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はじまりはじまり。小さな冒険?
116、ゆっくりしたい。
しおりを挟むあの時は辛くて怖かったけど、セシリアは大好きな人たちがどんどん増えていって、世界がどんどん広がっている真っ最中で、幸せだよね?
シシリーの生命1つで、あの時に、どれだけのものが救えたのかわからないけれど、少しでも助かった命があったなら、嬉しいよね?
(大丈夫、大丈夫……シシリーが頑張った結果だもん。怖くない。その結果を知る事ができるのは、凄いことなんだから、怖くないよ。大丈夫。頑張ったから、ここにいるんだよ…もう怖くないから、大丈夫だよ)
慰めれば慰めるほどに、涙はぼろぼろとあふれて止まらないし、震えも止まない。
落ち着かないと、ユージアまで巻き込んじゃってる。
奴隷紋が、私の悲しい気持ちを救難信号として送っているようで、胸を痛そうにしてる。
早く止めないと……。
(……父様や母様、セグシュ兄様……他の家族たちもセシリアをいっぱい大好きだって言ってくれてるよ?泣かない。シシリーのように失わないように、早く会いに行こう?……あ、でも、守るためなら自分の命を失っても良いと思えるほどの、大事な世界だったのかな?それなら…そこにシシリーが欠けてしまっても、みんなが無事なら……幸せかもしれない)
あ……ダメだこれ。泣きすぎの酸欠で、思考すら収拾がつかなくなってきた。
酸欠で頭はくらくらするし、喋るのも、ヒックヒックとしゃくり上げて途切れ途切れになってしまうし、散々だ。
「暗く……なる前に…もう一回っ…お風呂行ってくる……」
「あぁ……」
ルークの心配そうな声が聞こえたけど、視界はいまだに涙でぐにゃぐにゃと歪んでいて、表情までは確認できなかった。
何かを知っているようだし、話したそうにしていたわけだけど、聞きたいけど…ちょっとこの状態じゃ厳しいもんね。
ふらふらとユージアを抱き直しながら、お風呂に向かうために立ち上がる。
さっきの号泣ルークじゃないけど、ここはお風呂でさっぱりするのが一番早い気がするんだ。
「……僕は入らないからね?降ろしてほしいんだけど」
「一緒に行こうよ……」
「僕は入らないよ?さりげなく連れていかないでっ?」
ドアに手をかけたところで、ユージアに気付かれてしまった。
抱っこしている肩口で、きゃーきゃーとユージアがもがきつつ、文句を言ってくるわけですが、気にしない。
ていうか、この抱っこの温もりが一番安心するから、抱いていたいんだよね。
ま、気にせず浴場のドアを目指して歩き出す。
「違うよ~顔だけでも洗おう?シチューが服にもだけど、おでことか……あ、髪にもついてる……これは一緒にお風呂かな?」
「1人で入るからっ!」
激しく拒否をされてしまった。
そんなに嫌かなぁ?
3歳児くらいって、親と一緒のお風呂が基本だった気がするし、というか、お母さんと一緒って多い年頃だよね?
見た目はともかく言動や喋り方も、前世の子供よりずっと発達が早い気がする。やたらとマセてるし。
あれだよね?3歳児って言ったら、舌ったらずで一生懸命に色々喋ったり、音楽なんかが流れると、楽しそうにお尻振って踊っちゃったりするくらいの発達だった気がするんだ……。
種族的な違いもあるのかな?
ドアにたどり着いてしまったので、諦めて抱っこから解放する。
「……残念。じゃあ、先に入るから……ドアを開ける時に10代の姿に戻したら、男湯に振り分けられると思うよ…また後でね」
「残念って……。セシリアもゆっくりしておいで」
本当に残念ですよ。
まぁ、ユージアが嫌がってるんだからしょうがない。
私がドアを通って女湯に振り分けられた後に、ユージアも10代の姿に戻ってからの入場をすれば女湯に転送はされないだろうから。
まぁ、今すぐに回れ右して、ドアを開けたら……きっと半裸のユージアが見えてしまうのだろうけど。
……縮むならともかく、成長する状況なわけだから、服を脱がないとね……破けちゃうから。
(ひらめきのように一瞬で浮かんだ悪巧みって、どうしても実行したくなるんだよね)
まぁ、実行はしないけどっ!してみたいけど!しない。
驚く顔が……の前に悲鳴と泣かれそうだもの。
そう考えつつ、ロッカーにセットされていたバスローブとバスタオル、フェイスタオルのセットを手にして、脱衣所へ向かう。
そうそう、貴重品は、ここのセットの入ってたロッカーに入れちゃうんだよ。
で、脱衣所に行くと、あの洗濯乾燥を一瞬でやってくれるカゴがあるので、そこに衣類を入れる。
ちなみに、チェッカーってルークに呼ばれてた、痴漢撃退的な機能の……晒し者にされる木の椅子は、このロッカールームから、脱衣所へ向かうところにある。
(面白いのは、これ、女湯にしかないのね)
ルークも『初めて見た』って笑ってたでしょ?
前世には痴女という言葉があるくらいには、男湯に突撃しかねない人もいたらしいど……。
ここの男湯、実は女性が突入してもスルーです。捕まりません。
女湯は男子禁制なのにね。
まぁ……身の回りの世話をさせるために、メイドを連れてのお風呂ってスタイルもあったくらいだから、普通に男湯にスタッフではあるけど女性も出入りしてたし。
あ、そうそう、前世の温泉と違うところと言えばさ、温泉紹介のテレビ撮影みたいに、バスタオルを身体に巻いたままで入浴OKだったりする。
手拭いとかフェイスタオルとかも、湯船に入れちゃうとマナー違反なわけなのですが、ここでは特に問題なし。
(ただし重い。お湯を思いっきり吸ったバスタオルを身につけての移動は、なかなかの体力勝負になるんだよなぁ……)
たしか前世での理由としても、衛生面の問題からのマナーだった気がするんだけど、ここの温泉ってそもそもタオル系の私物としての持ち込みができないから、関係ないんだろうね。
終わったら即洗って乾燥されてしまうし?
……ていうか、男湯でこれもダメだったら、女性出入り禁止もないし、鑑賞し放題ですよね。
何が見たいのかはともかくとして。
身体を洗い終わって、湯船に浸かりながら、ぽやーっと考え事をしていると、風呂場のドアが開いた。
お風呂掃除のシステムかなぁ、とか、ぼんやりとみていると……幼児っぽい体型の……胸に奴隷紋が見えた……ユージアだった。
(えー……何これ、結局、お風呂ドッキリありなんですかね……)
ぼーっと湯船に頬杖をつきながら、様子を見ていると、湯気で見えなかったのか、奥まった場所にある湯船にいる私には気付かずに鼻歌を歌いながら洗い場の椅子に座ると頭を洗い始めてしまった。
流石に、ご対面状態でドッキリとかユージアが可哀想なんで、そっとバスタオルを身体に巻いて近くと、私の気配に気づいたのか、ユージアがびくりと固まった。
「えっ……」
「ユージア……ここ、女湯なんだけど?」
「えええええええええ」
「……落ち着いて。絶対に10代の姿になっちゃダメだよ?またチェッカーに捕まるよ?ふふふっ」
椅子から立ち上がろうとするのが見えていたので、肩に手を置いてその動作を阻止しつつ話しかけた。
……どちらにしろ、今、お風呂から出たら風邪ひいちゃうからね?
湯船に浸かってもいないんだから。
(そもそも悲鳴上げるべきは、私だと思うんだけど……)
ま、良いか。
ユージア可愛いし。許しちゃおう。
微妙に擦れてたり、からかうようなことを言うわりには、いざこうやって自分がからかわれる立場になると思いっきり涙目になるとか、可愛すぎる。
そして、私の嫌がることは絶対にしない……すごく優しい子。
「ごめんっ!見てないからね?すぐ出るからっ!」
今だって、みるみるうちに耳や首まで真っ赤にして『見てないよ』の意思表示か、片手で目を押さえて隠している。
「ていうかついでだし、洗ってあげるよ♪」
「ついでって何!?いいからっ!出るからっ」
「あ……見られたくなかったら、そのまま、隠しておいたほうがいいよ~?タオル落ちそうだけど」
まぁ私としては、別に見えちゃってもいいんだけど。
自分の息子や孫で幼児の裸なんて見慣れちゃってるからね。
ただ、ユージアが嫌みたいだし、一応教えてみると凄い勢いでタオルを掴んで元の位置に戻していた。可愛い。
「もう、いやあああああ」
「はいはい、動かないでね……耳の後ろ、洗ってないな?ここね。洗うのが大変だったら、顔をタオルで拭くついでに、ちょっと拭くだけでもいいからさ、垢たまっちゃうよ?」
「そういえば、お風呂、湯浴みとか、教えてもらった事無いや」
「そうなの?……あぁ教会かぁ。でも洗ってはもらえてたんでしょう?」
そうだった、この見た目と同じくらいの年齢の頃に、教会に捕まっちゃってたのか。
だとしたら、教会で教わってるということになるんだけど……。
「濡らした布で拭くだけだったな……お風呂って気持ちいいよね」
「そっか……あ、首の後ろも垢が溜まってる。これは……晩餐会の前にお風呂入っても取りきれなかったっぽいね」
気持ちいいよね、と嬉しそうな声を聞いて、反射的に視界が歪む。
それはもう凄い勢いで。
もう、絶対に教会許さん!
涙を必死に堪えたら、鼻がツーンとしてしまった。
泣くまいと、洗うことに集中し始めるのだけど、ポイントポイントで垢がすごい。
何年……ていうか、ざっと50年分か。
そりゃすごいや。
そうそう、浄化やクリーンの魔法って廃れちゃったらしいんだよね。
そもそもユージアは魔法使えなかったから、知らないし使うという選択肢にも入らないんだろうけどさ。
これはもう、洗い方を一から教えるレベルかもしれないと思って、徹底的に洗い始める。
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