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はじまりはじまり。小さな冒険?
92、毒か薬か。
しおりを挟む「まぁ確かに私の同僚が専門で作って、王家に卸してたよ。でもね、用途限定にしてあったから、ユージア達みたいな被害者はいなかったし、というか、あんな毒虫なんか使わないし。無害だから」
「毒……」
「うん。毒。だからあの子達は、母様が傷を治しても意識が戻らなかったの。亡くなってしまった子達もいるってユージアも言ってたもんね。原因はその毒だよ」
「それでも嫌だ……」
最後は消え入りそうな声で、そのまま俯いてしまった。金色の瞳に涙をためて。
教会の籠にずっといたんだから、トラウマどころか、かなりの酷い心の傷を負ってるだろうに、この父親は……わざわざ傷をえぐらないでほしい。
私の隣に…座ってと言いたいんだけど、ソファーとテーブルの距離が、子供では遠いからね。
テーブルの前にちょこんと座っていたユージアを抱え上げると、膝に載せるように抱え込んで座り直す。
「ちなみにだけどね、催淫剤って言っても、効果は数分しか効かないし、相手を限定している魔法薬だから、卸した先の王家の人間が悪用しようにも、使いようが無いものなんだ。それによって誰かが亡くなったり、辛い思いをするようなものじゃ無いんだよ」
「本当に?」
顔を上げて返答してくれたので、ちゃんと答えよう!と思って、視線を向けると、ユージアは思いっきり涙目になってました……。ルークのバカ!
上を向いた拍子に涙がぽろりとこぼれ落ちるのが見えてしまったので、ユージアの両脇に手を差し込んで持ち上げると、座る向きをくるりと変えて、座って抱っこの状態にして抱き直す。
……これなら泣き顔は誰にも見えないもんね。
どんな表情でもとにかく可愛い今のユージアの表情が、私にも見えないのは残念だけどさ。
「うん、本当。『自分の配偶者』にしか効かないように作ってあるから、不純な動機として……浮気相手とかにこっそり使おうと準備したとしても、効かない」
ぽんぽんと背中を叩くようにさすりながら、説明していく。
そう、魔法薬なんだよ。
普通の薬としての効能の他に、魔法的な効用を追加してある。
この催淫剤に関しては、効果時間をきっちり『5分で切れる』ようにする事と『使用者限定』を魔法で追加してあった。
「そうだなぁ。例えばだけど『ユージアを泣かせる』これを今すぐに行いたいとするね?まぁ見た目通りの子供なら、叩けば泣くかな?」
「それ最低だよ?」
ふふふ。と笑いかけながら問いかける。
ユージアは胸に顔をうずめたまま、もごもごと返事をしてくる。
泣いてるな?今は子供の姿なんだから、思いっきり泣いちゃっていいのに。
……いっぱい辛かったもんね。
やっぱり、当面は性的な話は無しの方向に持っていけるように、頑張ろう。
「まぁ、限界まで、くすぐり倒しても泣くかな?」
「それもやめてっ!」
説明をしながらユージアを抱いていた腕を少し緩めて、脇腹をちょんとつつく。
がばっと顔を上げて反応してきたのは良いんだけど、顔も目も真っ赤にして、前髪が涙でくちゃくちゃになっておでこに貼り付いていた。
あぁ、思ってた通り泣いてたね。ごめん。
「はいはい……。じゃあ、そこに『暴力は無しで、道具を使って』という条件を入れてみようか。そうしたら、どうやれば泣かせられるかな?」
「道具……?タマネギとか?」
ユージアの頭をくいっと支えると、顔を隠すように抱き込みなおして話を続ける。
やっぱり泣ける物というと玉ねぎが出てくるとか、どこの世界でも泣ける物なんだね。
こちらの様子を少し不機嫌そうに見ているルークなんて、知りません。
ユージアをいじめるのは、親だろうと許しません!
「そうだね、目に染みて泣けるよね。それは目を刺激することで強制的に泣かせてるから、さっきの催淫剤としての効果で考えるなら毒虫と同じなんだよ。涙も出るけど何度も使うと目に異常が出るような気がしない?他には何があると思う?」
「なんだろう?」
「例えばだけど、悲しいお話の本。心に沁みるってやつですよ。直接、涙が出る器官への刺激ではないけど、悲しくて自然と涙が出ちゃうでしょう?」
「うん…」
あぁ……なんか素直!
というか、やっぱり身体が小さくなると、感情に対する表情や反応がその歳相応に近くなるみたいだなぁ。
セシリアとは逆だね。
私みたいに姿が変わるだけじゃ無いんだね。
「私の同僚が卸してた催淫剤の場合はこの絵本みたいな感じのもので『相手を好きな気持ち』を強くするだけ。ていうか、副作用がありまくる毒虫を王族に使うとか、同僚が罰せられちゃうからね?頼まれても渡さないよ?」
名前こそ『催淫剤』だけど、実際は王族夫婦の、会話のきっかけ作りに使われていただけだから、この薬を使ったら即、R18な内容に突入するとかじゃ無いんだよ……。
そういう意味では話題性には富んでいたのかもしれないけどね。
「そっか……やっぱりあの時はセシリアが助けてくれたんだね。ありがとう……」
「……私の専門だったら、それこそユージアと会った時に、臭いで気づけてたかもしれないんだよ。すぐに助けられなくて、ごめんね」
きゅっと私の背に回されてた、小さな手の力が強くなる。
……これは号泣だなぁ。
私の胸に顔を押し付けて、声を殺して隠してるようだけど、思いっきりしゃくりあげてるし。
背中を優しくさすりながら、頭を撫でる。
魔力切れ限定のこの姿とはいえ、反応もなにも可愛すぎる。
あ、でも、うーん、ユージアはこの姿が『現状の本当の姿』なんだよね。
セシリアのお世話ができないから、10代の姿になるって言ってたし、ならば、お世話が必要ないのなら、この姿でいてくれるんだろうか?
そんな考えがふとよぎりつつ、話をずらすように意識していく。
泣いてしまうほどに辛いって、ユージアの幼児の身体が訴えてるんだから、とにかく辛かったことを思い出すような内容は避けたい。
「ユージアも私の命の恩人だからね。何度もセシリアを抱えて逃げてくれたもんね。3歳児であの場を切り抜けるとか、どう考えても無理だから。助けてもらえなかったら、最悪死んでたかも」
「え……でも、魔法でなんとかなるんじゃ…?」
酷い誤解だった。
魔法イコール万能っていう構図ができてしまうとこうなるんだけど、そんなに万能じゃないし。
そもそも、魔法でもどうにもならない事なんて沢山あるし。
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