私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

文字の大きさ
101 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?

101、おめでとう。

しおりを挟む




「誕生日もだけど、他にもお祝いを兼ねてたから……頑張ったのだけど。国は変わってしまったけど……今も魔術師団の技術部門の団長さんになっているんだものね。頑張りました……昇格おめでとう!」


にこりと笑ってお祝いの言葉を伝えたけど……相変わらずルークの反応は薄いどころか、全く無い。
ま、いいや。

背後のテーブルに置いた、布張りの小箱を持ってチェーンの説明を……とルークへ振り向くと、ぐいっと腰を引き寄せられて抱きしめられていた。

……ルークは抱きつき魔なのかもしれない。
どうも事あるごとに抱きつかれてる気がする。


「説明、まだだよ。聞いて欲しいなぁ~」

「少しだけ……ごめん」


さらにぎゅっと力を込めて抱きしめられる。

先ほどの、ぴくりとも動かなかったのとは違って、肩で大きく呼吸をするような動きを繰り返している。

ソファーに座った状態のルークに正面に立っている状況で、抱き寄せられているので、ちょうど私の胸に、ルークの顔が埋められている状態になっていて、強い呼気が衣類の布地を通り、胸が熱い。


(ま……腹に顔を埋められるよりは良いかな。ぽよぽよだし)


……それにしてもまた、泣かせてしまったみたいだった。
喜んで欲しいだけなのになぁ。


「……少し落ち着こう?」

「キミが……悪い」


少しでも落ち着くかな?と、背をさすっていると、くぐもった声で返事が聞こえてきた。
このままでは箱を落としてしまいそうなので、そっとルークの隣、ソファーの上に置く。

抱き寄せられたタイミングで脚まで座ってるルークの両膝に挟まれて、動けなくなってるし。
……また逃げ場がない。


「こんな……用意してたとは、思わなかっ…た……」

「毎年、あげてたよ?『よかったら使ってね』って……好みじゃなかったかな?」


まぁ、無理やり引き剥がして泣き顔を見ちゃうのもどうかと思うし、落ち着くまではしょうがないか。
代わりに……目の前にある、艶やかな黒髪を堪能させてもらおう。
大人の男の人の頭を撫でる機会なんて滅多にないから……って、あったら失礼だよね、きっと。
多分、嫌だろうし。

そんなこんなを考えつつ、髪を梳くように頭を撫でると、ふわりと白檀の香りが広がる。
ユージアみたいな幼児特有のうねりや柔らかさは無くて、真っ直ぐ伸びている艶のある黒髪。
梳くたびにさらさらと音が聞こえそうなほどに、綺麗に指からこぼれていく。


(羨ましいくらいに綺麗……)


目にかかって邪魔なくらいに長い前髪もサイドへ流すように梳く。

……周囲にじーっと顔を凝視されるのが嫌で、わざと前髪を伸ばしてたのを知ってる。
今はどうなんだろうね?


最初は綺麗な顔なのに隠すなんてもったいない!と思っていたけど、一緒に研究するようになってから、視線の異様な集まり方に同情したりもした。


「あー、でも他にもたくさん貰ってたし、埋もれちゃってたかな……」


見目の良さもそうだけどさ、魔導学園を優秀な成績で修了して、本格的に国へ仕えることになってから、ルークは更にモテた。
騎士団の訓練や模擬戦等も、ルーク目当てで通う女性達ですごいことになっていると聞いていた。

実際、話題に乗せられた後輩に騎士団の公開模擬戦へ連れ出されたりもした。
国のお祭りの中のプログラムの一つで、全騎士団員参加のトーナメントになっていた。
そこで『初出場で優勝した!』とかだったら、ルークは優秀を通り越して、バケモノの域に飛び込んでしまいそうだったが……かなり健闘していた。


(あれは格好良すぎたもんなぁ……そりゃ、ファンも増えますよ)


大きな絶叫とも取れる歓声の中、今と違ってレイピアのような細身の軽い長剣を持って、自分よりも一回り、二回りも体格に差がある筋骨隆々とした相手にでも、果敢に挑んでいく。
その動きも計算され尽くされたかのように、小さな動き、そしてステップを踏むかのように軽々と跳躍し、相手を翻弄し、すらり躱し、反撃する。

見ていてわくわくどころか、その凄さに見惚れた挙句に、泣いてしまった。

……まぁ普段が普段で、感情が強く動くような環境にいないから、私には刺激が強すぎただけなのかもしれないけどね。

その帰りに、控え室の廊下を塞ぐように、山と積まれたプレゼントを目にした。
全てがルーク宛で、その人気の高さに後輩と思わず笑ってしまった。


「貴族の女性達からのプレゼントとか……量もだけど見栄えもよかったもんね」


最初の身分こそ、貴族ではなかったから『見習い』からのスタートではあったが、その優秀さから異例の速さで『騎士』へと昇格する。
すると……騎士は貴族位の仲間入りなんですよね。

それまでは身分を盾に自分の側仕えにと(ま、愛人になれと)申し込んできていた令嬢さえも、表立ってルークの妻の座を狙い始めた。

そんなお嬢様方からの、裏心たっぷりの素晴らしい贈り物と並んでは、全く勝機のカケラも無いよね。


(まぁ勝つ気も無かったわけだけど)


そもそも彼女達のような「妻の座が欲しい!」とか『振り向いて!』なんて考えてたわけじゃ無いし。

そんな豪華な品の中、比べて私からのは質素な実用品、これじゃあ勝ち目はないもんなぁ。


「キミからしか、要らない……とってある」

「え!ちゃんと使ってよ!?使いやすそうなのを一生懸命選んでたんだから!」


……使ってほしくて送ったものが、ただただ保管されてるだけとか、悲しすぎるんですけど。
しかも、魔導学園内ここじゃないんだから、完全に劣化しちゃってるよね。
次回から、ルークには食べ物を贈ろう……それなら長期保存はできないよね?


「ま、いいや。今度こそ、ちゃんと使ってね?頑張って作ったんだから!」

「……わかった、ありがとう」


形見みたいになってしまったけど、シシリーからは最後となる誕生日のプレゼント。
渡せてよかった。
今度はしっかりと使ってあげてください。


「……うーん、悲しまないでほしいのに。喜ぶ顔が見たくて作ったんだよ?」


ルークは相変わらず、声を殺して泣き続けているようで、肩で大きく呼吸をする動きが止まらない。
魔導学園に飛ばされてから、どうもルークが情緒不安定に見えてしまうのだけど、もしくは……幼い?
行動パターンというか何か、子供っぽく可愛らしく感じてしまう。

まぁ……私自身がついこの間まで、50歳過ぎた息子すら可愛く見えてたくらいのお婆ちゃんだったのだもの…そう見えちゃうものなのかしら?
ん?……私が達観しすぎなのか?

それとだ……ルークの呼気もあって胸が蒸れてきた。
大きいと蒸れるんだね……痒い。
うーん、これって汗疹とか出来ちゃうんだろうか?


「あぁ、そうだ、気づくまで言わないでおこうかと思ったけど……その懐中時計、ちょっと細工がしてあってね。裏の蓋が2枚蓋になってるの……開けてみて?」


泣きたいなら思いっきり泣いてしまえ!と半ば自棄になって、勧めてみる。
一瞬動作が止まり、胸から上目遣いのように顔を上げてくれたのだけど、泣きすぎて涙で髪も巻き込み顔に貼りつき……と、美しい顔がとても可哀想なことになっていた。

それと、気付いた。
一般的にこの状況って男女逆だよね?これ。
抱きついたときの視点も、見上げられている視線も!


(……野郎の上目遣いとか!なんて一瞬思ったけど、これはこれで……案外良いかもしれない)


いつも俯きがちでよく見えない表情どころか、長くいまつ毛や顔のパーツがはっきり見えるし。眼福かも。
ちょっと充血してしまっているけど。

あ、そうじゃない。

もう、号泣したって、しーらないっ!

ぎゅっと抱きしめられていた腕が解かれたので、ソファーの上に置いてしまった布張りの小箱を回収して、テーブルに置き直して、ルークの隣に座る。
細工がちゃんと機能するのか見たかったから。

さて、ちゃんと起動するかな?



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...