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はじまりはじまり。小さな冒険?
73、はじまり。
しおりを挟むドアの開閉音が聞こえたので、振り向くと、家令や執事、メイドさん達がずらりと勢ぞろいしていた。その列の端の方にセリカやユージアも見えてちょっとほっとする。
「さて、今日からの予定だが……」
スタッフが勢揃いしたのを確認して、父様のお話が始まった。
いつもならこのタイミングまでに、食後のお茶まで到達すべく、とにかく必死に詰め込む感じなのだけど、今日はゆっくりとお茶を楽しめる余裕があった。
まぁ、お話……は両親の弾丸トークを聞いてるだけだったけど。
(下手なことを喋って墓穴掘りたくないし)
正餐室と食堂の言い間違いとか、素で知らなかったんだからしょうがないでしょ!って言いたいんだけど、母様もだけど、またルークの前でやらかしたら目も当てられない事になりそうだし。
「まずは、タウンハウスの修理が完了したので、本日より荷物等もだが各々の移動を完了してもらいたい。なお、こちらの引き渡し予定は明後日までとしてあるのだが、できれば早めに移動を完了したい」
その声とともに、すでにある程度は動きも決めてあったのだろうか、それぞれが動き始める。
「セシリアは本日より龍の巫女として登城する事になった。付き添いはエルネストとユージア。セリカはタウンハウスを整えることを優先する様に。2人はセシリアを龍の離宮へ送った後、それぞれに予定があるので、魔術師団の執務室を訪ねるように」
「「「はい」」」
ひとまず返事。そして、巫女の仕事かぁ。
何するのかなぁ……。
エルネストとユージアも何か予定があるって、何するんだろう?
むしろそっちの方が気になるんだけど。
私も初めてのお勤め(?)ていうか、3歳時にお勤めとかおかしいな。
幼稚園的なものと考えちゃってもいいのかしら?
それ以上に、エルネストもユージアも今までの生活から、暮らしも環境も、私以上に全てが変わってしまった状態なわけだし、これからさらに何が始まるのか、想像もつかないと思うんだよね。
(ま、私の巫女業も全く想像つかないけどさ)
2人ともしんどくないといいなぁ。
ちらりと正面の席に座るエルネストを見ると、あからさまに目を背けられた。
えぇぇ……なんか嫌われてる?
ユージアは、私の視線どうこう以前に、既に青い顔をしていた。
あ……別行動って、ユージアの場合は、ルークの元へ送られる可能性がものすごく高いのか。
ユージアがんばれっ!
父様がそれぞれに指示を出すのを、軽く聞き流しながら、頭の中で巫女のお仕事が終わったあと何しようかな?と楽しい妄想を膨らませている間に、馬車の準備ができたとのことで、私たちは移動を開始した。
今日は、セグシュ兄様は婚約者と打ち合わせがあるとかで、お茶会ってやつですね。
兄様の婚約者はマリーというお名前で、かなりハキハキした感じの面白いお姉さんだった。
また遊びに……あ、今来られても遊んでもらえないのか。
(思いっきり可愛い!って褒めていっぱい遊んでくれるお姉さんなんだよね)
幼いからこそ遊べたり、礼儀も無視できてたんだから、私の今のこの姿だと色々難しいかもしれない。
うーん、そう考えると幼児の身体に戻りたい。
まぁ、セグシュ兄様の本来の予定が、彼女のデビュタントの打ち合わせも兼ねて、長期休暇を申請して、ついでに私の魔力測定会の付き添いもしてもらって……って流れだったみたいなんだよね。
大怪我!なんてトラブルもあったけど、完治もしたし、本来の予定どおりの行動になるんだって。
……後遺症、残らなくて本当に良かった。
「セシリア、おいで」
「あれ……?」
玄関ホールのドアを出たところで、馬車の中へ誘導しようとしてくれたユージアに声をかけられて、違和感。
あれ……私より小さいよ!?
首を傾げながらも手を差し出さされたので、私も手を……ってやっぱ小さいよ!?
ユージアには抱っこされたり、小脇に抱えられたりで、セグシュ兄様に次ぐ、ここ最近の年長組だと思ってたのに、なんか小さいよ?
「どうしたの?」
不思議そうな顔をしながらも、馬車へ乗り込む際によろけない様にと、手を引いてくれているのだけど、視線も少し私より低くて、私を見るたびに上目遣いの様になってて、可愛いんだけど!
私のすぐ後ろを歩く、エルネストに至っては、私の腰くらいまでしか身長がなくて。
淡い藤色の幼児特有のふわふわな髪と小さな手がすごく……あ!
えっと……ショタじゃないぞ!
一瞬、自分の性癖に軽く戦慄しかけたところで、もち直す。
(うん、断じて違う)
なんていうか、孫を見る目ってやつだね……。
歳をとると、近所の小学生低学年の悪ガキすら、生まれたての赤ん坊の様に見えてしまうタイミングがあるんです。
それにしてもヤバい、可愛すぎて顔がとろけそうだ。
まぁ、セシリアの中身はおばあちゃんですからねっ!
孫可愛いよ!
……前世の感覚が一番強いからなぁ。
記憶も一番鮮明だしね。
「セシー?どうした?」
馬車のステップ部分に足を乗せた直後に、ユージアの誘導から馬車の中からのばされた手に交代し、ぐいっと車内に引き上げられる。
車内では、私を引き上げるために手を握ったたままの状態で、書類を片手にした父様までもが不思議そうな顔をしていた。言えない。というかうまく説明できる気がしない。
中途半端に父様に話したらきっと、あらぬ疑いと共に、さらに眉間のシワを増やしちゃう気がする。
「父様、ありがとうございます」
「あ、おい、大丈夫だって……」
にこりと笑って父様にお礼を言って、向かい側へ座ろうとしていると、エルネストが馬車へ乗り込もうとしているのを、ユージアが背後から、ひょいと持ち上げて乗せようとしているところだった。
馬車ってさ、車輪が直径1メートルくらいあるんだよね。
車軸がその半分の位置で50センチでしょ?その軸の上に箱が乗るような感じの作りになってるから、乗り込むためのステップがついていても、身長100センチちょっとのエルネストにしたら、大変なんだよね。
3歳児のセシリアも自力で乗るには、段差自体に手をついてよじ登るような形になってしまうので、抱っこだったり、背後から持ち上げてもらってたし。
「え、ちょ……セシリアあああああ」
という事で私のすぐ目の前に、ユージアによって両脇で支えるように持ち上げられているエルネストがいたので、もちろんだけど、そのまま私が受け取って抱き抱えて、そのまま席につく。
「可愛い……」
思った通り、柔らかくて温かくて、幸せ感触だった。
エルネストは耳もしっぽも魅力的だけど、そのままでも充分に可愛い。
ま、本人は絶賛、怒りの声とともに逃げ出そうともがいてるけど。
そういう抵抗は、孫の子守で慣れっこなのですよ。
逃げようとすればするほど、しっかり抱かれて逃げれなくなるんだからね?
……これくらいの歳の子って、こうやって抱かれていると、イヤイヤ言いつつも、案外にやにやと嬉しそうにするものなんだけどなぁ。
実際、普段の3歳児の私はうれしいし、そのまま安心して、よく寝ちゃったりするんだけど。
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