私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

170、side カイルザーク。その5

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エルネストは筋力はあるし、身のこなしもうまいけど、体格はやはり同年代の狼系の獣人よりかなり小柄である。
ただし、狼系の獣人には珍しいほどに魔力は高めに感じる。
やっぱり、この外見で生まれると、僕と似たような傾向になるんだろうか?

抱きつきつつ、くすぐるようにしてエルネストの状態を確認していると、抱きつきの拘束から逃れようと抵抗していた力がふっと抜けて、背をぽんぽんと撫でられた。


「……1人で、よく死の森を抜けられたな。助かって良かった」

「死にかけたけどねっ!」


あははっ!と笑うと、思い切り遠い目をされてしまった。
そんなエルネストの表情を視界に入れ、口角がにやりと上がるのに気づき……その次の瞬間には身体が宙に浮いていた。
それと同時に罵声のような言葉が聞こえてくる。


「そういう事は、笑っていう事じゃねえっ!」

「投げながら言う事でも、無いでしょっ?!」


まぁ普通に着地できたから良いけど!木の床って言っても、こういうお屋敷の床は大理石並みに硬い上に、丁寧に磨き上げられて良く滑るから、着地失敗したら痛いんだからね?

……ずっと言葉少なに、公爵家に同行していたように見えたエルネスト。
言葉では怒りつつも、笑っている……こういう言葉遣いなのか。
控えめな性格なのかと思ってたが、思ってることをうまく周囲に出せないタイプなのだろう。
こんな幼いうちから、気持ちを溜め込む必要なんてないのだが。

ま、爆発させると、溜め込んだ言葉も出てくるみたいだから、今後は僕の運動相手も兼ねてエルネストのストレス発散もしてあげる事にしよう。
……本音が言いたくても言えない場面なんてこれからいくらでもあるのだから。
言える時はしっかり言えるようにしておかないとね。


「それとだ……風呂はどうする?風呂場、というものを屋敷の修理と一緒に作ったみたいだけど、行くか?」

「行く!……一緒に行ってくれる?」

「あぁ」


そういえば着替えとかはどうしたら良いのかな?と改めて部屋を見渡す。
大人サイズの贅沢ベッドが部屋の両端に寄せられるようにして2人分置かれていた。
それぞれの枕の近くの位置には、サイドチェストとテーブルセット。

中央奥の窓際には小さな執務机がベッドの設置と同じように、両サイドに1つずつ設置されてあった。
……片方の執務机には、文字通り山盛りの書籍と書類が積まれていた。
ルークからの宿題かな?と思い至り、ゾッとする。

そして中央に厚めのラグが敷かれて少し大きめの応接セット。

部屋を真ん中で仕切るようにして、それぞれで使えるようにしてあるようだった。
僕のベッドの上には、セシリアが袋に山盛りにして持ち帰ってきたと思われる、見慣れたデザインの子供用の衣類がきれいに畳まれて置かれていた。

今日、使うであろう分の寝巻きと下着類だけ。

不思議に思ってサイドチェストを覗くと、残りの衣類が綺麗に収納されていた。
仕事が早いな……。


「着替えを持ったら、行くぞ……?」

「うん!お願いっ!」


タオルは良いのかな?と思ったけど見当たらなかったので、着替えを掴むと、早足でさっさと目的地へと向かおうとしているエルネストの後を追いかけた。

湯浴みのぬるいお湯よりは、魔導学園で入っていた浴場の方が好きだ。
身体を洗うにしても、その屋敷の使用人達のサポートが必須だし、湯浴みはいくら熱めに準備してもらっても、準備に時間がかかってぬるくなってしまうからだ。

魔導学園にあった大浴場は『温泉』というもので、もともと熱く湧き出る地下水をそのまま湯船へとひいていただけなので……まぁむしろ、季節によっては熱すぎて水を大量に入れて温度を下げる必要があったりもしたのだが、とにかく身体が温まった。

何より、どんなに自分のペースでゆっくりしていても、湯浴みのように使用人達のお手伝いが必要無いので、湯温を下がりすぎないようにと追加の湯の準備や、それこそ身体を洗ってもらう等の仕事のペースを気にしなくて良いのが嬉しい。


(……貴族では、やってもらって当たり前のことなのかもしれないが、色々と抵抗がある。裸見られるの嫌だし)


早足のエルネストの後を追いかけていくと、どうやら『風呂』は父様と母様の部屋がある棟の中に作られたらしい。
広い廊下を急ぎ足で進み、階段を1つ上がり、奥の棟のちょど中間地点でエルネストの移動速度が緩やかになる。

位置的には、お屋敷を正面から見て、ちょうど真裏で一般的には裏庭が一望できる、大きなバルコニーやベランダが設置されるような場所だ。
エルネストはなぜか辺りをきょろきょろと用心深く見渡してから、両開きの大きなドアを開く。


「うわぁっ!」

「ほら……早く入るぞ?」


広がる光景に覆わず息を呑んだ。

バルコニーと思われる部分を、そのまま大浴場へと作り替えたようだった。
白い大理石張りの中央に大きな湯船があり、その湯船のさらに中央に設置された、噴水のような彫像から湯気を立てながら常に注ぎ込まれている様子がぼんやりと、脱衣所との仕切りに設置されているガラス張りの壁とドアから透けて見えていた。

……流石に魔導学園の浴場ほどの広さはないし、同じように脱衣スペースにロッカールームが見当たらないので、これはメイドの湯あみの手伝いが前提の作りなのでは?と思う部分がいくつかあったが、これなら大満足だ。


「こっちだ」


エルネストに手を引かれるようにして、テーブルセットが置かれている場所へ移動した。
着替えを置き服を脱ぐと、そばの棚に積まれているタオルを一つ取り、浴場のドアを開ける。


『あら……こんばんは』

「やっぱりいたっ!」


精霊独特のよく澄んだ声が響き、エルネストがびくりと飛び上がった。
目の前には優雅なカーテシーをしている水の乙女オンディーヌがいた。


「こんばんは!どうしたの?」

『ここはとても居心地が良いのよ……お邪魔しちゃったかしら?』


ふわりと水の乙女オンディーヌが優しげに笑む。
まぁ、水の属性だもんね。風呂は水が沢山あるから、嬉しいよね。
大丈夫だよ、と首を軽く横に振って見せると、嬉しそうに笑みが強くなる。


『子供達の湯浴みのお手伝いも頼まれているのだけど、必要かしら?』

「僕は大丈夫だよ。エルは……」

「い…いいっ!大丈夫っ!1人で出来るっ!!」


そう悲鳴まじりにエルネストは返事をすると、颯爽と身体を洗いに行ってしまった。
顔にはっきりと恐怖!と出ていたエルネストの反応に小首を傾げつつ、水の乙女オンディーヌを見上げると同じように不思議そうな表情で、遠ざかっていくエルネストを見つめていた。


『そう、なら危なくないようにだけ、あなた達をみていなくてはならないの。私はあの辺りにいるから、気にしないでいてくれると嬉しいわ』

「お気遣いありがとうございます」


確かに幼児だけのお風呂は、転倒や溺れなどの危険があるから、拒否はできない。
あの辺り、というのも完全に浴場の端にある、水が湧き出ている部分だった。


水の乙女オンディーヌは、現在、誰とも契約を交わしていない。
彼女との契約と1番近い位置にいるのはユージアだが、彼女自身の格が高すぎて、契約できる条件を達成できずにいた。
魔力が元から高い種族であるエルフであるユージアが契約できない。
それはすでに精霊の枠を超えてしまっているのでは?と疑問に感じるわけだが、本人が『精霊だ』と、そして精霊然として行動しているので精霊なのだろう。


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