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はじまりはじまり。小さな冒険?
177、書けない。
しおりを挟む応接のソファーに移動して、宿題の続きを始める私と、ソファーに座ったまま顔をしかめて一点を睨みつけるようにしたまま微動だにしないカイルザーク。
「あ、面白いね。僕のと練習する文字が逆なんだね」
「うん、こだいごはよめるけど……こっちがよめない……」
「……」
ユージアは不思議そうな顔で、ノートを覗き込んでいる。
普通に読める文字が読めなくて、読めないはずの文字を元に言葉を解読しながら書き入れて練習する私の姿が、本当に不思議でしょうがないらしい。
「ねぇ…セシリア?カイが怖いんだけど」
「ねおき、すごいわるいから、ていうか、たぶんまだねてる」
「……」
「あっ……本当だ……えー、座ったまま寝ちゃうの……」
ユージアは睨み付けるように渋い顔のまま、微動だにしないカイルザークの鼻先に手をひらひらとかざすも全く反応しないことに、びっくり、というか呆れてるよね?
ジト目のようになりつつ、なるほどな~と頷いた。
「変態仲間は寝起きが悪い。うん共通点もう1つ、みーつけたっ!」
「わたしはわるくないよ?」
「……」
「……寝たら起きないじゃん。誘拐されて運ばれてても熟睡だったじゃないか」
「それ、ふつう、おきるよ?」
「……」
え!なにそれ?と顔を上げると、座ったまま寝ているカイルザークを面白そうに、ユージアが『これこれ!こんな感じだった!』と頰をぷにぷにとつついて遊んでいた。
出しっぱなしのケモ耳とふわふわの尻尾すら、微動だにしていないあたり、完全な熟睡だと思う。
耳は特に意識しなくても音に反応して動いてしまうって、以前聞いたことがあるし。
私も一緒に触りたい衝動に駆られつつも、まずは宿題だ!と必死にペンを動かす。
「いや……実際寝てたし」
「おかしいな……って、カイ!わたしをまくらがわりにしないでっ!おきて!」
「やー……」
ユージアの執拗なほっぺぷにぷに攻撃は、さすがに鬱陶しかったのか、目は閉じたまま顔をしかめると、隣に座っていた私の膝の上を狙うように倒れ込んできた。
膝枕の状態にして、両手を腰に回してしがみついて、お腹に顔をすりすりしてくる。
ふわふわだし可愛いし、モフりたい衝動があるのだけど、今はそんな余裕ある状況じゃ無い!
何とか起こすために、膝から下ろそうとすると逆に全力でしがみつかれてしまった。
「カイは眠り深いなぁ……確実に眠りの深さはセシリアと同じだと思うよ?」
「ここまでひどくないとおもう……」
「いやぁ…同じくらいだって。あははっ」
「エルは……ここにくる前に声をかけたんだけど、もう起きて、着替えも全部終えてたよ?」
え!と、思わず作業の手が止まって顔を上げる。
エルネストってば、めちゃくちゃ寝起きのいい子じゃない!感心しちゃう!
寝起きの良い子供って、必ず決まった時間にぱちりと目を覚ますんだよね。
時計も目覚まし時計も、こちらの世界にはあるけど…あの程度の音じゃ、私は起きられない……。
現状では、セリカに起こしてもらって、着替えをしてもらってるあたりくらいからようやく、意識が戻ってくるような状態だったんだ。
(まぁこれは……昔からだから、これは私の性質ってことで諦めてる)
前世にはびっくりして飛び上がるくらいに、けたたましく鳴る目覚まし時計や、軽くびりっとくる刺激をくれる目覚ましなんかがあったけど、前世の私も……それでも起きれなかった。
あ、旦那や息子が『その目覚まし、本当に効かないの?』と、ふざけて使って、飛び上がって起きたり、強い刺激に目が覚めるどころか痛みに悶えてる姿は見た……。
『どっちも刺激が強すぎて、起きる前に永遠の眠りに落とされるところだった!』
ものすごく不評でした……全く効かないと思ってた目覚ましなのに。
ちなみに、前世での私は、冬からまさに今の時期……そう、春先は目覚めたとしても、寒さから本当に布団から出れなくて、あっさり2度目して寝坊してた。
(今考えると結構な冷え性でもあったから、それも原因だったんだろうなぁ)
……寝る時に「体調悪い」とか家族にぼやいていた時は、夜中にすごく心配な顔をした旦那に、起こされたことがある。
真夜中なのに、すぐにでも出勤できるように着替えも何も済んで、私の布団の足元には、出勤用の鞄が転がっていて。
(私はむしろ旦那のその姿にびっくりして目が覚めちゃったのだけどね。だって真夜中なのにそんな格好してるから)
目が覚めてみて……状況にびっくり。という事があった。
朝、なかなか起きてこない私を見て、寝る前に体調が悪いと言っていたのを思い出して、ぐっすり眠っているしと、そのまま寝かせておいてくれた旦那。
仕事が終わって帰宅したら、子供達は帰宅してそれぞれ居間で遊んでいたらしいのだけど、私の姿が見えない。
『母さんは?』
『ねてるよー。にいちゃがごはんつくってるから、おてつだいしてゆ!』
で、心配して起こしにきてくれたという。
そう、夜中だと思っていたのは、日没ギリギリの夕方で、寝たばかりどころか丸一日寝過ごしてました。
……実際病気でも何でもなくて、笑われて済んじゃったけど、家事もその日の予定をも、まるっとすっぽかしてしまったので、後からが大惨事でした。
ぶわーっと前世での生活風景が頭に浮かんできて、思わずふふっと笑ってしまう。
懐かしいなぁ。
……いろいろと大惨事だったけど、私が動けなくても甘えん坊の長男がしっかりと下の子達の面倒を見つつ、ご飯を準備してくれていたことにびっくりしたという、誤算的な大発見もあったし、下のちびっ子2人組も、夕方から寝るまでは体力の限界を超えてハイテンションな感じになっているので、なかなか言う事を聞いてくれないところが、その日はしっかり長男に協力して良い子にしていた。
微妙に反抗期中の長男、家で料理なんかした事なかったのにね。
危なっかしい手つきで頑張ってつくってくれたご飯は、とても美味しかった。
親が心配している以上に、子供って案外しっかりしてるんだなって、変な感心もしたりした。
まぁ、子供達がしっかりせざるを得ない、そんな環境にならないようには、頑張ったつもりだったんだけどね。
しっかりするのは独り立ちしてからで良いんだもの。
そう思いつつ、ノートへの書き込みを続けていく。
視界の端でユージアがカイルザークの頬をぷにぷにとつついたり、ケモ耳を不思議そうにさわさわしつつも、話を続ける。
「起きたらカイがいないって心配してたくらいだし?」
「エルいいこ……」
「いいこ……?ん…いいこ…」
私の声に続いて、木霊のようにむにゃむにゃとカイルザークがいいこ、と呟く。
呟いた後、夢の中で何か食べていたのか、口がもちゅもちゅと動き、顔を突いて遊んでいたユージアがふるふると震えだす。
「カイは……どんなゆめ、みてるんだろうね?なんかおいしそう」
「ぶっ…!カイ、寝ぼけすぎっ!そろそろ起きようよ~」
「や……」
「じが…かけない……ゆらさないでぇぇ」
私の膝で膝枕状態のカイルザークを、ユージアが揺すって起こそうとすると、私も揺れるので、正直作業ができない。
しかも、ユージアの手を払いたいみたいで、カイルザークの手が鼻先を何度もかすめていく。
「おっと…ごめん」
「…ん~…」
「カイもはなれて…!」
これじゃあ勉強できないでしょっ!と流石に怒りかけたところで、部屋のドアをノックする音が耳に入り、ドアが開くと、カートを押したセリカが入室してくるのが見えた。
「おはようございます。セシリア様。そろそろお時間ですよ」
「セリカおはよう」
ユージアはソファーから立ち上がると、セリカにペコリと礼をして、カイを私の膝から引き剥がして小脇に抱え上げようと声をかける。
「さて、カイ行くよ。着替えてご飯だよ」
「やぁー……」
流石に寝ぼけている状況では抵抗も難しかったのか、あっさりとユージアの小脇に抱えられて、カイルザークが運び出されていく。
ユージアの遠ざかっていく背中と、傍に見える、ゆらゆらと完全に脱力して揺れているカイルザークの足。
あれはまた寝直したな……がんばれ、ユージア!
徹夜明けのカイルザークは手強いよ?
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