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はじまりはじまり。小さな冒険?

144、マラソン。

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ちなみにフレアの本当の姿は、金髪の男の子。(女の子でもあるんだけど)
召喚者の好む姿で現れる、ってのは好む性別、年齢で現れるって事で、シシリーが呼び出した時は、シシリーと同じ歳くらいの金髪のお兄さんだった。
精霊独特の透き通るような、端正な容姿で中世的な…むしろ女の子っぽい可愛らしさのある男の子だった。


(セシリアが呼び出す時は、セシリアはまだ3歳だし、フレアも同じ歳くらいで現れるんだろうか?……それはそれで楽しみかも)


思わずにやにやしていると、背後からユージアとカイルザークの声が聞こえてくる。
こんなに速く走ってるのに、会話できるとか凄いよね……。


「カイ、速いね。疲れたらすぐ言ってね?」

「いや……多分、一番先にバテるのは……」


ユージアのカイルザークを心配する声が聞こえて……ルークの少し呆れた声が響いて……。
あれからものの5分程度で、ユージアの息が上がり始める。


「あ、はい、僕……でした。きっつう~っ!」


それでも、街道までしっかり走り抜けただけでも凄いと思うんだけどね。
私にはそのスピードの時点で到底無理な話だし。


「ひ~っもう無理っ!」

「はいはい、もうちょっと、もうちょっと!」


へろへろとしながらも、カイルザークに励まされつつなんとかついてくるユージア。
並走しているカイルザークの足どりは軽く、むしろユージアの疲れっぷりを見て顔には楽しげな笑みまで浮かべている。


……10分後、聖樹の丘からゼンの扮したレイと移動した、あの夜営地点まであっさりと到着してしまった。
前回の…セシリアとゼンで、子供の足で必死に歩いて半日以上かかった距離が、エルフや獣人達にかかれば10数分で着いちゃうらしい。信じられない!


「……なんで、フレアに運ばれてたセシリアまでバテてるの」

「酔った……速いし怖いし揺れるし…」


カイルザークのあきれ返る声は気にしない事にした。
呆れるべきは私じゃなくて彼らの事だと思うんだ。


そして現在、私とユージアはベンチになっている部分で休憩中です。
息が完全に上がってしまって息苦しさから涙目で横になっているユージアと、酔って気持ち悪くなって顔を青くしている私と。
本当にもう、ぐったりですよ。


「酔った…完全に酔った。世界がゆらゆらしてる~」

「つ、疲れた~もうダメ」

「ユージアは頑張ったと思うよ?ほら、毒がまだ抜けきってなかったんでしょう?それもあるんじゃないかなぁ?」

「う~ん……セシリアに麻痺を治してもらっただけでも、一気に筋力も体力も上がった自覚があるからね、これは運動不足の方だと思う」


その姿を見て面白そうにけらけらと笑っているカイルザークと、井戸から水を持ってきてくれたルークと。


「鍛え方が足らん」

「良い運動でしたっ。僕なら、まだまだ行けるよ?」


2人は涼しい顔で、息すら上がっていない。凄いね。
私はルークから水をもらうと、ボーッとあたりを見まわす。
聖樹の丘も夜営地ここも数日前にも訪れた場所ではあるのだけど、やっぱり朝と夜では印象が違うね。

息も絶え絶えのユージアが、けろりとしている2人を見つめて、ぽつりと呟く。


「もう無理……やっぱカイもバケモノ仲間じゃないか…った!いたたた……」

「君に言われたくないよ~だ。でも、幼児ぼくに体力で負けるのはどうかと思うよ?運動不足だね。ここ、マメ潰れてるし」


カイルザークはぐりぐりと足のツボを押すようにユージアの足を押したり摘む。
痛がるユージアを気にするようでもなく、足の裏からふくらはぎ、太腿へと揉む位置を変えていく。


「うん、全く運動してない脚だね!ちゃんと鍛えましょう~」

「精進します……痛かったけど、今ので少し楽になったみたい。ありがとう」

「セシリアも……冒険者目指すなら、まずは酔わないように頑張らないとだね」

「が、がんばる」


カイルザークに説教まじりで…にこりと笑われてるんだけど、やっぱりこれってカイルザークの方が私よりしっかりしてるよね?!
弟になりたいって言ってたのに!
やっぱり下克上なのか……。

うーん、なんとも微妙な気分になって唸りかけると、フレアが夜営広場の入り口付近を見つめて指をさす。


『お迎えが来たようだよ。セシリア、本当にごめんね。夕方にはその姿を元に戻しに来るから、また後でね』

「うん、ありがとうね。ちゃんと頑張ってくれるなら、フレアにお願いしたい事がいっぱいできたから、またよろしくね」

『うん!またあとでね!』


ふわりと花咲くような嬉しそうな笑みを浮かべると、フレアは光の粒が散開する様に姿を消していった。
私の大好きな、薔薇の散る時に似て、花弁が一斉に広がるように。

去り際の綺麗な光景に、思わず見惚れていると、寝転がったままのユージアが不思議そうな顔をする。


「精霊って、本当に暴走するんだね……」

「あぁ、あの精霊が特殊なのかもしれないんだけど……まだ子供なんだって、だから妖精に性質が凄く近いって聞いてるから、本当は暴走とは言わないんじゃないかなぁ」


精霊等、生身の身体を持たないものとか、種族にもよるけど魔力が高い生き物は、長い年月を生きるうちに上位格へと進化するものが現れるそうで。
ルナフレアも、人と契約すること自体が初めての、最初は無力な可愛らしい精霊だった。


(ただ……あの精霊の力の源とする場所すみかが特殊だったのか、凄い勢いで成長をしてしまい……暴走して学園内での騒ぎを起こしまくっちゃったわけだけども)


さらには契約主であるシシリーが早々に死亡してしまった事もあり……まぁ普通ならそこで新たな契約を誰かと結ぶことになるんだろうけど、カイルザークを守らせるために縛り付けてしまった……上に解放することすら忘れてたし。
結果、社会経験が乏しいままに、精霊格のみがどんどん育ってしまった。という状況なのだと思う。申し訳ない。


「じゃあ、あの精霊も社会勉強中なんだね!面白いね」

「いや、むしろさっきのだって、暴走でしょ……主人マスターの返事を待たずに抱えて走り出してたもん」

「あ……そういえば」


ユージアはあれぇ……。と、不思議そうに首を傾げつつ、ころりと寝返りを打つ。
ていうか、そろそろ呼吸が落ち着いたなら起き上がればいいのに。
まぁ、私も酔いから立ち直れないでいるんだけどさ……。


「ねぇ、なんで守護龍に説教されてたんだろうね?セシリアが主人なんでしょう?……王都でも悪戯しちゃったのかな?」

「あぁ……それは、守護している国の子、しかもその王族の子に悪戯しちゃったからだと思うよ?守護龍なら、王族の護るべき子に悪さする精霊がいたら……怒るんじゃないかな?」

「守護龍は王族と血の契約を交わしているからな。メアリローサここの王族が基本的に風の属性持ちで生まれるのは、守護龍が風龍だからだ」


にこにこと優しげなメアリローサの守護龍、アナステシアスがルナフレアが怯えるほどに怒るっていうのが、いまいち想像出来ないんだけどね。
あ、でもゼンもみっちり怒られてたらしいからなぁ、温厚な人ほど怒らせると、めちゃくちゃ怖いってよく聞くし、本当は怖いんだろうか?


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