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はじまりはじまり。小さな冒険?
117、ぬくもり。
しおりを挟む「晩餐会の時の……あぁ、かなり洗われたんだけどなぁ…途中でセシリアに紋で呼ばれて、帰ってからまた捕まって……洗われたんだけど。それでも落ちなかったんだ?」
「……捕まったって…?まぁ、随分しっかり洗われたんだね。っと、顎を上げてくれる?もっと。真上見るみたいに…そうそう」
ぐーっと全開で上に向いてもらう。
こうでもしないと、3歳児のぷにぷにほっぺと顎に阻まれて、首が洗えないんです。
……洗えなくはないけど、ぷにぷにのお肉に埋もれて、綺麗にはできない。
汗もかきやすいから、荒れやすくて汚れが溜まりやすいところだからね。
そして、皮膚が薄いのでデリケートな場所でもある。
「その体型だと、ここにも垢が溜まるんだよ。ここは洗うのを忘れちゃうと、すぐに滲みて痛くなったり、痒くなるから…洗う時は気をつけてね?」
「うん……」
頭は綺麗に洗われてるんだよね。
頭もさ、このくらいの子だと『自分でできるから!』って張り切り出すのはいいんだけど、信用して完全に任せると酷いことになる。
まぁ、一見してなら綺麗になるんだけどね、よくよく見るとこめかみのちょい上あたりに、大出血でもしましたか?というくらいに立派なカサブタのような、垢の塊を作ってくれる。
子供がサボってるわけじゃないんだよ?
(偶然それを見つけた時のショックと言ったら……病気かと思って病院に駆け込んだからね!?)
……子供の『頭を洗う』っていうイメージが『後頭部を洗う』感じなんだよね。
だから前髪とかは、そんなにしっかり洗ってなかったりする。
あ、こめかみのちょい上あたりってのは、俗に言うM字禿げの部分ね!
なんかもうね、酷すぎて、将来の禿げの原因を…キッカケを作ってしまったのではないだろうかと自己嫌悪に陥るくらいに、見事な垢の塊が、あの幼児のふわふわ柔らかい頭皮に、ガッチリと肌を荒らす勢いでくっついてるんだよね。
しかも代謝が良いから、短期間で出来上がる。
「……お母さんとお風呂に入るのって、こんな感じなのかな?」
ユージアはふにゃっと緩んだ、気持ち良さそうな顔で素直に洗われてる。
紅潮も少しは落ち着いたのか、ほんのり温まったのかな?くらいに戻ってる。
「ん?その割にはすごく嫌がってたよね?」
「……それはそれ。僕、母親と一緒にお風呂に入ってた記憶が、思い出せないのか……無いんだよね」
「お母さんかぁ……そうね、こんな感じなんじゃないかな?思い出せなくても、いつも一緒に入ってたと思うよ?」
「そうかな?」
えへへ…と、はにかむように嬉しそうに笑う。
まぁそういう年頃だよね。
家の経済状況にもよるけど……あ、ルークは辺境伯か…だったら、うちみたいに専属メイド等に補助をお願いしつつだろうけど、お母さんは頑張ったと思うよ。
……乳母もいたりしたのかな?
ユージアは初めての子だったっぽいから、どちらにしろ、お母さんはおっかなびっくりしながら、一生懸命頑張ってくれてたんじゃないかなぁ。
そうそう、辺境伯ってね、爵位で言うと上から……えっと、えっと…多分、そこそこ上!
(ていうか、ルークの立ち位置見てれば……少なくとも侯爵家……つまり公爵家の次と同じくらいの待遇に見えるし)
とても大事にされていたと思うんだ……。
本当は、両親からの愛情を一身に受けて、外の世界に興味を持ち始める時期を教会によって奪われ、精神の成長も50年前の当時のまま、止まってしまっていた。
(それでも知識は増えていて、一丁前な話はするけどね)
エルフの成長って、成人までは人間とそんなに変わらないらしいから、一緒に育って行けたらと思う。
まぁ、ユージアは精神的な成長ありきみたいだから、お母さんには勝てないけど、これからたくさんの愛情や優しさに触れていけますように。
……なんて頭の中で考えつつ、黙々とユージアを洗う。
首の後ろと、脇の下を念入りに泡立てたスポンジで優しく擦っては、湯で流して確認。
あまりにしつこい垢の塊が出来ちゃってた部分は、絞ったタオルを少し当ててふやかしてから、スポンジを当てる。
これを数回繰り返してやっと、素肌に近い色になった。
しつこく擦ったから少し赤くなっちゃったけどね。
(それにしても、エルフの『呪』という魔法の再現率の凄さに脱帽ですよ)
本当に身体を若返らせてるんだもの。
姿を変えるだけの魔法なら、垢なんて再現しないでしょう?
……落とすのすごい大変だったけどさ、これ、綺麗にしたから、元の姿に戻ってもきっとぴかぴかになってるはずですよ?
綺麗になったのがちょっと嬉しくて、達成感ってやつかな?
ふふん!と、腕をさすったら、ざらり。ざらり……。
……ふやけて垢が浮いてきたのか、触っただけで垢すりのようにごろごろと垢?角質?が消しゴムのカスのように出てきたので、再度無言でごしごし始める。
さっきまで気持ち良さそうににこにこしていたユージアも、その垢の大群に気づいたのか、自分の二の腕を凝視している。
「ちなみにだけど……生まれたばかりの時なんて、1日に何度もお風呂に入れてあげないといけないんだよね。それをしてくれてたのは、確実にお母さんでしょ?」
「そうだと、良いな」
「まぁ……こういう垢は出ないけどね!赤ちゃんは肌が弱いから、何度もお風呂で綺麗にしてあげないと、お肌がぼろぼろになっちゃうんだよ」
「そうなんだ……」
オムツも大変だし、そのほかに母乳もでしょう?
赤ちゃんのうちだと、自分の身体だって産後の回復中で本調子では無いから、ふらふらだし、さらに数時間おきの授乳があって寝不足だし……頑張れお母さんっ!って感じの時期だ。
そう思いつつ、ふと鏡越しにユージアを見ると、少しうつむいて悲しそうな顔になってしまっていた。
「……お母さん、恋しくなっちゃった?」
「ちょっとだけ。もう、会えないのはわかってるから……いずれは思い出せるといいなって」
「大丈夫。ユージアはこんなに可愛かったんだもん。大切で本当に大切で……大好きだ!って、絶対に何度も言われてたと思うよ……そんなに不安になる必要なんてないんだよ?」
「あ、ちょっと!裸っ!裸だから!抱き付くのは無しっ!」
あまりの可愛さに切なさに、たまらずに後ろからぎゅっと抱きしめたら怒られた。
でも、お母さんからの愛情に不安になる必要なんて全く無いからね。
ちゃんと赤ちゃん時代を卒業できてるじゃない。
それはユージアがお母さんのお腹の中に来た時からずっと、お母さんがユージアのために愛情込めて頑張って守り育ててくれた証拠なんだよ。
ふわっと浮かんだ感情だから、うまくは伝えられる気がしなくて、ただ抱きついてしまったけど。
お母さんの気持ち、私の口から話したら一般論にしかならないだろうけど、いつかは伝わると良いな。
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