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はじまりはじまり。小さな冒険?
210、仲間。
しおりを挟む「そして、レオン王子もレイ王子も魔術学園へ入学となれば、その成績や魔力の高さから否応無く生徒達のトップ、つまり目標とされる立場になるだろう。そしていずれ外交や国の仕事を手伝うようになった時、これは国のトップという扱いだね。そういう人の上に立っている時に無意識にでも、差別を助長してしまうようなことが絶対にないように、学んでもらいたいと思っているんだ」
……父様は前世での道徳のような授業を王子達に。と、思っているようだった。
道徳は人の気持ちを育てるものだから、正直一辺倒な正解っていうのは存在しないと思ってる。
それでも、少しでも優しい行動が取れるように、考える余裕ができるようになれたら…どんな時代になっても、きっと良い統治者でいられる。
「まぁトップが率先して差別してたら、その下につく人間はそれに従っちゃう、というか従わざるを得ないもんねぇ」
あはは。と、カイルザークが肩をすくめる。
父様の説明に、レオンハルト王子の返答は?と思い、視線をやると悲しそうに俯いていた。
「幸い、エルネストやカイルザーク、ユージアは縁あって公爵家へと迎える事になった。こうなると彼等は私の家族だ。その姿や特性だけで謂れのない差別を受けることは、私が絶対に許さない。それと同じに、王子達は晩餐会で彼等と楽しく過ごせていた、今も一緒に勉強を受けている……そんな共に学ぶ仲間が、どこかで差別されて辛い思いをするとしたらどう思う?」
「それは…イヤです」
「そうだな、そしてだ『差別は良くないことだ』という知識から、王子として、義務として、ただ漠然と行動するのと『仲間が辛い思いをしないように』と行動を起こすのと……手伝う立場から見たとしても、どちらを率先して手伝いたいか……優先順位をつけるにしても扱いが変わってくると思わないかい?」
レオンハルト王子に視線が集中する。
周囲も静まり返った中で、シュトレイユ王子を「よいしょ」と抱き直すと、父様はレオンハルト王子の前にひざまずき、頭をぽんぽんと撫でた。
「たったこれだけ。そう思うかもしれないけど、それでも、周囲へと伝わっていく熱量が違ってくる。……これは種族への差別だけではなくてね、どんな事に対してもだけど、誠実に対応できるように、困っている相手への理解度を深めていって欲しいと思う」
ん~、相手の立場に立ってみる。親身になる。そう言いたいのかな?
父様は「まだ難しいかなぁ」と言いつつ笑っているが、そうだね、いずれは国のトップになる王子達に、その優しさを教えられたのなら、ゆっくりかもしれないけど、優しい国へと変わっていけると思う。
「……風邪をひいた時に、優しく看病してもらえると嬉しいよね?それと同じように、辛い状況の人ほど優しく、助けられるようになると良いねってことかな?」
にこりと笑みを浮かべながらカイルザークが捕捉のように話すと、レオンハルト王子は理解できたのか小さく頷いていた。
父様がちらりと私にも視線を送ってきたのがわかったので、私にも理解して欲しかったのかな?と思い、胸を張って答える。
「くわずぎらいを、するな!でしゅ…です、ね!」
父様がシュトレイユ王子を抱えたまま崩れ落ちるのが見えた。
あれ?簡潔にまとめすぎたのかな?と思い隣りにいたカイルザークへと目をやると……耳としっぽがピンと真っ直ぐに立っていた。
えっとこれは『驚愕!』……驚愕!?
「ええぇ、僕達、食われちゃうの……」
「ぶっ……私っ、は…好き嫌いは、なっ…い。ない…。ははっ…」
「レオンっ!……あ、大丈夫そうだな。なら、良いや」
いや、エルネスト、良くないよ?全くもって良くない!
エルネストはレオンハルト王子の爆笑我慢病を落ち着かせようと、構えてたらしいけど、レオン王子は珍しく普通に笑ってる。我慢してないから介抱の必要は無いよね。
あははっ!と、声を上げて思いっきり笑っているレオン王子。
両サイドからさらさらとこぼれる金髪が、春のやわらかな木漏れ日を受けてキラキラと輝く様は、まさしく王子様!と言った感じで……御令嬢であれば見惚れてしまうんだろうなぁ。
ま、やっぱり少しだけ笑いが激しくて、相変わらず頰は紅潮気味だし、瞳は涙ぐんでるけど。
それはまぁ、良いこと…あ…『良いこと』ではないっ!
そうやって笑う、笑いの対象がいつもセシリアなのは勘弁してほしい。
ていうか、なんで私なのさ……。
「……かむのは、しょうがないでしょ」
「すまん。どうしても…面白くてっ……!」
思わずジト目になる。
ぐふぉ!とか、げふぅ!とか変に笑いを堪えられているよりは傷は浅い!…と思うけど、ここまでハッキリ笑われるのも、やっぱり傷つくのですよ……?
「でも……ちゃんとわらえてるから、ゆるしゅ……ゆる…すっ!」
「ぶふっ!ほらっ!かんっ…じんなっ所で、しっかり、噛むからっ……!」
……許したらこれだ!
ていうか、許せない。何より自分の滑舌がっ!!!
どうしてこうやって肝心な所でこそ、しっかり噛んじゃうのよ…。
「あははっ…セシリア、火に油注いじゃってるよ?」
「うわっ。我慢も苦しそうだったけど、この爆笑も止まる気がしない……レオン、大丈夫か?」
カイルザークとエルネストまで、一緒に笑い出しちゃってるし、ひどいよね。
とりあえず2人の声に「だめかも」と、小さく呟いたレオンハルト王子の声が耳に入ったけど、気にしない事にして、レオン王子に近づく。
「うん、ちゃんとわらってるレオン王子、カッコイイね」
「え…っ!」
「カッコイイよ」
肩につかない程度の長さの、サイドの長めの髪が、笑いすぎの影響でハラリと顔にかかっていた。
両サイドへと手を伸ばして、髪の位置を整え、ついでにほっぺをうにうにしといた。
……笑われた仕返しに。
「うん、カッコイイから、いっぱいわらってね?」
思わずにこりと笑みが浮かぶ。
ただ、笑い続けていたはずのレオンハルト王子は、目を見開いたまま固まってしまっていた。
笑いは止まったけど……いや、表情も止まっちゃっていたけど、顔はどんどん赤くなっていった。
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