私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

114、卵。

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「そういえば、上のゲート付近の安全確認て、どんな感じだったの?」

「あぁ……そろそろ呼び戻すか。周囲の安全確認とともに、魔物の侵入経路になりそうなものや、侵入した痕跡の有無も調べさせてたところだ、夜の間だけ行動する奴も多いから、この後も朝まで監視はさせる」


ルークにも、一瞬悲しげな表情が見えた気がしたのだけど、すぐ復帰したようで、さっと手を挙げる。
それを合図にルークの隣にふわりと、白いワンピース姿の可愛らしい女の子の姿の風の乙女シルヴェストルが姿を現した。


『ただいま。魔物はいなかったし、入っても来れないから危険では無いと思うけど……セシリア、あなた、早めに迎えに行ってあげたほうがいいわよ?上であなたを待ってるって……凄く怒ってる子がいたわ』


にこりと笑みを浮かべると、目の前にある焼き菓子に手を伸ばす。

子?上に?
意味が理解できずに、ぽかんとしていると……誰かが執務室のドアを開けて入ってくる。

いや、魔導学園ここは無人だったよ?
しかも上なら、今世の高ランク冒険者すら到達してない危険地帯だよ?

今ドア開けたのも、誰よ……無人のはずなんだからね?
混乱しつつドアを凝視していると、開いた先に獣人が姿を現した。
銀髪の……よくよく見ると淡い紫が掛かっている、歩くたびにふわふわと風を孕む柔らかな長髪で、犬のようなケモ耳が見える。


「カイ……?」

『……行かなくていいよ。来たから』


声が聞こえた。
姿は獣人だったが、声は……違った。精霊独特の魔力のこもった、よく通る声。
そして、怒っている声。


『ずっと逢いたかったのに……呼んでもくれないし、しかも何?…なんで、あいつが筆頭なの?ねぇ、僕は用済みなの?飽きちゃった?』


赤に近い綺麗な瞳を潤ませて、私に跪くようにして訴えてくる。
カイ……カイルザークは……こんな表情なんてしないよ。

私の膝の上のユージアは、びっくりして口を開けたまま固まってる。


「とりあえず、黙りなさい。その姿もやめて。流石に怒るよ?フレア」

「ははっ……学生時代の私の次は、カイルザークか。その次は誰が出てくるんだろうな」


ルークが爆笑してる。肩を震わせるどころか、本当に声を上げての爆笑。
ルナフレアと契約した時も笑ってたよね……おもいっきり。

その隣に座っている風の乙女シルヴェストルは、気にした様子もなく、黙々とクッキーを食べている。
みんな、クッキーが好きね。
焼き菓子は他にもいろいろあるのに。

カイルザークの姿をした精霊フレアは、今にも泣きそうな表情で私を見あげている。


『ごめんなさい……でも、ずっと待ってたのは本当。なんで呼んでくれなかったの?どうして僕をコレに縛り付けたままにしてたの?』

「縛り付けてた?ごめん記憶に無いんだけど」


全く記憶に無い。
フレアは知ってるけど、彼を縛りつけた記憶はない。

しかし……今の言葉に唖然と私を見上げ、ショックで見開かれた赤に近いオレンジ色の瞳には、涙が滲んでいるようにも見える。


『もっと酷かった……じゃあ、これ、返すね。今度はちゃんと呼んでね』

「コレ……?何?」


卵……?。
ガッカリ顔のフレアから、ダチョウより少し大きめの真っ白な卵を渡された。
ずっしりと重くて、ユージアを抱えている私の腕では支えきれずに、私の隣にそっとおろす。


『あの日から…ずっと寝てるから。起こしてあげて?』

「あったかい……生きてるの?この子?」

『うん。……ね、僕の事……忘れずに呼んでね?』


フレアはカイルザークの姿のまま立ち上がると、私のおでこにキスを落とし、ふわりと照れたような笑みを浮かべながら、姿を消した。

偽物だけど、カイルザークの姿が消えた場所を見つめ、少し寂しくなり、視界がじわりと歪む。

フレアを怒ってはしまったけど、懐かしい……。
カイルザークはシシリーの数少ない後輩であり、友人だった人物だ。

小さい頃から知っている。
『ねえさま、ねえさま』と私を慕ってくれて、後ろをついてくるような、とても可愛らしい子だった。

成長すると、獣人だと言われなければ気づけないほどに華奢に、そして優美な、俗にいう端正な女好きのする顔に育った。
獣人としては、その華奢な体格がコンプレックスだったようだけど。

そもそもカイルザーク自身、人との付き合いが苦手なようで、女性が近づいてくるだけで逃げてしまう子だったから……シシリーわたしから見たカイルザークの長所だと思ったものは、本人にしては短所でしか無かったようだけど。
とても可愛い子だった。

……カイルザークは魔物の氾濫スタンピードから無事に逃げられたのだろうか?
どんな生涯を送ったのだろうか?


「……シシリーは、精霊使いだったの?2人も契約してたの?セシリアも使えちゃうの?」


ユージアの声で我に返って、袖でこぼれそうになった涙を拭う。

偽物とはいえ、もう会えないと思っていた人物の姿を見てしまうと、ダメだね。
一気にいろいろ思い出しては、考え込んでしまう。
……そして、どうしてもしょんぼりとしてしまう。


「違うよ?今、契約しなかったでしょう?あれもルナフレアなの」

「あれは少し変わった……珍しい…姿を2つ持った精霊だ」


ルークの説明の通り、あれはルナフレアのフレアで、王宮の庭園で契約したのはルナ。

2人揃って、ルナフレアという1つの精霊になる。
真逆の性質を持った、双子の精霊だ。

まぁ、ルークのように精霊を使いこなすどころか、暴走しっぱなしなんだけどね。
全くというほどに、言うことを聞きやしない。
聞かないどころか、いつの間にかに周囲にいたずらを振りまいたりしてくれる。


(……今回のこの急激な体の成長だって、きっとルナの仕業だろうし…無事に帰宅したら説教大会だわ)


今回も、きっと制御不能なんだろうなぁ。
しかも筆頭……あ、双子だからさ、仕事を頼む時に喧嘩するんだよね。
それを回避するための妥協案として、どっちがお兄さんなのかを決めたの。

シシリーの時はフレアだったんだよ。
セシリアはルナに……契約せざるを得ない状況にさせられてしまったのだけれど。
フレアは真面目さんだけど、ルナは確実にトラブルメーカーだから。怖すぎる。

さて、予想外の出来事があったにせよ、帰路の安全も分かったし、ていうかこの卵!なんだろう?と必死に思い出そうとするのだけど、やっぱりなにも思い出せない。

うーん……と考え込み始めてると、ユージアがにやりと悪戯っぽく笑い、上目づかいに話しかけてくる。


「綺麗な獣人さんだったね、あの人がしっぽ触らせてくれた人?」

「うん……後輩…そうね、学校で出来た大切なお友達だよ。ルークと違って長命な種族ではないから、さすがにもう再会は出来ないでしょうけど……」


からかうような色を持ったユージアの質問だったのだけど……『もう会えない』とわかっているのに、それを言葉に出した途端、その意味を再確認してしまったのか、また涙で視界が歪み出す。
感情が暴走を始めてしまいそうになって、思わず、私を見上げるユージアの頭を撫でる。


「長命……か」


ぽつりとルークの呟きが聞こえて、反射的に視線をそちらへ向けると……。
とても哀しそうな表情で卵をじっと見つめていた。


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