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はじまりはじまり。小さな冒険?

207、褒めて。

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カートの側にはいつの間に移動したのかレオンハルト王子とエルネスト。
そうそう、シュトレイユ王子は……父様に抱っこされていた。
父様が動くたびに、足が力無くふらりと揺れている。
……泣いちゃってたし、疲れて寝ちゃったのかな?

カイルザークはぺこりとお辞儀をすると、カートの上の石板へと手を伸ばす。

すると少ししてから、ぼそぼそとルークの声が聞こえ始め、言葉までははっきりと聞き取れなかったのだけど、その声に呼応するかのように魔術師団の団員達がざわめき出す。


(カイは魔力値が高かったはずなんだ。『獣人の中では高い』のではなくて、人族の中でも高い。相性の良かった属性は確か土だったはず……なので、最初に団員の動きを止めたのは、土の魔法は、カイだったのだと思う)


でもね、私が知ってるのは研究室に来た時の測定値だから、今がどうなってるのかは正直わからない。
だって身体が縮んでるんだよ?

状況的には若返ったみたいだけど、それって、今まで培ってきたスキルはどうなったのか?
巻き戻されちゃったのなら、知識として知っていても今は使えない。
逆に大人の時の能力のままに身体が若返ったのなら、ただただ身体が小さいだけで、昔のままに使えるって事になる。


(ま、筋力に関しては…体力もだろうけど、ある程度は巻き戻されてると思うんだよなぁ。腕とか幼児特有のぷにぷにだもんね。自分の愛用だった武器も支えきれずにふらついていたし?)


まぁそれは私にも言える事なんだけどさ。
私の場合なんて、若返ったとかじゃなくてそもそも身体が違うわけだし。


測定が完了したのか、カイルザークはぺこりとお辞儀をすると、一目散に私の元へと戻ってきた。
良い結果だったのだろうか?しっぽが嬉しそうに大きく緩やかに揺れている。


「ん~……相性変わってた、と思う。寝てた影響かなぁ?」


寝てるだけで属性が変わるとか……って『寝てた』のは魔道学園の卵の中でってことかな?
でも、ルークが覚醒してたって言ってたしなぁ。
もしかしたら覚醒の影響かもしれないよね?


「おめでとう?」

「うん、ありがとう!」


嬉しそうにふわりと笑いながら、カイルザークは手を差し伸べる。
手を添えて恭しく優雅に立ち上がり……ではなくて、なんとか引っ張り上げてもらって立ち上がる。
うん、腰が抜けたみたいになってたの忘れてたわ……。


「ありがと!……っと、いってくる!」

「セシリアも頑張って?あははっ」


少し休んだからか、足がぷるぷるしつつも、なんとか歩けるようにはなっていた。
父様が、なにやらはらはらした様子で私を見ていたけど、大丈夫、頑張りますよ?
俄然やる気が出てきたよ!


「またとばされないように、がんばるっ!」

「そっちなの……」


いや、今、こんなふらふらの状態で魔道学園に飛ばされたら、施設内がいくら安全だと言ったって致命的だからね?
しかも一人でとかだったら……帰還方法がわかっていたとしても、ゾッとする。

絶対に発動しませんように……!と、どきどきしながらカートへと近づいていく。
ま、なるようにしかならないもんね、と開き直って顔を上げると、魔術師団員達の会話が耳に入った。


「光持ちの獣人とか……どんだけ珍しいんだよ」

「いや、属性もだが魔力量も……」

「3種持ちはエルフと王族以外では初めてじゃないか?……」


光持ち……?
カイルザークは持ってなかったと思うんだけど。
まぁ持ってなくても、研究室では使ってたといえば使ってたから、あんまり違和感なさそうだけど。
やっぱり卵になって寝てた時に……何かあったのかしら?
まさか、本当に人体実験!?

まさかね?と思いつつ、カートの前になんとか到着して、カーテシーをしようとして膝から崩れ落ちかける。
傍で、ぶふぉ!とか……どう聞いても、レオンハルト王子が激しく吹き出した音が聞こえたけど、完全スルーすることにした。

とりあえず挨拶は声だけで!


「おねがいしましゅ!」


あぁぁ…。
また噛んだ。
どうしてこう肝心な時に!?

ぐふっ!とか、がはっ!とか変な声が継続的に聞こえてくるんだけど、超絶スルーで!
ていうか、レオンハルト王子!なぜ私ばっかり笑うのよ!?
……後で覚えてなさいよ?と思うのも、いい加減疲れてきたので次回の勉強会の時に仕返しをしようと心に誓う。


「セシー、触るだけだぞ?そーっと触るだけ、な?」

「はい」


石板に手を伸ばしたところで、父様が祈るような声で話しかけてきた。
あれだね、小さな子供がガラス製品や瀬戸物売り場なんかに迷い込んじゃった時の、あの親の表情ですよ。

……大丈夫ですってば!
セシリアは頑張ればできる子なんですよ!……頑張れば、ね。

任せてくださいよ!と、小さくゆっくり頷くと、ものすごく不安な顔をされた。
どういう事っ?!

ほぼ無表情のルークの隣で、信号機のように赤青黄色と顔色や表情がころころと変わる父様。
今度こそちゃんとできますよっ!


(娘が心配なのはわかるけどさ、その反応はどうかと思うよ?)


とりあえず、また魔導学園へと飛ばされない限りは特に大きな問題は起きないと思う。
そう思いつつ、そっと石板へと触れる。

石板は私の手が触れているあたりから、ぶわりと紫の光を広げていき、四方までその光が行き渡ると、文字が浮かび上がり始める。

うん、見慣れた文字列だった。
……シシリーいぜんより火と光と風の適性が上がってる気はしたけど、まぁ、前前世いままでと特に大きくは変わってなかった。
火と光と風については、きっと父様と母様から遺伝として受け継いだものだと思うし……という考えに至ると、嬉しくなって思わずにんまりとしてしまう。

そんな文字列を凝視するようにしていた父様が、んんっ?と、唸り声を上げた。


「……あー。ハンス?。この石板は以前のと同じ作りのものだよな?」

「そうだが?……何か?」


ハンスルークは石板に浮かび上がる私の属性をメモしていた手を止めると、怪訝そうに顔を上げる。

何か変なものでもあったかな?と、再度覗き込むが、特に何もない。
魔力値と、各属性値、あとは……下の方に契約精霊の属性が出てるくらいだけど、それだって特に変なことは書かれていない。


「……見たことのない文字列があって…読み取れん」

「ふふっ。それは…セシリアが優秀な証拠だよ」

「優秀…うん、優秀だな。優秀…なのか?」

「とても、優秀だ」


父様が褒めてくれた…のかな?何かぶつぶつと言ってるけけど、褒めてもらえたことにしとく。
ルークも褒めてくれた!これから頑張って伸ばすぞー!!!

そんな父様とのやり取りの中、今まで無表情だったルークが、まるで自分が褒められたかのように嬉しそうにくすくすと笑いだす。
端正な顔に突如として広がっていく優しげな笑みに、私は毎度の事ながら思わず見惚れてしまうのだけど……気づいたのですよ。

父様も魔術師団の団員さんたちも、ルークのその様子を目にした途端、何か見てはいけないものを見てしまったかのように、はっと目を逸らしたり赤面したり……。
同性でも、見惚れちゃうんだ?
綺麗だもんね……本当、ルークの美貌が羨ましい。

そんなルークは「メモが終わるまで待ってくれ」とでも言うように、片手を小さく上げると一気にメモを書き上げていく。


「優秀……まぁ多芸なことは分かったが……」


多芸、ですと?!
父様、言い方!!!
それは褒め言葉じゃないと思うんですよっ!!!

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