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はじまりはじまり。小さな冒険?
189、side エルネスト。珍しい。
しおりを挟む荷馬車は王都へ到着すると、小さな子供たちを商館のようなところでおろして行った。
残ったのはボクとレイとセシリア。
ただこの3人も、次に停車した場所で降ろされた。
そういえば、王都へと到着して荷馬車から降ろされる直前に、レイに強く頬を叩かれたんだった。
何事かと思ったら、髪と瞳の色を変えられていた。
『うん、エルも僕も王都では珍しい髪色だからね。少し地味な方がいいと思ったんだ。セシリアも念のため、ね?』
自分の髪をつんつんと引っ張りながら、楽しげに笑って説明してくれた、あの魔法はいつの間にかに消えていたけれど。
どうやら大人達は『忌み子』では無く『獣人という種族』でも無くて、『珍しい頭髪』に目を引かれていたのだという事に気づいた。
耳やしっぽは隠せても、頭髪は変えようがない。
(人族はカラフルな頭髪だったから、珍しい色があるなんて知らなかったよ)
ちなみにボクたちが降ろされたのは教会で、そこで一悶着あって……気付けばボクは公爵家へと引き取られる事になっていた。
(里の皆を見返したい。そんなつもりは無い、無かったけど……養母、今の状況なら少しは安心できますか?)
……その公爵家は改装中だそうで、王宮に間借りをしているとかで、王宮へと移動する間に、聞こえてきた情報からわかったのは、セシリアは公爵家の末娘……公爵令嬢と呼ばれる身分の子だった。
レイはと言えば……王子の姿と名を無断使用していた大きな猫の姿をした、ゼンという名の霊獣?のようだった。
彼は濃い魔力を纏った…怒りのオーラもたっぷり纏った、青い髪の魔術師に引きずられるようにして、帰っていった。
(あの魔術師……騎士団の魔術師のローブを着けていたけど、人間じゃ無い…絶対に人間じゃ無い。そう思って警戒と共に、濃すぎる魔力に怯えていたのだけれど……)
ちなみにレイのような金髪はメアリローサの人族では王家以外にはあまりいない髪色なのだそうだ。
それもあってレイ…の姿を無断使用していたゼンにあの魔術師は激怒していたようだった。
そして、ボクの髪色もそれと同じくらいに珍しい髪色なのだと言われた。
満面の笑みを浮かべた風の乙女に。
しかも、風呂場で。
……思い出すだけでもゾッとする。
******
教会からそれぞれ保護されていったあと、ボクはなぜか王宮の一室へと案内された。
そしてそのまま湯気が広がる石造りの部屋に案内されると、あっという間に服を脱がされてしまった。
「だっ…大丈夫…ですっ!」
「はい、では、お手伝いいたしますね」
二人の年配の女性……メイドが笑顔でじりじりと近づいてくる。
「一人で…でき、ますっ!」
「はい、では、こちらへどうぞ」
(……話を、聞けっ!)
手にはタオルにブラシにハサミに…石鹸、石鹸、石鹸……。
石鹸だけで何種類あるんだろう?
楽しげに笑顔でじりじりと…距離を詰められる。
「御髪も整えてさせて戴きますね」
「…あっ!…」
触れられそうになった所で、身を低くして躱して逃げようとすると、不意に首を後ろから大きく掴まれて……力が抜けて動けなくなる。
掴んだ腕の主を見上げると、2人のメイドのうちの比較的若い方がにこりと微笑うと、そのまま抱え上げられてしまった。
「ダメですよ?……それと。獣人がご自分だけだとは、思わないでくださいませね」
予想外に強い力で掴まれて、必死の抵抗すら叶わず……メイドの言葉に驚き顔を見上げると、瞳の色がくるりと反転するかのように黒い瞳孔が大きく開き、緑色に光った。
……あの目は猫系の獣人の特徴だ。
「……一人で、できるので……一人に」
『あらあら…久しぶりに見たわね。なんて可愛らしいのかしら!』
水浴びなら一人でできる。身体だって一人で綺麗にできるよ!そう必死に説得しようと思った所で、今度は鈴の音のような女の子の声が浴場内に響いた。
「だ、だれっ?!」
『初めまして!風の乙女と呼ばれているわ』
ふわりと笑みとともにスカートを広げるように優雅な礼をすると、人差し指をくるくると回す。
その指を見てしまった直後、全身が脱力した。
力が入らなくなって、指を動かす事すらだるい、そんな感じになった。
「えっ…?ちょ…と……動けないんだけどっ!」
「ありがとうございます」
猫系の獣人のメイドはボクを抱えたまま、風の乙女に礼をすると、いつの間に準備したのか、湯が張られた浅めの湯船に入れられてしまった。
……里で養母が赤ん坊の身体を洗う時にやっていたのと同じに、首を支えられて身体を洗われていく。
ボクは赤ん坊じゃ無いのに……。
『うん、しっかり洗ってあげてね……宰相の末娘は本当に珍しいものばかり集めてきたのね』
宰相の末娘……セシリアのことだ。
集めてたのはあのシスターだろう…そう思ったが、そんなことより何より……。
この状況は、何なんだ?!
「ちょっ…えぇぇ……動けない…」
「すぐ終わりますからね」
いろいろな意味で、終わった気がした。
メイド達は仕事だからしょうがないと思えば……ここは王宮だし、何とか我慢する。
しかし、後から乱入してきてボクの身体の自由を奪い、なおかつそのまま風呂を堂々と覗いてるあの女の子は何者なのかと泣きそうになっていると、耳のそばで小さく「あれは精霊ですよ」とメイドがささやいた。
『そんなに恥ずかしがることでも無いんじゃないの?幼生は大人に洗ってもらうものなのでしょう?』
「ひ…一人で出来るようになれば、一人だよっ!」
『そうなの?』
精霊……風の乙女は不思議そうな顔で小首を傾げながら、メイドに声をかけると、ボクを洗いながらメイドは軽く首を横に振った。
その動作だけで、ボクは軽く絶望をしたわけだけど。
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