勿体無い……」


いつの間にやら、いつものぼそぼそ呟き会話に戻ってる……?
そう思いつつ、何とか脱出しようともがき始めると、ふわりと開放され、床に下ろされる。


「ありがとうございましゅ」

「……そうだね、独占しすぎてはいけないね。ではまた今度」


寂しげな笑みを浮かべるとぽつりと呟きを落とした。


「急く…必要も、無い……」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました

朔夜
ファンタジー
この世界は「アステルシア」。 魔法と魔物、そして“従魔契約”という特殊な力が存在する世界。代々、強大な魔力と優れた従魔を持つ“英雄の血筋”。 でも、生まれたばかりの私は、そんな期待を知らず、ただ両親と兄姉の愛に包まれて育っていった。

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...