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はじまりはじまり。小さな冒険?
142、休憩。
しおりを挟む「カ~イ~!耳としっぽでてる~」
「やると思ったんだ……さっきからちらちら見てたもんね」
「……なるほど」
歳相応に行動する、の割には妙に冷静に、私に頬ずりをされつつも真顔で呟いている。
それがまた一丁前に写って可愛くて、思いっきり撫で回す。
個体差なのか、ケモ耳はエルネストの方が大きかった気がする。
種族の違いなんだろうか?
でもどちらも犬っぽかったよなぁ。
あ、カイルザークは狼って言ってたな。
どちらにしても、子供独特の感触なのだろうね、ふわふわで柔らかくて幸せすぎる。
髪の毛もさらさらですごく柔らかい。
「ちゃんとさっきまでは我慢したんだからね?移動中だし、非常時だし!でも、今は休憩だし、可愛いんだもの!」
「……ユージア、これは逆に考えたら良いと思うんだ。役得だって」
「役得?」
ユージアは「ご愁傷様」とでも言いたそうな視線で私にぐりぐりとされても、真面目な顔で話し続けているカイルザークを見つめている。
「そう……こんな感じかな?ほら」
カイルザークの頰に自分の頰をあてて、うにうにと感触を楽しもうと顔を近づけた瞬間、ぐいっと小さな両手で顔を引き寄せられる。
その先にはカイルザークのふにふにの頰、ではなくて、くるりと振り向いた可愛らしい顔。真正面。
そのまま思いの外、強い力で引き寄せられて逃げ切れずにキスをされていた。
ふにゃりと、めちゃくちゃ柔らかくて温かい感覚が、唇ではなく、ぎりぎりズレて頰に!
「あ、おし…いっ…?!」
「ぎゃああっ」
びっくりして反射的に、カイルザークを引き剥がす……と、勢い余って放り投げてしまった。
ていうか、おしい!ってなんだっ!?
「あ、投げた……」
「投げ…たな。何をしてるんだ……」
ユージアの笑いのこもった声と、ルークの酷く呆れた声が聞こえたわけですが……。
カイルザークは受け身どころか、くるりと猫のようにしっかりと足で着地すると、ぷりぷりと怒りながら戻ってきた。
あぁ、怒ってる姿も可愛いわけですが、許しません。
何しやがるっ!
「ちょっと!幼児を投げちゃダメでしょっ!?大怪我しちゃうじゃないか」
「怪我しなかったでしょっ!いきなり何するの!」
「愛情表現?セシリアだってしてくれたでしょう?」
「は……?」
ぽかんとする私の顔をじーっと見たあと、カイルザークは満面の笑みを浮かべると、両手をバンザイのように挙げて、近づいてくる。
「じゃあ、もう一回、抱っこ!」
「……しませんっ!」
こういうのをあざとい…って言うんだろうか。
カイルザークの仕草に、思わず抱き上げるために手がのびそうになりつつも、さっきの凶行を思い出して、断る。
……あんな事されなければ、喜んで抱っこしちゃうのになぁ。
「ほらね?」
カイルザークはとても楽しそうにリズムをとるかのようにしっぽを軽快に揺らしながら、ユージアの元へと近づいていく。
「その発想はなかったわ……大人って怖い」
「僕は、子供だよ?」
にこりとカイルザークは笑った。
それはそれは楽しそうに。
……どうしてくれよう、この似非幼児。
そういえば、この2人……もしかして足して2で割るとちょうどいい?
中身大人の幼児と、中身幼児の大人…大人……それは大人なのか?
まぁ疑問はいろいろ残るところだけど、うーん。
唸りつつ、休憩もそろそろ終了かなと思って使ったお皿やカップを纏め始める。
「セシリア、それこっちにちょうだい」
「はーい」
カイルザークに渡していく横から、食器類が全て綺麗になっていくのを不思議そうにユージアが眺めていた。
ま、紙の食器類なんだけどさ。
魔導学園の短距離野営セットです。
終わったら折ってしまえちゃう、浄化やクリーンの魔法が使えることが前提な道具だから、漬けおき洗いなんかをしたら一発でダメになっちゃうけどね。
「それって魔法?だよね?食器がマジックアイテム……ってわけじゃないよね?」
「魔法だね……って、あれ?もしかして浄化の魔法、使えない?」
何の気なしに聞くカイルザークに、ユージアは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「浄化って言うんだ?……僕ね、魔法が使えないんだよ」
「えっ!?」
なんで?と、びっくりした顔でルークに視線を向けるカイルザークに、肯定するように頷く。
習える環境にいなかったんだからしょうがないんだけどね、カイルザークから見れば、魔法の腕は当時でも国のトップクラスだったルークの息子が『魔力は有るのに、全く魔法が使えない』というのは驚愕に値するのだろう。
「ユージアは今までずっとね……行方不明だったの。偶然だけど、私が誘拐された先にいて、やっと戻ってこれたの」
行方不明。
改めて口にすると、じわりと視界が歪みかけてしまった。
少しの時間だけでもあの場所がとても恐ろしかったのに、ユージアは50年近くも……と光景が脳裏に浮かび、泣きそうになる。
でも、ここで泣いてる場合じゃないからね?頑張ってこらえる。
「いたっていうか……セシリアを拐ったのが僕なんだけどね」
「ユージアの意思じゃないでしょ!」
にこりとユージアが笑って話しているけど、絶対に笑ってちゃいけない話だよね。
それにユージアは悪くないし。
カイが無口になってじーっとユージアを見つめている。
昔からの癖だけど、カイがこういう態度をするときは、基本的に相手を警戒している時だ。
ものすごく警戒心の強い子だから、初対面の人間にもこの態度になるけどね。
……さっきまで、和気あいあいと話せる位にはなっていたのだから、これは完全に警戒だ。
「カイ、どこから出回ったのか……『隷属の首輪』が使われてたんだよ。王検レベルのやつだった」
「骨董……?レベルだよね、それ。それとも、作れる人間がいるのかな?」
王検レベル。
ユージアにも説明したけど、高難易度の技術試験に使われるくらいに、作成は難しいし、作成後も国で厳しく管理されたアイテムだった。
だから一般に出回ることはまずないし、そんなものが後世で思いっきり悪用されてるとは……となる。
「いないと思う。すごく古かった。閉じ込められてた牢も、建物自体がマジックアイテムになってて、脱出が大変だったのよ……まぁ整備されてなかったから、牢自体は抜け出せたけど、建物はまだ機能してたよ」
「……それは後日、順を追って話そう。カイルザークは現状を知る必要もあるが…まずはこの森を抜けよう。そろそろ時間だ」
ルークがずいぶん高く上ってしまった太陽の角度を見ながら急かしてくる。
まぁ、こんなところで話すような内容でもないか。
これがピクニックとかだったら、よかったんだけどね。
まずは無事に森を抜けなくてはいけないんだった。
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