137 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?
137、魔石便。
しおりを挟むあまりのショックに片腕を目の上に置き、くったりしている私の隣で、あわあわとしながらカイルザークが励まそうとしているのが、腕の隙間から見えた。
無駄に仕草が可愛い。
「……も、もう1人、獣人の子がいるんでしょう?その子にやってあげればいいんじゃないの…かな?」
「そうかっ!そうだねっ」
エルネストに希望を託して復活!
でも、触られるの嫌がってたもんなぁ……梳かせてくれるかな?
……次の季節からは、二人分だし、いいか!
にこにこしながらお着替えセットの袋へと、スリッカーをしまい直して、ソファーに戻ると、サンドイッチに手を伸ばしつつ、テーブルの隙間から、魔石便の手続きを始める。
「うわぁ…エル……がんばれ」
ルークの呆れ果てた、それはそれは深いためと、息ユージアの哀れみと同情の混在するような声が聞こえたけど気にしない。
本当に幸せな感触なんだからねっ!
「うん、片道だけだけど、魔石便使えそう。あとは……受取人と場所の指定なんだけど……」
「それなら、私の屋敷で。受け取りは風の乙女に指定できるか?」
屋敷……そういえば、魔術師団所属で王都にいるんだから、自宅があるよね。
所在地も座標も知らないけど。
そもそも、自分の自宅すら知らないしね!
って…そういえば私ってば、王都の自宅から拐われた後、帰ってないんだよね。
ルークの屋敷も気になったけど、そもそも私の自宅はどこなんだ?
「えっと…他の人に受け取られてしまうと困るから……そうね。ルークの屋敷の正確な座標が欲しいね」
荷物がいきなり、ぽーんと飛んでくるわけだから、未確認飛行物体どころの話ではないんだよね。
この魔石便自体がすでに廃れてしまった技術っぽいし。
(便利なのにもったいないよねぇ。発送の本体を持ち出せたら…と思ったけど無理だよなぁ。装置って、ほぼ小屋サイズだし)
まぁ技術の提供自体…というか発送するための機械が魔導学園にしか置けなかったんだからしょうがないんだけどさ。
もっと小型化、そして簡素化できたなら、絶対にはやると思うんだけどねぇ。
「……辺境伯邸は…セシリアのタウンハウスと近いんだよ。多分、ここら辺」
うーん、とテーブルに浮かび上がった地図をメアリローサ国部分の拡大版へと移動して、と睨めっこしていると、ユージアが指を指して教えてくれたので、その部分を、つつつ。と叩くように触るとさらに拡大される。
「これっていつも思うんだけど、どういう技術なんだろうね?今の景色だもんね。これ」
「まぁな、確かにこの学園があった時代のその場所には、屋敷はなかったな」
スマホとかパッドでマップを見てる感じなんだよねぇ。
使用感なんてまさに……というかほとんどかわらないし。
(あぁ、本当にこの応接のテーブルをお持ち帰りしたいっ!)
そう思いつつ、拡大した先には明るめのレンガに紺の屋根の、ザ、お屋敷!といった感じの素敵な建物が見えた。
使用人がいるにしても一人暮らしだと思われる、ルークのお屋敷は……汚部屋の拡大版かと思ってたけど、意外に可愛らしい外構を備えた素敵な建物だった。
その景色を確認すると、ルークは肯定するように軽く頷くと、ユージアを見つつ話を続ける。
「お前の自宅だろう、なんだその呼び方は……そこは屋敷の真上だな。裏にある敷地内の森に指定を頼む」
「僕の自宅はセシリアと一緒だもんっ!」
「はいはい~、そこ、親子喧嘩はいいから。裏の森だね…これで設定完了したからいつでも送れるよ。食べ終わったら荷物を小分けにまとめちゃってね」
「ありがとう」
ふう。と一息ついて、サンドイッチと、少し冷め始めたコーンポタージュに手を出す。
肉類のサンドイッチに、甘いコーンポタージュが美味しいのですよ!
……やたらとお腹に溜まって、というか軽食のはずが無駄に重くなる。
ちなみにユージアのすごい勢いでサンドイッチを頬張っているので、私とサンドイッチの取り合い状態になっているわけなのだけど……ルークはすでに食事終了したようで、紅茶が準備されていた。
カイルザークはポトフをメインに大盛りのサラダとさらだとサラダと……ひたすら野菜メインの食事だった。
(菜食主義ってほどでもないんだけど、肉よりは野菜を好むんだよね、相変わらずだなぁ)
甘いのも好きだけど、酸味が強いのも好きで、ケーキはホールをぺろりと食べたりするくせに、ステーキだと200グラム超えると残す。
めちゃくちゃ食が細く見えるほどに、肉と脂っこいものが苦手な子だったのよね。
そう思いつつ、カイルザークの食事を眺めていると、ふと、目があう。
すると少し寂しそうな顔になって、ぽつりと呟いた。
「ルークもセシリアも貴族なんだね」
「そうだねぇ、セシリアは公爵令嬢って事になるね……しかも、実は今、向こうではセシリアがいなくなって大騒ぎになってたりする」
「えぇ……何やってるの…?」
あはは…と笑いつつユージアがカイルザークに教えるように話すと、驚くを通り越して、呆れ顔になってしまった。
まぁ、ユージアなんて私を拐った張本人だし?って、そんなこと話したら、ややこしくなるか。
無事に帰ってから、ゆっくりお話できるといいなぁ。
「そっか……僕はどうしようかな……」
ぽつりと聞こえた寂しそうなカイルザークの声に『もちろん一緒に帰るんだよ?』と言おうとしたところで、ルークがソファーから立ち上がるのが見えたので、急いでスープを飲み干す。
案の定だけど、出発の時間が迫ってるようだった。
「そろそろ出発するが……カイ、武器になるものは?」
「僕は杖とレイピアなんだけど……この身体だと、どっちも重いんだよね…っと」
ソファーから立ち上がり、手を差し出すとレイピアが姿を現す……が、大きさがやばい。
カイルザークの今の身長が90センチくらいなんだけど、レイピアって男の人が持つとかなり華奢に見えるのに、っていうかカイルザークが使ってた時もそうやって見えてたのに、今は刀身が既にカイルザークより、頭ひとつ分くらい余裕で大きい。
もちろんだけど支えきれずに、床に刺さる…と思った瞬間に姿を消す。
次の瞬間には杖が、同じように手に姿を現したのだけど、またもや同じような結果になりカイルザークはたたらを踏みつつ杖も消す。
「厳しそうだな」
「あとは隠しで使ってる短剣だけど……ほとんど戦力にはならないと思う。って、そんなにやばい所に行くの?」
困った、という顔をしながら、反対の手に短剣が姿を現す。
それもずっしりと重いようで、片手では支えられずに、ふらつきながら持ち上げている状態。
短剣、なのに今のカイルザークが持つと、長剣に見えるもんね。
「あ、ダメだ。振り回すのも出来なさそう」
0
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました
朔夜
ファンタジー
この世界は「アステルシア」。
魔法と魔物、そして“従魔契約”という特殊な力が存在する世界。代々、強大な魔力と優れた従魔を持つ“英雄の血筋”。
でも、生まれたばかりの私は、そんな期待を知らず、ただ両親と兄姉の愛に包まれて育っていった。
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる