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はじまりはじまり。小さな冒険?
102、細工。
しおりを挟むそっと、ベストのポケットから懐中時計を取り出し、裏蓋を開けると……ぼんやりと画像が浮かび上がりはじめる。
……時計から浮かび上がるように、葉書サイズくらいの、ちょっとした動画なんだ。
ホログラムのような、でも少しだけ中途半端な立体映像で。
画像の焦点が合い始めると、映し出されたのは、魔導学園の制服を着た不機嫌顔の黒髪のエルフ……ルークだった。
うーん、今と全く外見が変わってないな……髪の長さが違うくらいか、羨ましい。
『……これで…良いのか?』
『ほら!笑って!……撮れてると思うんだけど……あれ?失敗かな?』
いきなり紫の髪と赤い瞳のドアップが、こちらを覗き込むように映し出される。
あ……これシシリーだわ。
真剣にレンズを覗き込んでる。
『試験運転…しなかったのか……?』
『これが試験運転だったり……?』
あはは……とシシリーが笑いながら下がっていき、ルークの隣に座ったところで、ふっと映像が消える。
(あれ、これって音声付きだったのか……作業中は消音状態でやってたから、気づかなかったわ……って、あれ、なんかすごく嫌な予感がする)
懐中時計をじーっと見つめたままルークは動かない。
紙に、景色を写し込む技術もあったにはあったのだけど、高価で気軽に使えるようなものではなかった……というか、貴族間のお見合いの釣り書に使ったら便利かな?と思うのだけど、思いっきり不評だったそうで。
結果的に『記録を忠実にのこせる』という利点から、研究機関でのみ使われていた。
(貴族的に何がどう不満だったのか、すごく気になるところだけどね……プリクラみたいに、美肌とか目が大きく写るとか、そういう機能が必須だったんですかねぇ?)
ちなみに動画に至っては、技術としては確立されていたけど、実用化はされていなかった。
ある意味、この懐中時計は当時の最先端の技術を詰め込んで作られた、魔道具だったりする。
懐中時計に入ってる細工に関しては……作ったのがシシリーなので、ものすごく心許無いのだけど。
ルークは懐中時計を手に、フリーズしたままだった。
表情も、視線も。
「……そのまま、龍頭を少し回してみて?」
龍頭……懐中時計のボタンのようなところです。
2枚蓋の1枚目が開いてる時のみ、この細工が作動するようにしてある。
ルークは何かを確かめるかのようにゆっくりと、かちかちという音を確認するように回す。
ふわりと画像が浮かび上がる。
先ほどとは打って変わって、今度は明るい屋外でやはり学生服のルークとエルフがもう1人、並んで映し出される。
『導師…もうちょっと寄って……あ、反対です』
『シシリーは映らないのか?』
不思議そうな顔で白髪のエルフが訊ねる。
『私は後で!……ほら!ルークもちゃんと笑顔!』
笑顔!とシシリーが声をかけているにもかかわらず、ルークの私達へ向ける表情は、眉間のシワが一層深くなり、ムッとしたものとなる。
『……私が撮ろう。シシリーも卒業なのだから、一緒に映りなさい』
シシリーのでは無い、指が映り込み、視界が少しブレて、ふっと映像が消える。
再び、ルークが龍頭を回すと、先ほどと同じ風景がぼんやりと浮かび上がり、撮影機器のすぐそばで喋っているシシリーの少し怒った声が大きめに響き始める。
『学園長……むしろあなたが映らないでどうするんですかっ!ルーク!園長先生も追加で!』
『……先輩。私が撮りますから、入ってください。あの絵面はむさ苦しいです。せっかくのお祝いなのに……』
少し呆れ気味の声が近づいてくると、再び視界が大きくブレて、獣人の青年とシシリーとが交互に映り込んだ。
獣人の青年……後輩の1人だ。懐かしいなぁ。
この後輩はエルネストと違って、耳は出しっぱなしだったんだよなぁ。何度か触らせてもらったし。
それにしても、エルフ2人に学園長……全員、今見てもびっくりするくらい美形が揃ってるわけですが。
ま、全員男性だけど、むさ苦しくは見えないと思うんだけどなぁ。
『そう?みんな綺麗だから、私が入っても引き立て役にしかならないと思うよ?』
『そう思うのは女性だけですよ……いいから行ってください』
画面の間近から、紫の髪の女性が、そのむさ苦しいと言われた団体の中に並び、にこりと笑ったところで画像が薄くなっていく。
『先輩方、卒業おめでとうございますっ!』
……消える直前に、後輩の声が響き渡った。
そうだ、これは卒業式だったね。
私は卒業しても魔導学園に居残るから、あんまり代わり映えはなかったのだけど。
ルークはここから一気に飛び立って行ったんだった。
この懐中時計を贈ろうと思って、そして一番にこの懐中時計に入れたかった動画だった。
まさか音声付きだったとは迂闊だったけど。
(音声入り動画だったのか……『懐かしい動画』ってだけじゃ済まない気がしてきた。しかも撮ってるのが基本シシリーだから、一番大きく声を拾ってるし……)
嫌な予感を爆発させていると、ルークは躊躇せずに次の映像を見ようと、龍頭を回した。
すると次にふわりと浮かび上がったのは、王国の屋外闘技場。
観客席からの映像だ。
たしか……これはあまりにもルークが格好良くて、オマケで入れてしまったやつなんだけど……。
(これも音……入ってるよね、きっと。うわぁ……どうしよ)
闘技場では、大歓声の中とても体格の良い黒い鎧を纏った騎士を小柄な人物が翻弄するように戦い、最後は相手の大剣を華奢な長剣で弾き飛ばして、勝負がついた。
勝者は一見すると小柄にも見えてしまうほどに先ほどの騎士とは体格差のある、青い軽鎧に丈の短いローブ姿の黒髪のエルフ。
『…ぁ……勝った!凄い凄いっ!ルーク!勝っちゃったよ!……勝った…良かったぁ……』
『きゃーー!!評判通り!ルーク先輩格好良いですねっ!って、ちょ…と!先輩……え、泣いてるんですか?!ええええ…』
『……格好、良かった……頑張ったねぇ…うぅ……』
『落ち着いてっ!先輩!落ち着いて……』
ああ……やっぱり、しっかり音を拾ってますよね。
ずぴー、とか鼻をすする音まで入っちゃってるし。
……映像は、空を映し出し始める。
どうやらベンチに置かれたらしく、顔を真っ赤にして号泣状態のシシリーと、慌てる後輩を映し出して、消えた。
『そんなにうじうじしてるなら、映像を見て思いっきり泣いてしまえ!』とか思った私がバカでした。
「……編集したのに……編集されてない方が入ってるとか、無いわ」
思わずぽつりと、呟いてしまったのだけど、そもそもルークは無反応……どころか、懐中時計を見つめたまま固まってますね。
しかも泣かなかったし、残念。
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