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はじまりはじまり。小さな冒険?
169、side カイルザーク。その4。
しおりを挟む「あらあら……こんな小さいのにカイもセシリアみたいに、面白い言葉を知っている子なのね?ふふ……」
「セシリアもだけど、どこから覚えてきたんだろうねぇ?」
幼児の失言だからね!って事で笑って誤魔化すことにさせてもらう。
誰からもそれ以後の執拗な追及はなく、少しほっとする。
一同は笑いながら、話の内容がこの屋敷の施設の話に移り階段を移動し始める。
この階段のあるフロア……と思っていたが、単なる階段のようだ。
どの場所も、私が以前使っていた寮の個室の倍以上の広さが軽くある。
この階段を上り切った先にある大きな廊下を右へと進むと使用人たちの部屋がある使用人棟へと繋がっているらしい。
真っ直ぐ奥へと進むと、父様と母様の部屋。
左へと進むと子供たちの部屋へと辿り着けて、セシリアの部屋は一番奥の角部屋で、私とエルネストの部屋はそのひとつ手前の部屋になる、と説明をされた。
このお屋敷の構造で言うと、本来であれば子供達の部屋も父様と母様の部屋がある棟になるはずだと思って……理由に気づいた。
……部屋が足りないのだ。
子供が多すぎて!
貴族は基本的に、成人していても実子達の部屋をそのままとっておくものなのだ。
里帰りや、一時的な帰省のための滞在用に。
なので、父様母様の部屋の並びには長男長女と、順に兄妹の上から部屋が並んでいるのだろう。
これもまたうっかり訊ねてしまいそうになり、言葉を咄嗟に飲み込んだ。
自己解決したのもあるが、そもそも部屋の配置なんて幼児が知るはずもない情報だからだ。
また失言をしてしまうところだった。危ない危ない。
……しかし、セシリアも何か、やらかしてたのか。
失言、この新しい両親はおおらかに笑って許してくれているようだが、本当に気をつけないといけない。
大人としての立ち居振る舞いも、マナーや常識、色々と覚えなくてはならないことが多くて大変だったけど、子供も……結構大変なようだ。
まずは……言い間違いやうっかりの発言をしないように、ほぼ癖になっているくらいに良く使う言葉から直していこう。
『私』を『僕』に。
『父様』と『母様』と『セグシュ兄様』と。
そういえばセシリアは昔みたいに『ねえさま』で良いのかな?
懐かしい。
魔導学園の初等部から中等部に上がる際に、上級生から強く注意をされて『ねえさま』から『先輩』へと変えた。
中等部から先輩後輩等、人間関係での上下の認識を強く意識するようになる。
そしてルークもシシリーも、学園内ではとても優秀で目立つ存在だったために、自分たちよりも後から来た後輩が、馴れ馴れしく『ねえさま』と呼び、後を付いて回るのが許せなかったようだった。
「進学・進級おめでとう!」
入学式が終わって、講堂から出てきた私…僕の姿を見つけて、大きな花束を持って一目散に駆け付けてくれたシシリーを『先輩』と初めて呼んだときは、今にも泣かれてしまいそうな悲しい顔をされた記憶がある。
さて、これからは『ねえさま』と『セシリア』……どちらで呼んだら喜んでもらえるのだろうか?
******
階段を上り切った所で、ユージアと父様と母様に「おやすみなさい」の挨拶をして別れた。
セグシュ兄様の部屋は、僕たちと同じように廊下を右に進んだ最初の……1番階段に近い手前の部屋を使っていた。
順に並んでないんだな?と思っていたら、不思議な顔をしていたのに気づかれてしまったようで、セグシュ兄様がふわりと笑う。
「カイルザーク、今日からはエルネストと一緒のお部屋だから寂しくはないと思うけど……何かあったら僕の部屋においで……セシリアや君たちの部屋と僕の部屋が離れてるのは、キライとかじゃなくてね、セシリアが産まれた時に君たちの部屋にセシリアのお世話をするための使用人が常にいてね…母様の休憩にも使われていたから。赤ちゃんの泣き声って結構響くのと、その時に僕は試験とか勉強が山盛りの時期だったんだ」
育児も勉強も大事だけど、どっちも寝不足やイライラになっちゃったら嫌だもんね?と、ぽんぽん、と頭を撫でられる。
……やっぱり撫でた瞬間に、出したままにしてあった耳に触れ、嬉しそうにしてた……のは気づかなかった事にしておく。
「お互いにストレスにならないために部屋を離してあっただけだから、気にせず遊びにきてね。もちろん勉強も!僕が滞在中であればわかる所なら教えるよ!」
優しい、兄だ。
そのまま、優しい人であってほしい。
今回の襲撃で負った傷の後遺症から魔術師団への着任が危ぶまれたり、なかなか意識が戻らなくて、良好な関係を築けていた婚約者をとても心配させてしまったそうだ。
この滞在自体も、その婚約者のデビュタントの打ち合わせの為に学園に休暇届を出して、実家に帰ってきていたと言うのに。
セシリアもとても気にかけていたセグシュ兄様。
兄とは、こういうものなのだろうか?
これから僕も知っていけるのだろうか?
「じゃあ、おやすみ!ちゃんと寝るんだよ」
そう言って、エルネストと僕の部屋まで送ってくれた。
磨き上げられた木の床をコツコツと、セグシュ兄様の歩く音が遠ざかっていく。
途中でふとその音が止まる。
ちょうどセシリアの部屋から出てきたであろう彼女の専属メイド……セリカというらしい、彼女と少し話をしていたのが聞こえた。
セシリアは湯あみ中に姿が元に戻り、そのまま寝てしまったようだ、そんな会話をしながら足音は遠ざかっていった。
「カイルザーク、おまえ、どこの出身だ?」
突然の言葉にきょとんとして振り向くと、先に部屋へ入っていたエルネストが険しい顔をしていた。
あぁ、そうか、僕みたいなのは里で忌避されるべき変異種だからね。
滅多にいないはずの子が、いきなりここに2人もいたら警戒するよね?
もし、他の里にも生まれていたのなら、風の噂でも流れていただろうし。
「カイで良いってば!北の国だよ。北の国のね、もっともっと北の方」
……今も存在してるか知らないけどね。
1000年前はそこに、里があったんだよ。
里自体を転々と一定期間で移動させる種族でもあるし、僕自身も里を出てからは一度も戻ることがなかったし、その後は知らない。
「北の国か……本家筋だな」
「本家っていうの?よくわからないけど……すぐ追い出されちゃったからね!」
にこっと笑うと、エルネストは思い切り嫌な顔をする。
……まだ、里はあるらしい。
そもそも、生まれて早々に母親ごと屋敷を追い出されてるし、周囲の地理や里の常識なんかを知る前に、僕自身だって仮の里すら追い出されているのだから、そんな情報は持っていない。
「僕がいた里の始祖は、昔に本家筋の家系でこの外見で生まれた者とそれを庇って追い出された……本家筋の親族が作った里だ。この外見は本家筋の血をひいていないと出ないそうだ」
「そうなんだ!エルは物知りだねっ!」
庇う。そんな奇特な人も居たんだね。
少し嬉しくなって、エルに抱きつこうとすると、さらりと避けられた。
意外に身のこなしは良いようだ。
まぁ……そんな庇われたはずの子孫であるエル自身はここにいるから、僕に話すためにかなり分厚いオブラートに包んだ部分があるのだろうけど。
僕の母様のように、母親とその親族ごと追い出されたってところが真相なのではないかと思う。
何度か飛びつこうとリベンジするも、ギリギリの所で避けられる。
一般的な獣人程度の反射神経と筋力はありそうだ。
じゃあ……と、子供を相手にするのではなくて通常戦闘のつもりでステップにフェイントを使いつつ、スピードを上げて近づくと、あっさり捕獲できてしまった。
「よしっ!捕まえた~っ!」
「ちょっ……なに…今の、動き……って離せっ!」
「ナイショ…でもこれで移動してきたんだよ。エル、改めてよろしくね?」
ぎゅーっと抱きつく。
僕を本家筋と呼んだということは、きっと僕の兄弟あたりの子孫なのだろう。
そう思うと可愛くて仕方がない……のは言わないでおく。
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