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はじまりはじまり。小さな冒険?
113、医療。
しおりを挟む一応だけれど。
前世の子供達が受ける『定期接種』と呼ばれるような予防接種は、弱らせた病気の種を注射で体内に入れて、身体の防衛機能に倒させる。
倒したことがあるから、身体はその病気に対して有効な武器と防具を作り上げてある。
だからもし、その病気が本当に身体に侵入しても、重症になったり症状が出る前に、身体の防衛機能で退治ができてしまうという優れもの。
私が作ったのは、同じような効果を発揮するけど、魔力熱の威力の方がどうしても強くてね、どちらかと云えば『定期接種』ではない、インフルエンザの予防接種みたいなものにあたる。
病気が身体に侵入しても『病気にならない!』ではなくて『なりにくい』という感じで。
罹ってしまっても『予防薬を飲んでいないよりは重症化しない』ってだけ。
(患ってしまっても……というか、流行ったら、魔力の高い子ほど絶対にかかる)
魔力の高い子ほどかかりやすくて、短時間で死に至る。
エルフであるユージアは、確実に人間よりは魔力が高いからね。本当に怖い。
気をつけてあげなければいけない病気だ。
「ルーク、これ、予防薬のレシピと予備ね。できれば王子達にも飲ませてあげてね。あと……エルにも」
「わかった」
「……エルには、セシリアが直接渡せば良いんじゃないの?」
ユージアが不思議そうな顔で首を傾げている。
傾げた拍子に、淡いエメラルドのようなふわふわの髪が、さらりとこぼれる。
私との今の体格差からだと、どうしても上目遣いで見上げる体勢になってしまうユージア。
子供独特の黒眼がちでぱっちりとした金の瞳に、形の良い可愛らしい小さな鼻に、柔らかそうな唇。
ほっぺもふにふにで……こんな可愛い子供たちを、救える手段がある、知っているのに『救わない』という選択は絶対にしたくない。
守らなければ!と思うと同時に、可愛すぎてたまらなくなって、ユージアが焼き菓子をとりにソファーから立ち上がってクッキーを掴んだタイミングで、膝の上に抱き上げ、抱え込むと目の前に来た頭にすりすりと頬をあてる。
「わわっ!クッキー落ちちゃうっ……セシリア?どうしたの?」
「ユージアが可愛すぎて、発作が……」
「……どんな発作だ」
向かいの席に座るルークが、無表情で……しかし明らかに呆れているという声色で反応しつつこちらを見ている。なんか冷たい。
視界を遮るように長い前髪の隙間から覗く、伏せ目がちに見えてしまうほどに長く綺麗に生えそろった睫毛に隠された、琥珀色の瞳。
思わず見惚れて凝視してしまって、気づかれて目が合ってしまった時の衝撃とか……ね、学生時代にすれ違い様にルークと目があって失神してしまった女子生徒の気持ちもわからなくはない。
このメンバーって顔面偏差値高すぎなのよ……どっちも綺麗すぎて。
でも、今のセシリアには、ユージアの可愛さの方が勝ってるんだけどね。
……シシリーだったら、ルークの勝ちなんだろうね。
どうしても実年齢、つまり今の3歳児の視点からの好みってことになる。
そうだよなぁ。
3歳児に大人の色気とかわからないし。
シシリーは思春期どころか20歳過ぎてたもの。しっかり大人ですし。
……あ、ユージアを堪能してる場合じゃなかったわ。
はっと我にかえり、理由を説明する。
「本当は、直接渡したいのは山々なんだけど、信じてくれると思う?それと、シシリー達の記憶があること自体、できれば他言したくないのね」
「話さなくとも……周囲には勝手にバレていく思うが……ふふっ。今までのトラブルを考えても、すでに色々とボロが出ているようだし」
「まぁ……そうなんだけどね。隠すのもイヤだけど、でもいきなり、素直に話しても頭のおかしな子にしかならないだろうし」
悩ましい。
近しい人たちには知っていてもらえた方が、フォローも期待できそうでもあるし。
でも、普通の子、として育ちたい。
……いろいろと既に無理な状況になってるものも、あるみたいだけどさ。
特別扱いとかはあまり好きじゃない。
ほら特別扱いされて、攫われたわけだし?
「……せっかくのお薬だから、有効利用して欲しいの。そういう意味では、ルークから渡してもらった方が説得力あると思わない?」
「なるほど、それならば、協力しよう」
小さな子から渡された薬よりは、大人から渡された方が信用できる。
前世と違って、薬師自体が胡散臭いのも結構いるから、こういうものは信用第一なのですよ。
あ、もちろん腕の確かな人もいます。
医師とか薬剤師とかいう国家資格的なものがこちらの世界には無いから、基本的には……悪くいえばみんな自称になるんだけどね。
自称とはいえ、親が医者だったから、親からノウハウを学んでそのまま家業として引き継いだという者もいるし、エルフのように種族的に元々詳しい者もいる。
だから、全てが怪しい人たちではないのよ?
そういう意味では、こっちの世界ってかなりアバウトなんだよね。
「……ま、どうせ言わなくたって周囲には勝手にバレていくんだろうし、今はそのままにしておいて欲しいかな。一応ね、私の当面の目標は『成人まで生き延びること』だから、平穏無事に過ごしたいのですよ」
「すでに、平穏無事じゃないだろう……」
「僕も……そう思う」
2人同時にひどく呆れられてしまった。
お、珍しく親子の意見があってるじゃん。
そう思いつつも、びっくりする。
「えっ!?かなり平和だよ?一応無事だし?」
「今まで……どういう生き方してきたの……」
「んー、ユージアほどじゃないけど、今のセシリアくらいには大体、死んでたし」
「ユージアはいっぱい頑張ってたもんね」と思いっきり上目遣いで見上げてきた、ユージアのおでこに頬を当てる。
幼児って、おでこ柔らかいんだよね……。
ほっぺ並にふよふよしてるの。
「死んでた……って?」
ユージアのおでこに頬をうにうにと押し付けてにやにやしつつ顔を上げると、あれ……目を見開いたまま、じーっと私を見つめているルークと目が合う。
ていうか、ユージアも珍しく無抵抗だと思ったら、固まってる。
時が止まったようになっていた。
驚かしちゃったかな?
「あっ!気にしないでね?どうも運が悪いというか、鈍臭かったのが原因だから……」
「今、とは」
「ん?3歳くらいだね。だから、シシリーやセシリアの前世の私はすごく長生きだったのよ」
「セシリア……」と、ユージアが泣きそうな顔になっている。
泣かなくていいのよ?今は生きてるんだから。
……このまま暗い話に突入するのは嫌だし、とりあえず、話を変えねば!
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