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はじまりはじまり。小さな冒険?
101、おめでとう。
しおりを挟む「誕生日もだけど、他にもお祝いを兼ねてたから……頑張ったのだけど。国は変わってしまったけど……今も魔術師団の技術部門の団長さんになっているんだものね。頑張りました……昇格おめでとう!」
にこりと笑ってお祝いの言葉を伝えたけど……相変わらずルークの反応は薄いどころか、全く無い。
ま、いいや。
背後のテーブルに置いた、布張りの小箱を持ってチェーンの説明を……とルークへ振り向くと、ぐいっと腰を引き寄せられて抱きしめられていた。
……ルークは抱きつき魔なのかもしれない。
どうも事あるごとに抱きつかれてる気がする。
「説明、まだだよ。聞いて欲しいなぁ~」
「少しだけ……ごめん」
さらにぎゅっと力を込めて抱きしめられる。
先ほどの、ぴくりとも動かなかったのとは違って、肩で大きく呼吸をするような動きを繰り返している。
ソファーに座った状態のルークに正面に立っている状況で、抱き寄せられているので、ちょうど私の胸に、ルークの顔が埋められている状態になっていて、強い呼気が衣類の布地を通り、胸が熱い。
(ま……腹に顔を埋められるよりは良いかな。ぽよぽよだし)
……それにしてもまた、泣かせてしまったみたいだった。
喜んで欲しいだけなのになぁ。
「……少し落ち着こう?」
「キミが……悪い」
少しでも落ち着くかな?と、背をさすっていると、くぐもった声で返事が聞こえてきた。
このままでは箱を落としてしまいそうなので、そっとルークの隣、ソファーの上に置く。
抱き寄せられたタイミングで脚まで座ってるルークの両膝に挟まれて、動けなくなってるし。
……また逃げ場がない。
「こんな……用意してたとは、思わなかっ…た……」
「毎年、あげてたよ?『よかったら使ってね』って……好みじゃなかったかな?」
まぁ、無理やり引き剥がして泣き顔を見ちゃうのもどうかと思うし、落ち着くまではしょうがないか。
代わりに……目の前にある、艶やかな黒髪を堪能させてもらおう。
大人の男の人の頭を撫でる機会なんて滅多にないから……って、あったら失礼だよね、きっと。
多分、嫌だろうし。
そんなこんなを考えつつ、髪を梳くように頭を撫でると、ふわりと白檀の香りが広がる。
ユージアみたいな幼児特有のうねりや柔らかさは無くて、真っ直ぐ伸びている艶のある黒髪。
梳くたびにさらさらと音が聞こえそうなほどに、綺麗に指からこぼれていく。
(羨ましいくらいに綺麗……)
目にかかって邪魔なくらいに長い前髪もサイドへ流すように梳く。
……周囲にじーっと顔を凝視されるのが嫌で、わざと前髪を伸ばしてたのを知ってる。
今はどうなんだろうね?
最初は綺麗な顔なのに隠すなんてもったいない!と思っていたけど、一緒に研究するようになってから、視線の異様な集まり方に同情したりもした。
「あー、でも他にもたくさん貰ってたし、埋もれちゃってたかな……」
見目の良さもそうだけどさ、魔導学園を優秀な成績で修了して、本格的に国へ仕えることになってから、ルークは更にモテた。
騎士団の訓練や模擬戦等も、ルーク目当てで通う女性達ですごいことになっていると聞いていた。
実際、話題に乗せられた後輩に騎士団の公開模擬戦へ連れ出されたりもした。
国のお祭りの中のプログラムの一つで、全騎士団員参加のトーナメントになっていた。
そこで『初出場で優勝した!』とかだったら、ルークは優秀を通り越して、バケモノの域に飛び込んでしまいそうだったが……かなり健闘していた。
(あれは格好良すぎたもんなぁ……そりゃ、ファンも増えますよ)
大きな絶叫とも取れる歓声の中、今と違ってレイピアのような細身の軽い長剣を持って、自分よりも一回り、二回りも体格に差がある筋骨隆々とした相手にでも、果敢に挑んでいく。
その動きも計算され尽くされたかのように、小さな動き、そしてステップを踏むかのように軽々と跳躍し、相手を翻弄し、すらり躱し、反撃する。
見ていてわくわくどころか、その凄さに見惚れた挙句に、泣いてしまった。
……まぁ普段が普段で、感情が強く動くような環境にいないから、私には刺激が強すぎただけなのかもしれないけどね。
その帰りに、控え室の廊下を塞ぐように、山と積まれたプレゼントを目にした。
全てがルーク宛で、その人気の高さに後輩と思わず笑ってしまった。
「貴族の女性達からのプレゼントとか……量もだけど見栄えもよかったもんね」
最初の身分こそ、貴族ではなかったから『見習い』からのスタートではあったが、その優秀さから異例の速さで『騎士』へと昇格する。
すると……騎士は貴族位の仲間入りなんですよね。
それまでは身分を盾に自分の側仕えにと(ま、愛人になれと)申し込んできていた令嬢さえも、表立ってルークの妻の座を狙い始めた。
そんなお嬢様方からの、裏心たっぷりの素晴らしい贈り物と並んでは、全く勝機のカケラも無いよね。
(まぁ勝つ気も無かったわけだけど)
そもそも彼女達のような「妻の座が欲しい!」とか『振り向いて!』なんて考えてたわけじゃ無いし。
そんな豪華な品の中、比べて私からのは質素な実用品、これじゃあ勝ち目はないもんなぁ。
「キミからしか、要らない……とってある」
「え!ちゃんと使ってよ!?使いやすそうなのを一生懸命選んでたんだから!」
……使ってほしくて送ったものが、ただただ保管されてるだけとか、悲しすぎるんですけど。
しかも、魔導学園内じゃないんだから、完全に劣化しちゃってるよね。
次回から、ルークには食べ物を贈ろう……それなら長期保存はできないよね?
「ま、いいや。今度こそ、ちゃんと使ってね?頑張って作ったんだから!」
「……わかった、ありがとう」
形見みたいになってしまったけど、シシリーからは最後となる誕生日のプレゼント。
渡せてよかった。
今度はしっかりと使ってあげてください。
「……うーん、悲しまないでほしいのに。喜ぶ顔が見たくて作ったんだよ?」
ルークは相変わらず、声を殺して泣き続けているようで、肩で大きく呼吸をする動きが止まらない。
魔導学園に飛ばされてから、どうもルークが情緒不安定に見えてしまうのだけど、もしくは……幼い?
行動パターンというか何か、子供っぽく可愛らしく感じてしまう。
まぁ……私自身がついこの間まで、50歳過ぎた息子すら可愛く見えてたくらいのお婆ちゃんだったのだもの…そう見えちゃうものなのかしら?
ん?……私が達観しすぎなのか?
それとだ……ルークの呼気もあって胸が蒸れてきた。
大きいと蒸れるんだね……痒い。
うーん、これって汗疹とか出来ちゃうんだろうか?
「あぁ、そうだ、気づくまで言わないでおこうかと思ったけど……その懐中時計、ちょっと細工がしてあってね。裏の蓋が2枚蓋になってるの……開けてみて?」
泣きたいなら思いっきり泣いてしまえ!と半ば自棄になって、勧めてみる。
一瞬動作が止まり、胸から上目遣いのように顔を上げてくれたのだけど、泣きすぎて涙で髪も巻き込み顔に貼りつき……と、美しい顔がとても可哀想なことになっていた。
それと、気付いた。
一般的にこの状況って男女逆だよね?これ。
抱きついたときの視点も、見上げられている視線も!
(……野郎の上目遣いとか!なんて一瞬思ったけど、これはこれで……案外良いかもしれない)
いつも俯きがちでよく見えない表情どころか、長くいまつ毛や顔のパーツがはっきり見えるし。眼福かも。
ちょっと充血してしまっているけど。
あ、そうじゃない。
もう、号泣したって、しーらないっ!
ぎゅっと抱きしめられていた腕が解かれたので、ソファーの上に置いてしまった布張りの小箱を回収して、テーブルに置き直して、ルークの隣に座る。
細工がちゃんと機能するのか見たかったから。
さて、ちゃんと起動するかな?
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